「今回も、違いました」 扉を開けてそう言うと、朔弥さんはすぐには動かなかった。 私の手にあるティッシュを見て、それから私の顔を見た。 次の瞬間、腕を引かれ、額が彼の胸に当たった。 「次も、行きます」 「ああ」 *** 翌週、クリニックで次の周期の予定を確認した。 女医は、焦らせなかった。 ただ、私の基礎体温表と検査結果を見て、少しだけペンを止めた。 「次の判定日は、少し早めに来てください」 「何かありますか」 「まだ、何かと言うほどではありません。確認したいことがあるだけです」 それ以上は、女医は言わなかった。 でも、帰り道、朔弥さんはずっと黙っていた。 私も、何も聞けなかった。 次の判定日までの一週間は、カレンダーの数字がやけに大きく見えた。 朝、体温計をくわえる。 電子音が鳴る。 数字を見る。 それだけのことなのに、毎朝、判決を待つような気分になる。 女医が言った「確認したいこと」は、妊娠という言葉ではなかった。 基礎体温の高い時期が、いつもより少し長く続いていること。排卵日の見立てが、前回より少しずれたこと。薬の影響もあるから、自己判断で一喜一憂するより、早めに来て確認しましょう、という話だった。 それだけ。 それだけなのに、私はその一言を何度も思い出した。 期待しすぎない。 でも、期待しないふりもできない。 そういう日が、こんなに疲れるものだとは知らなかった。 その間にも、知らない番号からのメッセージは途切れなかった。 『今月も通院ですか』 『御門の跡継ぎは、気長に待ってくださるといいですね』 毎日ではない。 けれど、忘れかけた頃に届く。 私たちの通院そのものではなく、こちらが気にする言葉を選んで投げてくる感じが、かえって気味悪かった。 朔弥さんは、すでに外部の調査会社を入れていた。 番号の契約元、送信に使われた端末、病院周辺で同じ時間帯にいた車や人。 拾えるものは拾っているらしい。 ただ、相手も雑ではなかった。 「一条さんですか」 私が聞くと、朔弥さんはすぐには答えなかった。 「近い場所にいる人間の影はある」 「一条さん本人ではない、ということですか」 「まだ断定できない」 その言い方が、余計に嫌だった。
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