ロビーの隅にある面談室へ移っても、香澄は久我の手を離さなかった。 丸テーブルには、職員が置いていった湯呑みが二つある。湯気はもう薄い。 「手紙、本当に届いていなかったのね」 香澄が言うと、久我は首を横に振った。 「一通も」 短い返事の中に、何年分もの空白があった。 会いたい。 あの一行を書くまでに、何度も便箋を替えた。 帰りたい、と書けば、久我は御門へ来てしまう。 けれど、来たところで、あの家は会わせてくれない。 助けて、と書けば、久我はきっと、助けられなかったことを一生抱える。 だから、いちばん短くした。 会いたい。 それなら、ただの妻のわがままに見えると思った。 それなら、外へ出してもらえると思った。 けれど、その一行も届かなかった。 「誰に渡した」 久我の声は静かだった。 責めるためではなく、事実を聞く声だった。 香澄は、すぐには答えられなかった。 母の言葉をまだ疑えなかった、若い弟の顔が浮かぶ。 「……朔弥に」 久我の手に、わずかに力が入った。 「そうか」 それだけだった。 「怒らないの」 「怒っている」 久我は答えた。 「でも、今ここで俺が怒っても、香澄の手紙は戻らない」 香澄は黙った。 「それに、あいつは……」 久我はそこで言葉を切った。 何かを思い出しているようだった。 「朔弥が手紙をどうしたか聞けば、信じられると思う?」 香澄が尋ねると、久我は目を伏せた。 「わからない」 正直な返事だった。 母はいつも、聞く前に答えを置いた。 香澄のため。 御門のため。 静かに過ごすため。 答えだけが先にあり、香澄の言葉はあとから消された。 朔弥は、最初から母と同じだったわけではない。 母に叱られても泣けずに、あとで香澄の部屋の前に立っていた。 香澄が扉を開けると、何も言わずに袖を掴んだ。 でも、大人になった朔弥は御門の側にいた。 香澄の手紙を渡されて、結局、久我には届かなかった。 その二つを、同じ人の中にどう置けばいいのか、まだわからない。 だからこそ、聞かずに決めたくなかった。 「だから、聞きたい」 久我は頷いた。 聞く。 そこまで決めてから、ふと気になった。 「誰から、私の
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