出産予定日まであと数日の明け方、新居の寝室で陣痛を告げると、朔弥さんは跳ね起き、枕元の端末と時計を同時に見た。 「間隔は」 「まだ長いです」 「病院へ連絡する」 準備していた鞄を取りに行き、違う鞄を持って戻ってくる。 「それ、あなたの仕事用です」 朔弥さんは鞄を見た。それから私を見て、もう一度、鞄を見た。 普段なら、私が指摘するより先に気づくだろう。仕事で何が起きても、私が慌てていても、いつも私より冷静な人なのに。 朔弥さんは無言で引き返した。 その背中を見ていたら、こんな時なのに、可愛いと思ってしまった。 あの朔弥さんが、私のことで、持ってきた鞄もわからなくなるほど慌てている。 安心させてあげたい。それなのに、嬉しいと思ってしまう自分もいた。 口元が緩んだところで、また下腹が痛んだ。私は腹部を押さえ、膝の上へ顔を伏せた。 戻ってきた朔弥さんが鞄を下ろし、すぐに背を支える。 「真尋」 「大丈夫です。まだ……話せます」 話せると言ったあと、言葉が続かなかった。吐く息に呻き声が混じりそうで、唇を結ぶ。 朔弥さんの腕を掴んだまま、私は目を閉じた。痛みが引くまで、腰に添えられた手を頼りに息を吐く。 ようやく顔を上げると、彼は私の顔を覗き込んでいた。さっきより眉間の皺が深い。 可愛いと思ったことは、今は黙っておこう。 落ち着いてから話したら、きっと困った顔をする。結菜が大きくなったら、この朝のことを教えてあげたい。 朔弥さんが私の肩へ手を回した。 「もう出よう」 私はその腕を握り直した。 「……病院へ電話してからです」 あれだけ準備していた人へ、私が順番を教えている。頷いて端末を取る横顔が愛しくて、痛みの合間に、もう一度笑ってしまった。 連絡を終え、上着を羽織ったところで、足元へ温かいものが流れた。 私が動きを止めると、朔弥さんの顔色が変わった。 鞄を持った朔弥さんを呼び止める。 「破水しました」 「すぐに病院へ行く」 朔弥さんが私を支えた。 今度こそ正しい鞄を持ち、車まで付き添ってくれる。運転手へ病院の名を告げると、私と一緒に後部座席へ乗り込んだ。 車が走り出してからも、何度も私の名前を呼ぶ。 「真尋」 「……聞こえています」 返事をすると、朔弥さんが
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