離婚はしない。 真尋の体は、御門のものじゃない。 聞きたかった言葉だった。 本当にうれしいと思ってしまった。 でも、もう遅い。 昨日までの沈黙も、離婚届を渡された日の痛みも、今さらなかったことにはできない。 義母が、ゆっくりと笑った。 「ずいぶん、真尋さんの味方をするのね」 怒鳴るより、ずっと冷たい声だった。 「あなた、香澄の時のことを覚えているから、そんなふうに言うの?」 その名前が出た瞬間、食卓の温度が変わった。 香澄さん。 妊娠して、何かが起こり、この家の表から消えた朔弥さんの姉。 澄麗だけが、不思議そうに目を瞬かせていた。 香澄さんの名前が落ちた時の沈黙だけは、まだ知らないのだ。 「香澄は弱かったのよ。子どもを失ってから、ずっとおかしくなった」 息が止まった。 子どもを失ってから。 あの淡い黄色の母子手帳ケースが、胸の奥で開いた気がした。 「違う」 朔弥さんが言った。 聞いたことがないくらい、低い声だった。 「姉さんが弱かったんじゃない」 「では、何が悪かったと言うの」 朔弥さんは一度だけ息を吸った。 「この家だ」 食卓から、音が消えた。 義母の顔から、完全に表情が消える。 昨夜、私の問いに答えられなかった人が、母親の前で、香澄さんを壊したのはこの家だと言った。 けれど、その言葉が出たからといって、この家が安全になるわけではない。 義母は静かにカップを持ち上げた。 「精密検査の結果は、いつ出るのかしら」 あまりに自然に、話題が戻った。 いや、戻ったのではない。 この人の中では、香澄さんのことも、私の検査結果も、同じ棚に置かれている。 御門家に必要かどうかを判断するための、材料として。 私は席を立った。 「結果は私が確認します。誰にも開示しません」 「御門の嫁でしょう」 「違います」 声は、すぐに出た。 「私の体です」 義母の目が細くなる。 「失礼します。病院に行く時間ですので」 「真尋」 朔弥さんが呼んだ。 「結果を、俺に話す必要はない。話したいと思った時だけでいい」 胸の奥が、また揺れた。 「……行ってきます」 私は食卓を離れた。 *** 病院では、誰も私を御門の嫁とは呼ばない。 た
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