三日後の午後五時、私たちは御門のホテルへ向かった。 車が正面玄関へ近づくと、朔弥さんが私の手を握った。 「引き返すなら、今でもいい」 「何度目ですか」 「まだ足りない」 私は空いた手で、彼のネクタイを直した。 「近くにいてくださいね」 「離れろと言われても、離れない」 ホテルには別々に入った。 私は正面から、朔弥さんと弁護士は別の入口から隣室へ向かう。車を降りる時まで繋いでいた手が離れると、急に指先が頼りなくなった。 応接室では、澄麗が窓際に立っていた。 淡い桃色の服に、揺れる耳飾り。階段で私へ手を伸ばした時とは違う、穏やかな顔を作っている。 「いらしてくださって、嬉しいわ」 私の後ろを確かめ、笑みを深くした。 「今日は、本当にお一人なのね」 「条件を伺いに来ました」 入口にはホテルの係員がいる。右手の扉の向こうには、朔弥さんたちがいる。 それでも椅子へ腰を下ろすと、扉一枚がひどく厚く思えた。 テーブルには、白いカップが二つ並んでいた。 澄麗がポットを取り、私の分だけに茶を注ぐ。 「カフェインの少ないものにしていただいたの。どうぞ」 榊原さんの声が蘇った。 澄麗さんの前では、飲み物を口にしないでください。 礼を言い、カップを持ち上げた。 湯気が唇へ触れる。向かいの目は、私の口元から動かない。 少し傾け、喉だけを動かした。 「おいしいです」 澄麗の目が、ゆっくりと細くなった。 唇の端が片方だけ、ぬるりと吊り上がる。白い歯が一本、覗いた。 きれいに整えられた顔なのに、その一瞬だけ、人の顔を借りた何かが笑ったように見えた。 背中がぞくりと冷え、反射的にお腹へ手を置きそうになった。 けれど、その衝動を押し殺し、膝の上で指を握った。 「よかったわ」 受け皿へ戻し、スプーンを右へ置く。 打ち合わせていた合図に気づいた係員が、温度を理由にカップを下げた。隣室で封をして、検査へ回す手筈になっている。 澄麗は止めなかった。 私がもう飲んだと思っているからだ。 「階段では、ご自分で足を滑らせた。妊娠中で気が動転して、私に押されたと勘違いした。そう警察へ訂正してください」 まるで、決まった文面を読み上げるような声だった。 「それから、離婚届は争わないこと。朔
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