All Chapters of 元夫の目は節穴?名門令嬢が電撃再婚!: Chapter 511 - Chapter 520

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第511話

景は低い声で言った。「絃葉は今、妊娠しています。彼女の安全は、私が全力で守ります。祐一郎さんからも彼に警告してください。もし今後も絃葉に危害を加えようとするなら、私は決して見逃しません。必ず最後まで責任を追及します」祐一郎の表情が引き締まった。「次があれば、あいつにいかなる権限も与えない。もといた場所へ送り返す」景がわざわざこの件を持ち出したのは、祐一郎のその言葉を聞くためだった。祐一郎が問題の重大さを理解した以上、景もこのめでたい日に、これ以上話す必要はないと判断した。そこで話を切り上げ、絃葉とともに書斎を出た。ようやく、この日を迎えることができた。景は西尾家の婿となる者として正式に家を訪れ、家族と初めて食卓を囲んだ。景は終始、謙虚で礼儀正しく振る舞った。食事の席で見せた教養と洗練された立ち居振る舞いによって、まともな教育を受けずに育った健二は、ますます見劣りしていた。景が成長してからというもの、祐一郎が彼について知ることの多くは、重久から聞いた話だった。景は多忙であり、祐一郎も実際に彼と接する機会はそれほど多くなかった。しかし、こうして間近で接してみて、祐一郎は改めて感じた。景の言葉遣いや振る舞い、そして身にまとう雰囲気は、若くして亡くなった自分の息子――絃葉の父親と本当によく似ていた。祐一郎は、この未来の婿を見れば見るほど気に入った。何度も景へ視線を向け、国内外の情勢や多磨城の経済界について語り合い、それぞれの考えを交わした。二人はひどく気が合い、さまざまな物事に対する見解もよく一致していた。景の姿を見ていると、祐一郎は何度も錯覚しそうになった。もし息子が当時、恋にすべてを投げ出して妻を追いかけ、海外へ渡ったりしなければ、今頃は景のように実業界で目覚ましい活躍を遂げ、自分の誇りとなっていたのではないか、と。祐一郎は、そうした思いをすべて胸の内にしまっておいた。そして使用人たちに、特別に豪華な夕食を用意させた。窓の外では冷たい雨が降り続いていたが、リビングは和気あいあいとした温かな空気に包まれていた。絃葉は、祖父が景へ向けるまなざしに称賛の色が浮かんでいることに気づいていた。景が早くも西尾家に溶け込んでいることも感じられた。――本当によかった。絃葉は、景が緊張したり、
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第512話

依子は驚愕して顔色を変えた。彼女はとっくに、この屋敷の女主人になったつもりでいたからだ。長く暮らしているうちに、祐一郎とは事実上の夫婦になったと思い込んでいた。もっとも、祐一郎が彼女と同じ部屋で寝たことは一度もなかった。だが依子からすれば、祐一郎は長年独身を貫き、自分もすでに夫を亡くしている。しかも二人の間には、健二という共通の息子までいた。ならば当然、老後をともにする相手だと思っていたのだ。まさか祐一郎がここまで容赦なく、はっきりと出ていくよう命じるとは思ってもみなかった。依子の顔はたちまちひどくこわばった。気まずそうに箸を置くと、悔しさと悲しさで目に涙を浮かべた。「私がここに残ったのは、お世話をしたかっただけで。私は――」しかし祐一郎は首を横に振った。「私は長年一人で暮らしてきた。一人の生活にはもう慣れている。誰かがそばにいると、かえって落ち着かない。それに、私の身の回りを世話する者なら十分にいる」依子は唇を強くかみ締めた。それでもまだ諦めきれずに言った。「分かりました。戻るのは構いません。ただ......祐一郎さんに世話が必要なくても、健二の二人の子どもはまだ小さく、誰かの手助けが必要な時期です」健二がすぐに話を引き取った。「そうだよ、父さん。二人とも母さんに育ててもらったようなものだし、普段からおばあちゃんに懐いている。この屋敷には部屋も十分に余っているんだから、いっそ――」祐一郎は健二をちらりと見た。その目には複雑な感情が浮かんでいた。「それなら、お前たちも母親と一緒に出ていけばいい。私は静かな暮らしに慣れている。たまに顔を見せに来るだけで十分だ」リビングは一瞬にして静まり返った。亜由美はすぐに健二の腕を引き、それ以上話さないよう合図した。絃葉はその光景を見つめ、胸が晴れるような思いだった。先ほどの景の言葉が、祖父の心にあった不安を完全に取り除いたのだと分かったからだ。祖父は、健二を息子として心から受け入れていたわけではなかった。ただ、西尾家を継ぐ者がいないという焦りから、最後の頼みの綱として、彼をつなぎ留めようとしていただけなのだ。しかし、このところの健二の振る舞いも、世間からの評判も、期待とは程遠いものだった。若い頃の祐一郎とは、あまりにもかけ離れている。きっと祖父
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第513話

本当に、どこまでも思いやりのある人だ。何をするにも、いつも彼女より先に考えてくれる。絃葉は少しも頭を悩ませる必要がない。しかも、すべてにおいて彼女の気持ちが最優先されていた。絃葉は口元をほころばせ、思わず景の胸に寄りかかった。どんなときも守られているという安心感と、揺るぎない信頼感。これまでの彼女が、一度も味わったことのないものだった。景が正式に西尾家を訪れたあと、絃葉も祖父の手配に従い、心を込めた贈答品を携えて築山家へ正式な挨拶に出向いた。静代は彼女が訪ねてきたことを快く思っておらず、最初から最後まで不機嫌な顔をしていた。しかし重久をはじめ、ほかの者たちは皆、絃葉を非常に温かく迎えた。絃葉は気に留めなかった。どうせこれらは、けじめとして必要な挨拶と手続きにすぎない。少し面倒ではあったが、何もしなければあまりに軽々しく見えてしまうため、彼女もすべて慣例に従った。築山家はこの縁談を重んじていることを示すため、家で食事会を開くのではなく、多磨城で最も格式の高いホテルに席を設け、晩餐会を催した。両家は仲人役も招き、その立ち会いのもとで、正式な婚約の日取りと結婚式の日取りを決めた。景の基本的な考えは、絃葉に与えるべき敬意も、人生の節目にふさわしい特別感も、一つ残らず十分に用意するというものだった。だが同時に、何よりも大切にしていたのは、絃葉に負担をかけないことだった。だから景は、何も考えず、何一つ心配しなくていいと彼女に伝えた。絃葉はただ静かに、その日を楽しみに待っていればいい。景が王子様のように迎えに現れ、生涯で最大の誠意と、偽りのない真心を携え、結納から婚礼まで正式な手順を一つ一つ踏み、盛大に彼女を花嫁として迎えるその日を。一生に一度しかない結婚式だ。景は、あらゆる形で絃葉をどれほど大切に思っているか、彼女自身に感じてもらいたかった。絃葉は、ますます強く感じるようになっていた。家で二人きりで過ごしているときの景は、日に日に甘えん坊になっていく。まるで幼い子どものように、際限なく彼女を頼り、そばを離れようとせず、いつもキスをしたり、抱き締めたり、抱き上げたりしたがる。しかし人生を左右するような大切な場面では、逆に絃葉のほうが、世間のことを何も知らない子どものようになっていた。た
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第514話

絃葉は電話を切ったが、その顔は紙のように青ざめていた。異変に気づいた景は彼女の手を握り、その体をすっぽりと腕の中に包み込んだ。「悠さんに何があった?」絃葉の声はかすかに震えていた。「私と同じで、妊娠したの。でも今は病院にいる。最近はあまり連絡を取っていなかったから、彼女と江越さんの間に何があったのか、私には分からない。だけど、子どもを諦める決断までしたということは、きっと深く傷つけられたんだと思う」それを聞いた景は、迷うことなくスマホを取り出した。「俺から湊に事情を聞く。もし本当にあいつが悠さんを裏切ったのなら、俺が悠さんのためにきっちり責任を取らせる」景の落ち着いた口調を聞き、絃葉の心も少し安らいだ。彼女もスマホを取り出し、悠にもう一度メッセージを送って励ました。そして、自分が戻るまでは必ず待ち、何も決めないよう念を押した。同時に運転手には、安全を確保できる範囲で、できるだけ急いでほしいと頼んだ。景が湊に電話をかけると、すぐにつながった。「あれ?お前から電話してくるなんて珍しいな。どうした、そろそろ祝いの食事でもおごってくれるのか?」景は厳しい口調で尋ねた。「細谷悠が妊娠していること、知ってるのか?」電話の向こうで、何かが床に落ちる音がした。ひとしきり物音が続いたあと、驚愕した湊の声が再び聞こえてきた。「そんなはずが......彼女とは少し前に別れたんだ。それ、本当なのか?」景は眉をひそめた。「自分の子どもではないと言いたいのか?」「違う、そうじゃない!」湊は慌てて説明した。「俺は何も知らない。彼女からは何も聞かされていない。彼女今、どこにいる?」「海城市立病院だ」湊は数秒間、黙り込んだ。「今すぐ行く」「待て」景の口調は、さらに厳しいものになった。「先に答えろ。その子どもに対して責任を取るつもりはあるのか?」湊は一瞬ためらった。「......ちゃんと取るに決まってる!今すぐ彼女のところへ行くから」電話はすぐに切れた。景は絃葉へ顔を向け、その手に自分の手をそっと重ねた。「安心しろ。湊は責任から逃げるような男じゃない。ちゃんと彼女と向き合うはずだ」絃葉はうなずいたが、胸の中の不安は完全には消えなかった。今はただ、一刻も早く悠のもとへ駆けつ
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第515話

絃葉は悠の肩に手を添え、混乱している気持ちを整理させようとした。「とりあえず落ち着いて、悠。今からいくつか質問するから、正直に答えてね」悠はうなずいた。「分かった」「悠は、江越さんのことを愛してる?一言だけで答えて」悠は数秒間黙り込んだあと、うなずいた。「うん」絃葉はさらに尋ねた。「おなかの子は、間違いなく江越さんの子なの?ほかには何もなかった?」悠はうなずいた。「うん」「もしその彼が責任を取ると言って、悠と結婚するために自分からプロポーズしてくれたら、赤ちゃんを産んで、彼と結婚する?」悠はためらい、苦笑を浮かべた。「あの人が責任を取るはずないわ。最初から、本当の意味で私と一緒になるつもりなんてなかったもの」絃葉は悠の目をまっすぐに見つめた。「するか、しないか。それだけ答えて」今度の悠には、迷いがなかった。「する」絃葉は再び尋ねた。「じゃあ、母親になる覚悟はできている?」悠は数秒間呆然としたあと、無意識に下腹部へそっと手を置いた。その顔には、思わず幸せそうな表情が浮かんだ。「できてる、けど......」絃葉は彼女の口を手でふさぎ、首を横に振った。「『けど』はなしよ。気づいていないの?悠の心は、もうはっきりと答えを出しているじゃない」悠は言葉を失った。実は絃葉は最初から、景との通話をつないだままにしていた。悠の答えは一言残らず、湊の耳にもはっきりと届いていた。これは病院へ向かう途中、絃葉が思いついた方法だった。絃葉と景は以前から、二人が決して互いに想い合っていないわけではないと気づいていた。ただ、曖昧な関係を長く続けてきたせいで、二人の気持ちが絡まり合っていたのだ。誰かが整理する手助けをしなければ、自分たちの本心に気づけない状態だった。すべてを聞き終えた湊の顔には、抑えきれない喜びの笑みが浮かんでいた。景は何も問いたださず、余計なことも言わなかった。ただ彼の肩をたたいた。「やるべきことは分かったか?」湊はうなずいた。そこにはもう、一片の迷いもなかった。彼はまっすぐ悠のもとへ歩いていった。その前にしゃがみ込み、冷え切った彼女の手を握ると、これまでにないほど揺るぎない口調で言った。「悠ちゃん、ずっと言えなかったことがあ
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第516話

絃葉と景はその光景を見つめ、心から安堵したように顔を見合わせた。喉元までせり上がっていた不安が、ようやく消えていった。あとは二人に任せればいい。景は絃葉を連れ、軽やかな足取りでその場をあとにした。帰り道、絃葉は景に尋ねた。「さっきの質問、江越さんにもしたの?」景はうなずいた。「ああ。あいつの答えも彼女と同じだった。実は湊も、ずっと前から彼女と将来を考えたいと思っていたらしい。ただ、彼女の態度がいつも曖昧だったんだ」絃葉は笑った。「やっぱり、気持ちは正直に伝え合わないと駄目ね。そうしないと、ちょっとしたすれ違いで縁を逃してしまうもの」それを聞いた景は、彼女を腕の中へ抱き寄せた。「だから、俺たちの付き合い方が一番いい。言いたいことはいつも率直に伝えてる」「うん、そうね」互いの気持ちが通じ合えば、あとは自然とうまく進んでいく。湊の行動も早かった。翌日には、恋人が妊娠したことを両親へ伝えた。湊は一人息子で、景より3歳年上だった。これまでにも多くの女性と交際してきたが、結局、誰とも本気で身を固めることはなかった。しかし今回、悠の写真を家族に見せると、両親は彼女のすらりとした華やかな姿を大いに気に入った。そしてすぐに、悠を家へ連れてくるよう湊に求めた。悠の気持ちは、たちまち大きく変わった。彼女は待ちきれない様子で絃葉を食事に誘い、二人は焼肉店で落ち合った。親友同士で同じ時期に妊娠し、ともに結婚することは、幼い頃からの二人の夢だった。まさか今、その夢が本当にかない、しかも親友同士である二人の男性へ、それぞれ嫁ぐことになるとは思ってもみなかった。焼肉店で、悠は上品なナチュラルメイクを施していた。アイボリーのかぎ針編みニットにスキニージーンズ、厚底のダッドスニーカーを合わせ、白黒のニット帽をかぶっている。その姿は病院にいたときとは比べものにならないほど、明るく生き生きとしていた。絃葉は、週末に多磨城へ戻り、両家へ正式な挨拶をしたことを悠に話した。悠も、江越家を訪ねたときのことを語った。彼女はしみじみとつぶやいた。「ようやく長い夜が明けたって感じ。3日前まで、人生が真っ暗に思えて、もう中絶する覚悟まで決めていたの。それが3日後には、結婚の話を進めているなんてね。あのね
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第517話

「ほら、このカード、昨日の夜にあの人から渡されたの。私はずっと、あの人は私に本気じゃないと思ってた。でもまさか......ここまでしてくれるなんて」絃葉の笑顔は、ますます明るくなった。「景の友達なら、悪い人のはずがないわ。私は景の人柄を信じているし、彼が付き合っている友達の人柄も信じてる」「いいなあ。じゃあ私も信じてみようかな」悠は頬杖をつき、幸せそうに頬を緩めた。「そうだ。ねえ、一緒に母親になるんだから、いっそのこと結婚式も一緒に挙げない?絃葉と同じ日にウエディングドレスを着て、一緒に花嫁になりたいな」絃葉はうなずいた。「いいわね。それも昔からの私たちの夢だったでしょう?一緒に花嫁になって、一緒に母親になる。将来、一人が男の子でもう一人が女の子だったら、大きくなってお互いを好きになり、そのまま結婚してくれたら素敵じゃない?」悠の表情は、ますます期待と喜びに満ちた。「それ、いいかも!今は一緒に母親になって、将来は親戚同士になれるなんて......!ふふっ」悠は少し物思いに沈んだ口調で、声を落とした。「ねえ、正直に答えて。5年前の絃葉に、今の生活が想像できた?あの頃、泣きながら私に電話してきたことを今でも覚えてるよ。電話越しに絃葉のつらい話を聞いて、私まで胸が張り裂けそうだった」絃葉は過去を思い返した。今ではもう、はるか昔のぼんやりとした出来事のように感じられ、不思議な気持ちになった。「想像できなかった、かな。あの頃の私は、長く一緒にいれば、自然と気持ちは冷めていく......それが結婚というものだと思い込んでいた。でも今になって分かった。全然違ったの。結婚だって、愛の始まりになれる。正しい相手と出会えさえすれば」「そうだね」悠はうなずいた。「昔の私も、ずっと結婚しない主義だった。女性は結婚なんかに縛られるべきじゃないと思っていたの。でも少しずつ、それも違うと気づいた。20歳の頃の私たちに、その先の人生すべての生き方を決めることなんてできない。大切なのは自分の心に従うことであって、結婚するかしないかのどちらかで、未来を最初から決めつけることじゃないのよね」「そうね。今は結婚しないほうがいいと思うなら、そうすればいい。今、落ち着いて家庭を持ちたいと思うなら、結婚すればいい。結婚することも、し
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第518話

「絃葉?」呼びかけられて振り向くと、少し離れたところに凪杜が立っていた。その傍らには、若い女性の姿もある。「に......西尾社長」彼女は絃葉を見るなり目を見開き、ひどく恐縮した様子で声を上げた。悠も驚いて目を丸くすると、すぐに何か面白いものを見つけたような意味深な表情を浮かべた。「絃葉、これは......」絃葉も目の前の光景に、思わず呆然とした。その女性には見覚えがあった。自社の事業部で働く安部嘉穂(あんべ かほ)という社員だ。愛らしい顔立ちで素直な性格をしており、明るく活発な女性だった。絃葉が事業部の前を通るたび、いつも彼女の楽しそうに話す声が聞こえてきた。ただ、嘉穂はどうやって凪杜と知り合ったのだろう。しかも、二人はすでにかなり親しいように見える。絃葉はその場に立ち尽くし、しばらく何を言えばいいのか分からなかった。嘉穂も絃葉を前にして本能的に緊張したのか、思わず凪杜の背後へ身を隠した。凪杜も明らかに落ち着かない様子だった。絃葉の前まで歩み寄り、彼女の手を取ろうとしたものの、途中で気まずそうに引っ込めた。「君たちもここに来ていたのか?」そう言うと、絃葉に誤解されることを恐れたかのように、慌てて付け加えた。「勘違いしないでくれ。嘉穂さんのことは妹のように思っているだけだ。話が合うから、親しくしているだけで......」嘉穂も凪杜の背後から顔をのぞかせ、会社のトップを前にしてひどく緊張した様子で言った。「そうです、西尾社長。私も、澤木さんのことをお兄さんとして見ていません!」絃葉は、かえって怪しく聞こえる二人の必死な説明に笑いそうになったが、どうにかこらえ、淡々と尋ねた。「そう。二人もバッグを?」凪杜は落ち着かなそうに両手をこすり合わせた。「嘉穂さんが見たいと言うから、俺もちょうど暇だったし付き添ってきただけだ。気に入ったものは見つかった?好きなものを選んでくれ。君たちの分は俺が払うよ」悠は思わず皮肉を口にした。「結構よ。バッグくらい、自分で買えるから。今の絃葉はもう昔のあの絃葉と違うんだから!」絃葉は悠の腕を軽くつつき、やめるように首を横に振った。「気持ちだけ受け取ったわ。二人でゆっくり見ていって」絃葉は悠の腕を引いて店を出ようとした。ところが、凪杜
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第519話

悠がそう言い終えた直後、ショッピングモールの入口から差し込む光が一瞬遮られた。スーツを隙なく着こなした二人の男が、並んで中へ入ってくる。どちらも背が高く、すらりとした体つきをしていた。左側の男は黒いスーツに身を包み、重厚で威厳に満ちていた。眉間には自然と人を圧倒する迫力が漂っている。一方、右側の男は上品なシルバーグレーのスーツ姿で、穏やかで洗練された雰囲気をまとっていたが、その目に宿る鋭い光までは隠しきれていなかった。二人が姿を現した途端、圧倒的な存在感が辺りを支配し、周囲のすべてが彼らを引き立てる背景に変わったかのようだった。悠は目を細め、誇らしそうな笑みを浮かべた。「見て。迎えに来てくれたのかしら?」絃葉はかすかに微笑み、落ち着いた様子で近づいてくる男を見つめた。景は素早く店内を見回し、絃葉の姿を見つけると、思わず足を速めた。「買い物、疲れなかったか?」絃葉が答えるより先に、景は彼女を腕の中へ抱き寄せた。その目には、彼女を気遣う思いがあふれている。その隣では、湊もすでに悠の腰へ腕を回していた。「何か買った?カードは好きなだけ使っていいよ。限度額はないから、遠慮するなよ」悠はうれしそうに湊の胸へ身を預け、ピアニストのように長く美しい彼の指を一本ずつもてあそんだ。「午後に大事な会議があるって言ってなかった?」「会議の途中で君のことが心配になって。ちょうど景から連絡が来たから、一緒に迎えに来たんだ」これまで誰かにこんなにも気にかけてもらったことのない悠は、感動したように目を潤ませた。「本当に?心配なのは私?それとも、赤ちゃん?」湊は目を伏せ、優しい眼差しで彼女を見つめた。「同じことだろう?今の俺にとって、君もこの子も何より大切だ」悠は満足そうに湊の肩をたたいた。「急にそんなまともなこと言われると、どう反応していいか分からないじゃない」「ははは」湊はたまらず、朗らかな笑い声を上げた。「じゃあ、前みたいに軽口をたたき合って、際どい冗談ばかり言っていたほうがいいの?」悠は顔を上げ、いたずらっぽく笑った。「うん。私はやっぱり、そっちの湊に慣れてる。景みたいに、いかにも生真面目そうな男にはならないでね。きっと彼、ベッドの上でも堅そうだもの。絶対そうよ」景は絃葉と手をつなぎ
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第520話

「双子だからって何だよ?うちの悠ちゃんだって――」「だって何よ?」悠はすぐさま湊の耳をつまんだ。「まさか、私にも双子を産めって言うんじゃないでしょうね?」「痛い痛い!違うって!」湊は大げさに降参した。「俺たちの子だって、きっと将来は大物になると言いたかっただけだ!」景は絃葉の肩を抱き、わずかに口元を上げた。「どちらの子も将来有望なら、結婚式も一緒に挙げないか?」絃葉は目を輝かせた。まさか彼らも同じことを考えていたとは思わなかった。「私と悠も、その話していたの。こんなに仲がいいんだもの。一緒に式を挙げたら、きっとにぎやかで楽しいよ」「賛成!」悠は興奮して手をたたいた。「一緒にウエディングドレスを選んで、式の細かい演出も一緒に考えられるの、想像しただけでも楽しそう!」湊もすっかり乗り気になった。「それなら、急いで準備しないとな。二人とも妊娠しているんだから、あまり先延ばしにはできない。来月あたりがいいんじゃないか?アシスタントに言って、スケジュールを空けてもらうよ」「来月?」悠は驚きの声を上げた。「いくらなんでも急すぎるでしょう!私、ちゃんとプロポーズされるのも楽しみたいんだけど!」湊は眉を上げた。「プロポーズしてほしいのか?そんなの簡単だよ」そう言って片膝をつこうとした湊を、悠が慌てて押しとどめた。「待って!そんな適当なプロポーズがある?確かに私たちは順番が逆になったけど、だからといって必要な演出を省くのは絶対に許さないからね!」絃葉は軽く咳払いをし、親友の肩を抱いた。「そのとおりよ。江越さん、悠が妊娠しているからって、プロポーズを適当に済ませては駄目よ。どうすればいいかは......」彼女は意味ありげに景へ目を向けた。「二人で相談してみたら?」景は意図を察し、口元に笑みを浮かべた。「安心しろ。俺はもう計画を立てている」湊もすぐに対抗心をあらわにした。「俺だって景には負けないからな!」四人は笑い合いながら、ショッピングモールを見て回った。絃葉は、前を歩きながら肩を寄せ合っている悠と湊を眺め、長い夜が明け、ようやく光が差したような安堵を覚えた。悠がふいに振り返り、瞳を輝かせた。「そういえば絃葉、私たちが子どもの頃に描いた絵を覚えてる?」
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