会議室の机は、もう一人の人間の身体みたいに見えた。長方形の天板の上へ、資料が隙間なく並べられている。鳴海が持ち出した帳簿のコピー。内部共有用の勧誘文言一覧。相談所から別院、総本山へ至る導線を整理した図。送金先の一覧と、親族会社へ流れた金の痕跡。御影清花のテレビ出演歴と雑誌記事の抜粋。黒瀬徹の会計処理に関するメモ。美里のノートのコピー。そして録音データを書き起こした紙。どれも紙でしかない。紙でしかないはずなのに、その上には、もう何人分もの呼吸と躊躇と恥が貼りついているようだった。芳人は机の一辺に立ち、資料を流れごとに分けていた。相談導線。勧誘文言。金の処理。内部共有。被害実例。その区分けに迷いがない。佐伯は反対側で、ノートパソコンの画面と紙を往復しながら、どこを先に表へ出すべきか、どう並べれば外で通るかを検討している。二人とも感情の話はしていない。何が違法勧誘の立証に効くか。どの資料が相互補強になるか。どこで黒瀬と御影を同じ構造の中に置けるか。その話だけをしている。事件線は確かに前へ進んでいた。和希にも、それは分かった。今まで集めたものは、ただの断片ではなくなりつつある。録音は単独でも強い。鳴海の証言は構造を補う。帳簿と送金履歴は金の流れを示す。勧誘マニュアルと家族導線の共有台帳があれば、御影のやわらかい言葉が個人の裁量ではなく、組織の手順だったことも見えてくる。ここまで来たのだと、頭では理解できる。理解できるのに、身体のほうはひどく静かに拒み始めていた。和希は会議机の端に座り、手元に置かれた美里のノートのコピーを見ていた。原本ではない。色も薄く、筆圧も少し平らになっている。なのに、そこに書かれていた言葉だけは、嫌なほど鮮明だった。産みたいと思ってしまった。でも現実的じゃないと言われた。誰にも言えない。苦しい。消えたい。コピーされた紙の上では、それらはただの記述に見える。けれど和希にとっては違う。それは妹が最後まで隠したかった傷であり、他人の机の上に置かれるための言葉ではなかった。中絶。不倫。供養への依存。兄を巻き込みたくないという恐怖。それら全部が
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