翌日。案の定、絃葉はまた遅刻した。車を降りた彼女はノートパソコンを抱え、無意識に腰をさすった。全身がだるく、腰にじんわりとした痛みが残っている。会社の入口には、一人の男が立っていた。腕に抱えた大量のシャンパンカラーのバラで顔が隠れ、誰なのかは分からない。ただ、かなり背が高いことだけは見て取れた。絃葉は特に気に留めることもなく、その男のそばを通り過ぎた。すると突然、聞き覚えのある声が彼女の名を呼んだ。「絃葉、久しぶり」絃葉はぴたりと足を止め、信じられない思いで振り返った。凪杜が花束を下ろす。現れたのは、日に焼けて黒く、引き締まった顔だった。精悍さの中に、以前の端正な面影もわずかに残っている。「帰ってきたんだ。驚いただろ?」絃葉は彼を頭から足元まで見つめたが、一瞬、凪杜だとは信じられなかった。以前にも増して背が高く、ずいぶん痩せて見える。顔には余分な肉が一切なく、右頬には刃物で切られたような傷痕まで残っていた。まるで一気に10歳も年を重ねたかのようだった。かつての甘い顔立ちのイケメンではなく、今の彼は、すっかり逞しい男へと変わっていた。絃葉は数秒間、言葉を失った。「どうしたの、その格好?」「金を稼ぐためだよ」凪杜は笑った。肌が黒くなったせいか、歯がひときわ白く見えた。「今日来たのは、君に報告したかったからなんだ。借金は全部返し終えた。今は手元にも少し資金が残っているから、もう一度起業するつもりだ」これほど早く、どん底からはい上がってくるとは、絃葉も思っていなかった。彼女は淡々と答えた。「そう。よかったわね。地に足をつけて、調子に乗らずに事業を続ければ、きっと大丈夫よ」凪杜は一歩近づき、花束を差し出そうとした。「これからは必死に頑張って、必ず以前のような成功を取り戻してみせる。俺がもう一度立ち直るまで、待っていてくれないか、絃葉?俺は――」しかし絃葉は、彼の言葉をきっぱりと遮った。「凪杜、私と景はもうすぐ結婚式を挙げるの」「結婚式」という言葉を聞き、凪杜の胸は大きく揺れた。「本当にあの男と結婚するのか?絃葉、あんなクソ真面目で堅物な男といたって、つまらないだけだぞ」相変わらず同じことを言う彼に、絃葉は思わず笑った。「自分が何を望んでいるか、ちゃんと分
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