会議室の扉が閉まったあとも、廊下にはまだ紙の匂いが残っていた。提訴前夜の確認は終わった。出すもの、伏せられないもの、先に押さえるべき証拠。全部がようやく一本の線になり、和希は自分の口でそれを選んだ。出します。全部。そう言ったときの自分の声が、まだ胸の奥に冷たく残っている。もう後戻りはできない。それを恐ろしいと思う気持ちもあった。だが同時に、今夜はそれだけではなかった。逃げ場のなさとは別の、硬い静けさがあった。美里の人生を、向こうの言葉のまま閉じさせない。そのために、自分が何を差し出すのかを初めて自分で決めた。その感覚だけが、疲れ切った身体の底でかろうじて形を保っていた。和希は会議室の前で立ち止まり、閉じた扉を一度だけ見た。中にはまだ資料が残っている。ノートのコピーも、録音の書き起こしも、帳簿の控えも、全部あの白い机の上に置かれたままだ。けれどもう、それを見返しに戻る気にはなれなかった。今夜は、それ以上触れたら崩れる気がした。少し先で、芳人が扉の鍵をかけていた。金属の小さな音が廊下に響き、それきり静けさが戻る。前なら、こういう時間のあとに沈黙は別の気配を含んでいた。どちらかが少し近づけば、それだけで空気の温度が変わった。眠れない夜をやり過ごすための接触が、いつの間にか二人のあいだに一つの癖みたいに住みついていた。だが今夜は違った。和希は自分でも、それをはっきり分かっていた。疲れていないわけではない。むしろ、ここしばらくで一番深いところまで消耗している。芳人のそばへ行けば、少しだけ呼吸が楽になるかもしれないことも知っている。それでも、今夜それを選んではいけない気がした。明日のために、自分の足で立っていたかった。触れて頭を止めるのではなく、このままの輪郭で夜を越えなければならないと思った。芳人が鍵をしまい、こちらを見る。廊下の蛍光灯は白く、顔色の悪さまでそのまま浮かび上がらせる。和希は自分がひどく疲れた顔をしているのだろうと思った。目の奥が重い。けれど不思議と、足元はふらついていなかった。芳人は一歩も近づかなかった。そのことに、和希はひそかに気づいた。気づいて、少しだけ息が通る
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