リゼルは男が正体を隠すつもりがないのだと理解し、スッと立ち上がる。 話を聞かれたと分かっていても、その男は余裕の笑みを漏らしいつもの雰囲気だ。 セルジオ――屋敷にたまに来る情報屋だが、リゼルはこの男を警戒している。 明らかに騎士のような体の線、掌のマメ、腰の座り方、歩き方、そして時々見せる射るような視線。 それらがただの情報屋には見えない。 オルレインと繋がっているなら、余計に警戒対象になる。 静止を聞かずにその場を去ろうとするリゼルの背中に、セルジオは声を掛けて来る。「あぁ、待って待って。若い女の子がこんな時間に一人歩きは危ないよ?」「お構いなく。成人しております」「へぇ……男爵の家で見た時は、まだ年端も行かないように見えたけど……」 両腕を組み、壁に凭れるようにしてこちらを見ている。 振り返るとセルジオは驚いた様に目を見開いた。「お前、その顔どうしたの? 痣になってるけど……」 ジェイドに殴られた所が、時間が経って痣になっているのだろう。「セルジオ様こそこんな所で何を?」「それはお前に答えるべき事かな?」「いいえ、詮索が過ぎました。行きます」「お前、俺と取引しない?」 そう言われて、リゼルは足を止める。 言葉もなく振り返ると、セルジオはニッコリと笑って見せた。「取引……?」「俺はベル様にもう一度会いたいんだよね」「それは旦那様にご相談なさっては?」「お前はそれで良いの? 世間に素性をバラされたら、都合が悪いんじゃない? 特に炊事場で飼ってる犬とか」 その言葉にリゼルは瞼を伏せる。 セルジオが自分達の事をどれだけ把握しているかは分からない。「お前達はバロー領の出身だろう? 気付いてないとでも思った?」
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