父の言葉が、病室に残っていた。 信じることは、黙って待つことではない。 その言葉を繰り返していると、父が薄く目を開けた。 「今日は仕事だろう。忙しいのに悪かったな」 「半休を取っていたから」 言ってから、少しだけ迷った。 「……病院で」 「病院?」 「どこか悪いところがあるわけじゃないの。その……」 言おうか迷った。 でも、父には話したいと思った。 御門家から、産めるかどうかを見られてきたこと。 跡継ぎの話として、私の体を扱われてきたこと。 最初は、子どもという言葉そのものが嫌だったこと。 なるべく冷静に話していたはずなのに、父は怒っているように見えた。 声を荒げたわけではない。 眉を吊り上げたわけでもない。 ただ、点滴のついていない方の手が、シーツの上で強く握られていた。 子供を欲しいと思った瞬間に、御門の言葉に負ける気がしていた。 でも最近、少しだけ変わってしまった。 御門のためではなく。 誰かに急かされたからでもなく。 焦げたパンを見て笑う朝が続くなら、その先にもう一人いてもいいのかもしれない、と。 「私を守ってくれようとした女医さんの新しいクリニックへ行っていたの」 私は父の顔を見た。 「開院祝いを渡すのと……子どものことを相談するために」 私は父の手を見た。 点滴の管が、白いシーツの上で細く曲がっている。 家族がいなくなること。 家族が増えるかもしれないこと。 その二つが、同じ日に胸の中でぶつかっていた。 言いかけて、やめた。 父は、その間を見逃さなかった。 「今、家族の話をしようとしただろう」 思わず黙った。 父は、昔からそういうところだけ鋭い。 「……私、子どもが欲しいかもしれないって思ったの」 こんな病室で。 こんな時に。 でも、父に聞かれたから、言えた。 「御門のためじゃなくて。跡継ぎとか、家とか、そういうことじゃなくて」 父は黙って聞いていた。 「この先、私が私のままでいられるなら。朔弥さんと、ちゃんと選べるなら。そういう未来も、欲しいかもしれないって」 そして、父が倒れたという文字。 「でも、父さんが倒れて……家族って、増えるかもしれないものでもあるけど、いなくなるかもしれないものなんだって、
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