株主総会の会場で、朔弥さんが事務局へ視線を向けた。 「議案採決に入る前に、御門香澄名義の議決権行使について確認します」 冴子の眉が動いた。 その時、役員席の一人が控えめに手を挙げた。 「議長。家庭内の問題を、この場で扱うのは適切なのでしょうか」 責める口調ではなかった。 むしろ、会場を乱さないための確認に聞こえた。 たぶん、同じ疑問を持った人は他にもいた。 過去の家族の話を、なぜ株主総会で。 私も、その線引きが必要だと思った。 「ご懸念はもっともです」 朔弥さんの答えは早かった。 「ですが、これは家庭内の問題ではありません。票の問題です」 冴子の口元が、わずかに上がった。 「香澄のことは、家庭の問題ですわ」 「いいえ」 朔弥さんは、即座に退けた。 「母が、姉は判断できる状態にないとして従前の委任を主張した以上、姉本人の委任撤回と新たな議決権行使をどう扱うか、この場で確認する必要があります」 これは、過去を暴くための時間ではない。 香澄さんの票を、誰の意思として扱うかの確認だった。 そこで久我さんが立ち上がった。 冴子が閉じたはずの香澄さんの票。 その票が、本人の意思として戻ってきた。 それだけでも、会場の空気は十分に変わっていた。 でも、久我さんが口を開いた瞬間、空気はもっと重くなった。 「香澄の意思は、これまでも『判断できない』という言葉で消されてきました。その確認に必要な範囲で、俺と香澄の話をします」 久我さんは、そこで一度言葉を切った。 「……俺は、御門の名前も、金も、家もいりませんでした」 会場が静まる。 「香澄がいればよかった。香澄が、自分の名前で笑っていられれば、それでよかった」 冴子の唇が、かすかに動いた。 でも、言葉にはならなかった。 「俺たちに子どもができたとわかった途端、香澄は御門に戻されました」 会場の空気が、そこで変わった。 子ども。 その一語が出た瞬間、さっきまで私の身体を理由にしていた人たちの視線が、冴子へ移った。 「静養のためだと言われた。香澄のためだと言われた。けれど俺は、夫なのに会わせてもらえなかった」 久我さんの声は、そこで一度だけ途切れた。 「次に会えた時には……もう子どもはいませんでした」 久我
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