会議室の白い光は、芳人の事務所の照明よりもさらに平板だった。壁も、机も、椅子も、余計な色を持っていない。長方形のテーブルの中央に、美里のノートのコピー、検索履歴の抜粋、交通ICの利用明細、送金記録、倉田とのやり取り、白燈院東京相談室と西峰別院、白焔霊峰寺の資料が、種類ごとに揃えて置かれている。紙の角はきちんと重なり、付箋の色だけがそこに控えめな差異をつくっていた。和希は、その整い方が少し嫌だった。美里が壊れていった順番が、こうして種類ごとに分類され、並べ替えられていくことが、まるで苦しみまで整頓されていくみたいで耐えがたかった。だが同時に、その整い方がなければ、もう自分では何も見られないことも分かっていた。感情のままでは、とっくにどこかで机を蹴り飛ばしていたかもしれない。だから、ここへ座っている。佐伯真由は、和希が思っていたより静かな女だった。年齢は三十代の後半か、四十に届く手前か、そのくらいに見える。濃い色のジャケットに細いフレームの眼鏡。髪はきっちりまとめているが、事務的な冷たさを前に出す人間の結い方ではない。机に肘をつかず、資料を一枚ずつ読む姿勢がきれいで、だから余計に感情を煽る余地がなかった。支援団体の相談室を兼ねたこの会議室で、佐伯は最初から必要なことしか言わなかった。「時系列、もう一度確認します」その声もまた、低すぎず、高すぎず、誰かの感情を不用意に刺激しない温度に調整されていた。和希は、そういう人間が少し苦手だと思った。正しい温度で、正しい順番で、正しい言葉を出せる人間。美里のノートの中身も、倉田の卑怯さも、白燈院の構造も、全部そこへ乗せられてしまう気がするからだ。佐伯は、紙の束を手前へ引き寄せた。まずは都内相談室への最初の導線。深夜の検索履歴。予約確認メール。秋山志保の署名。次に西峰別院への移動と支払いの増額。月例供養、継続祈祷、特別法要。さらに白焔霊峰寺の案内冊子、宿泊修法の説明、総本山への誘導。そして別線として、倉田健介との勤務先経由のやり取り、中絶前後の迷い、押し切られた希望、切られたあとの空洞。それらを一通り見終えるまで、佐伯はほとんど喋らなかった
Last Updated : 2026-04-30 Read more