婚約披露パーティーの夜、私は父と一緒に、御門ホテルの大宴会場に隣接する控室で中継画面を見ていた。 会場には、取引先、金融機関、会社の役員、親族、報道関係者が集まっている。 招待状に書かれた名目は、御門朔弥の婚約と今後の経営方針の発表。相手の名前は、どこにも書かれていなかった。 それでも、誰を紹介する席なのか、招待客の多くは知っているようだった。 画面の端で、宴会場の扉が開いた。 澄麗が、雅臣に手を添えて入ってくる。 白に近い銀色のドレスだった。胸元にも髪にも宝石が光り、係員が引いた椅子には、朔弥さんの席と並べて花が飾られている。 息を呑むほど、きれいだった。 けれど、その笑顔と視線は、ほんの少しだけ噛み合っていなかった。 招待客へ微笑みかけているのに、目は誰も見ていない。隣の空席に朔弥さんが座り、自分へ手を差し出す光景が、彼女にだけはもう見えているようだった。 美しい曲に、一音だけ違う音が混じっている。そんな不協和音に気づいたようで、背筋が冷えた。 会場が小さくざわめいた。 感嘆の吐息だけではない。何人かが隣の客と顔を見合わせ、声を潜めている。 冴子が立ち上がり、澄麗を迎えた。 『よく似合っているわ』 『ありがとうございます。今日をずっと待っていましたの』 二人の声まで、控室のスピーカーへ届いた。 私は左手へ目を落とした。 二本の指輪は、外していない。 「大丈夫か」 隣の父が聞いた。 「うん」 朔弥さんが何をするのか、私は知っている。 澄麗を妻にしないことも、私を迎えに来ることも聞いた。 ただ、壇上でどんな言葉を使うのかは、教えてもらえなかった。 会場では、カメラを向けられた澄麗が笑っていた。 『皆様を長くお待たせしてしまいました』 まだ発表前なのに、婚約者として答えている。 『御門と一条が、これからも皆様のお役に立てますよう、私も朔弥さんをお支えしてまいります』 雅臣も、娘の隣で満足そうに頷いた。 『過去には、身の程をわきまえない者が間へ入り、余計な混乱もありましたが』 雅臣は、控えめに笑ってみせた。 『それも本日で終わりです。両家にとって、今日が新しい出発になるでしょう』 会場のざわめきが、今度ははっきりと戸惑いに変わった。 身の程をわきま
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