映像通話が切れたあと、冴子からの着信はすべて拒否した。 朔弥さんは、すぐに病室を出ていこうとした。 「どこへ行くんですか」 「母さんのところだ」 「行って、何をするつもりですか」 「二度と君に近づけないようにする」 「もう会社にも病院にも入れないようにしたでしょう」 「足りなかった」 ドアノブへ伸びた手に、力が入っている。 今の朔弥さんを冴子へ会わせたくなかった。 「戻ってください」 「だが」 「お義母様と話しても、離婚届は消えません」 朔弥さんは動かなかった。 「朔弥さん」 私がもう一度名前を呼ぶと、朔弥さんはようやくドアノブから手を離した。 戻ってくる足取りは重かった。ベッド脇の椅子へ腰を下ろすと、両手を組んだまま俯いてしまう。 怒っているのだと思っていた。けれど、固く結ばれた唇を見ていると、それだけではない気がした。 母親に妻を傷つけられ、自分で書かせた離婚届まで使われた。朔弥さんも、傷ついているのかもしれない。 私は手を伸ばし、彼の髪を撫でた。 普段なら誰にも止められない人が、今日はされるがままになっている。 「真尋」 甘えるように名前を呼び、私のお腹を避けて腕を回してくる。肩口へ顔を埋めたまま、離れようとしなかった。 お腹の子のためにあるはずの母性本能が、なぜか戸籍上の元夫にまで向いてしまった。 *** 午前九時すぎ、顧問弁護士が病室へ来た。 机へ並べられたのは、家庭裁判所へ出す書類と、役所から取り寄せた離婚届の写しだった。 夫の署名。 妻の署名。 証人二人の署名。 間違いなく、私たちが書いたものだ。 「提出された時点で、お二人に離婚意思がなかったことを確認できれば、無効を求められます」 弁護士が、申立書を私たちの前へ置いた。 「お二人とも無効であることに異論がなければ、必要な手続を進めます」 「異論はない」 朔弥さんは即答し、ペンを取った。 自分の署名欄を埋めると、私へ差し出す。 「真尋」 私はペンを受け取らなかった。 「少し、考えさせてください」 朔弥さんだけでなく、弁護士まで私を見た。 「離婚したいのか」 「そうは言っていません」 「
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