บททั้งหมดของ 我が子より他人の子?産後ワンオペ妻の離婚: บทที่ 461 - บทที่ 470

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第461話

美紀は深く息を吸い、少し離れた場所へ移動して電話に出た。「お父さん……」すると、電話の向こうから冷たい声が飛んできた。「美紀、お前はいったい何をしてるんだ?やっと盛岡家に戻ってきたと思ったら、いきなりあんな大騒ぎを起こして……今、うちがどれだけ恥をかかされてるか分かってるのか?保雄は海外出張から帰ってきた直後、チャリティーパーティーでの騒動を知らされた。年を重ねてからようやく娘と再会できたことが嬉しくて、保雄は大々的にお披露目の場まで設け、周囲にも堂々と美紀を紹介していたというのに、美紀から聞かされていた話は嘘ばかりだった。離婚して、子供を一人で育てていることは聞いていたが、その子供の出生にあんな事情があるとは知らなかったのだ。今回の騒ぎですべてが表沙汰になり、今では街の有力者だけでなく、国内の財界にまで、保雄のところへ帰ってきた娘が、結婚中に別の男との子供を産んでいたということが、知れ渡っている。保雄も二人の息子も、昔から身持ちは固く、家の中で多少揉め事があっても、外へ恥をさらすようなことは避けてきたのに、ようやく迎え入れた娘のせいで、一族全体が笑いものになってしまった。携帯を握る美紀の手が震える。彼女は慌てて言い訳を始めた。「お父さん、聞いて、そんなんじゃないの!今から帰るから、直接説明させて。お願い。私、本当に一方的に悪いわけじゃないの……」美紀は今にも泣きそうな声で話し、あたかも彼女自身が被害者のようだった。その声に、保雄の声も少しだけ和らぐ。「分かった。じゃあ、とにかく帰ってこい。話は家で聞くから」電話が切れた途端、美紀の胸に焦りが押し寄せた。今の自分は、青木家も佐野家も頼れない。盛岡家が逆転のための唯一の切り札だ。保雄とは再会してまだ日が浅いが、それでも本心から自分を可愛がってくれていることは分かる。この父親の愛情だけは、何としてでも失いたくないし、奈緒のせいで、ここまで手に入れたものを全部失うわけにはいかない。言い訳はすでに考えてある。だが、自分一人で話すだけでは弱いため、誰かに証言してもらわなければ、保雄も簡単には信じてくれないだろう。美紀の頭に浮かんだのは、充だった。今、頼れるのは充しかいない。きっと助けてくれる。これまでも、どんなことがあっても、充は本当の意味
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第462話

充はまた黙った。ここまでいろいろなことが起きた今、美紀に対してはもう本能的な嫌悪感すらあった。正直、これ以上関わりたくないし、放っておきたい。それでも、完全には切り捨てられなかった。何年も前、美紀が充の寝室に入り込み、あと一歩で取り返しのつかない関係になりかけた夜、充は翠からある重大な秘密を聞かされていた。あの日を境に、充の中で美紀への感情は変わり、淡い男女の情のようなものは消え、完全に妹として見るようになったのだった。美紀のことは、幼い頃から知っている。だから、美紀が今どれだけ堕ちても、どんな人間になってしまっても、完全に見捨てることだけはできなかった。眉間にしわを寄せた充は、少し黙ったあと、結局引き受けることにした。「いつ行くつもりだ?」「お父さんが家で待ってるから、できればすぐに。時間が経つほど悪い印象が固まりそうで怖いし……」充は腕時計を見た。午後の2時過ぎ。潮咲市から深津市までは、車で1時間ほどの距離だ。「じゃあ、お父さんを夕食に誘ってくれ。この件は俺から説明してやるから」結局、充は美紀を見捨てきれず、自分が身代わりになることを選んだ。美紀の声がぱっと明るくなる。「充さん……やっぱり、いつでも私のことを一番に思ってくれてるのね!」充は何も答えず、そのまま電話を切った。看護師に黎の病室を聞こうと歩き出したそのとき、廊下の先に奈緒の姿が見えた。奈緒はひどく疲れ切っていた。足取りはふらついていて、目の下には濃いクマがあり、今にも吹き飛んでしまいそうなほど弱々しく見える。泣いたばかりのようで目は赤く充血し、顔色も真っ青だ。充の心臓が、きゅっと激しく締め付けられた。反射的に駆け寄ろうとした瞬間、奈緒の後ろから仁哉が急いで追いついてきた。倒れそうになった奈緒を、仁哉がしっかりと支え、そのまま横抱きにして近くの長椅子へ座らせる。その光景を見た瞬間、充の全身が凍りつき、無意識に拳を握る。今にも二人のところへ行こうとしたそのとき、会話が聞こえてきた。「奈緒さん、ダニエル先生は白血病の疑いがあるって言っただけで、まだ確定じゃないからそんなに思い詰めないで。黎ちゃんはまだ熱が上がったり下がったりしてるけど、専門の看護師を一人つけてある。今は君自身が倒れないことのほうが大事
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第463話

仁哉の表情も険しくなった。奈緒の前にしゃがみ込み、落ち着いた声で語りかける。「奈緒さん、よく聞いて。もし本当に白血病だと分かって、治療が必要になったとしても、僕も君のお兄さんも、世界中を探して黎ちゃんに合うドナーを見つけるから。使えるものは全部使えばいい。きっと見つかる。まだ何も決まってないんだから、今から最悪のことばかり考えないで。もしかしたら本当に、ただの取り越し苦労で終わるかもしれないだろ?」仁哉を見つめた奈緒の瞳はひどく疲れていて、今にも壊れてしまいそうだった。「でも……もし本当に先生の言ったとおりだったら?私、充と離婚できないどころか……もう一人、子供まで作らなきゃいけないの?」奈緒は、それ以上は考えたくなかった。運命に悪趣味な冗談を仕掛けられているような気分だった。充とはもう修復のしようがないほど関係が壊れていて、一日も早く離婚してすべてを終わらせたいのに、もし黎の病気が本当に重くて、ほかに方法がなかったら……自分は充のもとへ戻り、もう一度子供を作らなければならないのか?そんなの……あまりに馬鹿げている。受け入れられるはずがない。奈緒の痛々しい表情を見て、仁哉の胸も締めつけられた。そしてその瞬間、ずっと胸の奥にしまっていたことを、もう隠しておくべきではないと思った。こんな状況を奈緒一人に背負わせるのは、あまりにも酷だ。仁哉は深く息を吸った。「奈緒さん、まだそこまで考える必要はないよ。もし……本当にそこまで追い詰められたとしても、僕が一緒に考えるから、絶対に君を一人になんかしない。それに、僕は君のこと……」ずっと胸の中で温めていた言葉が、今にも溢れ出しそうだった。心臓が急に速く打ち始め、呼吸までわずかに乱れる。今こそ伝えて、少しでも奈緒の支えになりたい。たとえ最終的に、黎を救うために充との間にもう一人子供を持つ道しか残されなかったとしても、自分は奈緒を責めない。どんな時も、奈緒の一番の支えでいたい。もしそれをきっかけに奈緒と充の関係が修復されるのなら、自分は身を引いて、子供たちの叔父のような存在でいればいい。それでも奈緒が充とはやり直したくないと言うのなら、そのときは自分が父親の代わりとして、彼女と子供たちを支えていく。仁哉の中ではもう答えが出ていたから、迷
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第464話

「充、今は……あなたの顔も見たくない。もし私や黎に少しでも悪いと思ってるなら、お願いだから帰って。お願いだから、少し時間をくれない?今はもう、あなたと喧嘩する力も、張り合う力もないの……」そこまで言ったところで、限界が来たのか、奈緒の身体が大きく揺れた。充と仁哉が同時に手を伸ばす。しかし、奈緒は本能的に仁哉の方へ身体を傾けた。仁哉がすぐに受け止めた瞬間、その身体の異常な熱さに気づいた。異変を感じた仁哉は、すぐさま助けを呼ぼうとする。だがその光景を見た充は、胸をえぐられたような痛みに襲われた。仁哉の前に立ちはだかり、その腕を荒々しく掴んで鋭い眼光を向ける。「俺の妻だ!離せ。俺が連れていく」仁哉は焦った声を上げた。「今は揉めてる場合じゃない!奈緒さんの体が異常に熱いんだ。高熱に違いない。頼むから、どいてくれ!」仁哉は充の手を振りほどき、奈緒を抱き上げると、そのままナースステーションへ駆け出した。「すみません!先生を呼んでください!すごい高熱なんです!」奈緒を抱きしめたまま走りながら、仁哉は服越しにも伝わる異常な熱に焦っていた。さらに、抱き上げたその重さに仁哉は愕然とした。腕の中の奈緒は、驚くほど軽い。骨ばった身体が腕に当たるほど痩せている。昔の記憶にある奈緒は、もっとふっくらしていて、頬も丸く、元気いっぱいの女の子だった。それが今は、見る影もない。愛情のない結婚生活。出産後、十分に身体を休められなかったこと。妊娠と出産で消耗したまま、回復する間もなかったこと。そして黎を産んでからも、次から次へと起きた青木家との揉め事……考えれば考えるほど、仁哉の胸は痛んだ。出産は命がけだと言うけれど、その後も母親の生活はずっと続いていくのだから、本当に苦しいのは、出産の日だけではない。今の奈緒は、燃え尽きかけた蝋燭のようだった。このまま誰にも支えてもらえず、身体も心も休めることができなければ、本当に倒れてしまうだろう。黎を産んでからのわずか数か月で、奈緒はすでに何度も体調を崩していた。苦しませたのは充なのに、なぜか仁哉の胸には、どうしようもない後悔が込み上げた。もう何もしないでいることはできない。奈緒が毎日少しずつ枯れていくのを、ただ見ているわけにはいかないのだ。
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第465話

充は、目の前の光景を呆然と見つめていた。処置室に入って行くのは、まだ戸籍上は自分の妻である奈緒。それなのに今、奈緒を守り、惜しみない優しさを注いでいるのは、かつて親友だった仁哉だった。二人の後をずっと追ってきた充は、何度か制止しようとしたが、仁哉が放つ威圧感の前に、一歩も近づくことができない。本来なら、「俺がいる」と奈緒に言う資格が一番あるのは自分のはずだった。なのに今の自分は、仁哉に完全に押しのけられ、ただそこにいるだけの存在になっている。救急処置室のドアがゆっくりと閉まり、奈緒の姿が視界から遮られていく。仁哉はその閉ざされたドアから一瞬たりとも目を逸らさない。その眼差しは、中にいる人間が自分の世界のすべてであるかのような、切実な心配で満ちていた。充はもう我慢の限界で、抑え込んできた怒りがついに爆発する。猛然と駆け出し、拳を握りしめて仁哉の横顔に叩き込んだ。「ふざけるな!俺の目の前で、俺の妻を抱きかかえやがって!もう完全に俺のことを舐めてるだろ!前に俺のことを距離感がおかしいって言ってたけど、今のお前はどうなんだよ?これじゃ横取りどころか、完全に不倫じゃないか!」充の肩は激しく上下し、怒りに染まった目は赤く充血していた。不意を突かれて拳を食らった仁哉は、数歩よろめき、口元からは血がにじむ。仁哉は手で血を拭うと、臆することなく充を見返した。その瞳には、これまでにないほど鋭く、揺るぎない覚悟が宿っていた。「充、いい加減にしろ」それは、低く鋭い声だった。「君に僕を殴る資格があるのか?僕を責める資格がどこにある?」仁哉は、怒りと深い蔑みが入り混じった瞳で充を見つめながら、充に一歩ずつ詰め寄っていく。「奈緒さんが一番つらかったとき、君はどこにいた?出産を終えて、夫に一番そばにいてほしかったときは?青木家の人間に追い詰められて、行き場をなくしていたときは?口では妻だと言うけれど、君は1日でも夫らしいことをしたのか?奈緒さんに一日でも安心して暮らせる時間を与えたことがあるか?言っておくぞ。僕は何も後ろめたいことなんてない。奈緒さんに対してやましいことは何一つない。奈緒さんがつらそうだから心配するし、傷つけられてるから守る。それだけだ。彼女はいい母親だし、いい女性だ。君たち青木家にあんなふうに傷つけられて
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第466話

「随分と奈緒を自由にしたがるんだな?結局、自分がその後釜に入りたいだけだろ?悪いけど、お前の思いどおりにはならないからな。俺と奈緒がまだ夫婦である以上、お前が奈緒を口説けば、立派な不貞行為になる。仁哉、よく考えろ。今ならまだ引き返せるからな。このまま続けるなら、お前の評判なんて簡単に潰れる。上流社会からも白い目で見られることになるぞ」仁哉は冷ややかな目で充を睨みつけ、一歩も引かなかった。「僕は君とは違う。世間にどう思われるかなんて、どうでもいい。僕はただ、奈緒さんに少しでも楽に生きてほしいだけだから。奈緒さんに優しくするのも、守ろうとするのも、彼女を手に入れたいからじゃない。昔みたいに、何も心配せず笑っていた奈緒さんに戻ってほしいんだ」仁哉の言葉に、充は微かな違和感を覚え、表情が少し固まる。「昔?お前、奈緒と子供の頃から知り合いなのか?」数秒後、充の脳裏に昔の記憶が蘇った。そして、はっと目を見開き、仁哉へさっと近づいた。「まさか……前にお前が話してた、あの子なのか?」まだ二人が何でも話せる親友だった頃、仁哉は一度だけ、子供の頃の話をしたことがあった。幼い頃、とても仲のいい友人がいて、よくその家へ遊びに行っていたこと。そして、その友人には妹がいて、よく笑う、明るくていたずら好きな可愛い子だったこと。しかし、やがて友人の家に問題が起こり、その友人は海外へ渡って、母親と妹だけが国内に残った。それから仁哉は、陰ながらその妹を気にかけ、何度か助けてきたという。ただ、名前までは聞いていなかった。充自身も、そのときは大して気に留めず、軽い昔話として聞き流していた。だが、今の仁哉の言葉を聞いて、充の脳裏に鮮烈な記憶が蘇る。仁哉は充から目を逸らすことなく、冷然と言い放った。「ああ。でも、昔から気にかけてたあの子が、まさか君と結婚していたなんて、僕も知らなかったんだ。というよりも、想像すらしていなかった。君が奈緒さんの抱いていた結婚や愛への期待を、ここまで壊すなんてさ」充は何も言えず、その場に立ち尽くした。仁哉は目を細め、拳で充の胸元を強く押した。「もし僕がもっと早く奈緒さんの前に現れていたら、何か違っていたのかもしれないな。昔みたいに自然に話して、また惹かれ合って……そんな未来だってあったかもしれ
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第467話

険しい顔をした医師は、きつい口調で尋ねた。「ご家族の方はどなたですか?」「僕です」迷うことなく答えた仁哉。充も口を開きかけたが、自分が家族だと言うより先に仁哉に遮られた。仁哉の背中を見つめたまま、充は結局何も言わなかった。医師は二人の関係を勘違いしたらしく、仁哉に向かって矢継ぎ早に問い詰め始める。「ご主人ですか?いったい奥さんにどういう扱いをしてきたんですか?ひどい栄養不足で、体重もかなり落ちています。身体も相当弱っていますよ!出産してまだ5か月も経っていないうえに、帝王切開の傷だって完全には回復していないのに、ご家族はいったい何をしていたんですか?ここまで無理をさせるなんて、とんでもないことなんですよ!」仁哉の手がわずかに握り締められ、指先が白くなる。しかし、医師の厳しい視線を受け止めながら、仁哉は言い訳をしなかった。「僕の配慮が足りませんでした」隣に立つ充の表情が、ますます険しくなる。本当の夫は自分だと訂正したかった。だが今ここで口を挟めば、余計に話がこじれるだけで、周囲の人間にも妙な誤解を与えかねない。充は黙ったまま、仁哉が自分の代わりに責められているのを見ていた。胸の奥が重く沈む。医師は仁哉が非を認めたことで少しだけ口調を和らげたが、表情はまだ厳しかった。「これからは本当に気をつけてくださいね。しばらく入院して身体を整え、きちんと栄養を取る必要がありますし、詳しい検査も必要になりますので、まずは入院手続きをお願いします」仁哉はすぐにうなずいた。「分かりました。すぐに行ってきます」医師はそれだけ告げると、処置室へ戻っていった。仁哉が書類を持って歩き出そうとしたとき、充がその手首をつかんだ。低く、どこか複雑な響きを含ませた声で、充が言う。「俺がやるから」仁哉は振り返り、苛立ちを隠さず充を見た。「ようやく、自分が夫として何もしてこなかったことに気づいたか?黎ちゃんが生まれてから今まで、奈緒の身体を一度でも気にしたことがあった?奈緒が今どんな状態なのか、ちゃんと見ようとしたことは?」充は無意識に手を離した。額に冷たい汗が滲む。何も言い返せなかった。実際、そのどれもしてこなかった。黎が生まれてから今日まで、奈緒とはずっと揉め続けていたし、次から次へと問題
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第468話

奈緒にはすでに着信を拒否されているため、充は仁哉にメッセージを送る。【急用ができたから先に深津市へ戻る。奈緒の口座に2000万円振り込んでおいたから、栄養のあるものを買うよう伝えてくれ。数日したら、また奈緒と黎の様子を見に戻ってくるから】メッセージを送るや否や、充はそのまま病院をあとにし、そのまま車を飛ばして深津市へと帰っていった。奈緒が医師や看護師に付き添われて救急処置室から出てきた時、廊下で待っていたのは仁哉だけだった。気を失う前、充も確かにここにいたはずなのに……やっぱりそうだ。自分が本当に苦しいときも、危ないときも、充はいつも最後には頼りにならない。もう期待などしていなかったが、それでも胸の奥には、わずかな痛みが残った。仁哉はすぐに駆け寄り、奈緒の額へ手を当てた。熱が下がっていることを確かめると、大きく息を吐く。「熱が下がってよかった。本当に心配したんだから。うちの母さんと蘭さんには連絡済みで、もうこっちへ向かってくれてるって。黎ちゃんのところにもさっき見に行ってきたけど、今は落ち着いてる。ミルクも飲んだし、ぐっすり眠って、熱も下がってから上がってないから、安心して。今夜、黎ちゃんのことは母さんたちに任せて、僕が奈緒さんに付き添うよ。君もしばらく入院して身体を休めないと。先生が、かなり弱ってるからちゃんと栄養を取るようにって」仁哉は、奈緒が聞きたかったことを一つ残らず先回りして伝えてくれた。黎の熱が下がり、ミルクも飲めたと聞いて、奈緒はようやく胸をなで下ろす。本当は蘭にはまだ知らせないつもりだったが、ここまで来れば隠しておくほうが心配させるだろう。琴葉も一緒に向かってくれているなら、蘭に付き添ってくれるはずだと思い、奈緒の気持ちは少し落ち着いた。「仁哉さん、ありがとう。全部、こんなにちゃんと考えてくれて……」奈緒は心から感謝していた。そして、少し胸が熱くなる。奈緒にとってはずっと、何が起きても自分で抱えて、自分で解決することが当たり前だった。けれど今は違う。何も言わなくても、仁哉が必要なことを一つずつ片づけてくれる。まだ身体はだるく、頭もぼんやりしているのに、心だけは不思議なくらい軽かった。背負っていた重荷の半分を、誰かが黙って引き受けてくれたような感覚だ。仁哉は身をかがめ、奈緒
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第469話

それは、陽だまりを思わせる淡いクチナシの香りだった。妊娠中、奈緒が一番好きだった香り。奈緒が目を向けると、窓辺には白いクチナシを模した精巧なソープフラワーが飾られていた。奈緒は少しぼんやりしたまま、振り返って仁哉を見る。仁哉は軽く咳払いをすると、静かに言った。「病院の消毒液の匂いって落ち着かないだろ?下の花屋で見かけたから買ってきたんだ。生花は持ち込めないから、クチナシの香りがするソープフラワーだよ」少し間を置いて付け加える。「調べたら、クチナシの香りにはリラックス効果もあるみたいだし」奈緒の胸が、ふっと温かくなった。仁哉がここまで細やかに気を配る人だとは思っていなかった。黎を産んでからというもの、奈緒の毎日はミルクとおむつ、赤ん坊の泣き声、それから充や青木家との終わりのない揉め事ばかりだった。だから、自分が花を育てるのが好きだったことも、植物を眺めながらのんびり過ごす時間が好きだったことも、いつの間にか忘れていた。奈緒の表情が自然と柔らかくなり、声も自然と優しくなる。「ここまでしてくれるなんて……仁哉さん、本当にありがとう」仁哉は微笑み、ベッドを病室の中央まで静かに押した。「少し寝てて。食材を買ってきたから、何か作るよ。ここ、ちゃんとキッチンもあるし。できたら起こすから、それまでは休んで」そう言って、仁哉は背筋を伸ばしながら、キッチンへ向かった。奈緒は柔らかな枕に身体を預け、窓辺の白いクチナシを眺めた。鼻先をくすぐる優しい香りに包まれ、ずっと張り詰めていたものが少しずつほどけていく。荒れた海を長いこと漂っていた船が、ようやく港にたどり着いたようだった。奈緒は目を閉じ、そのまま深い眠りへ落ちていった。どれくらい眠ったのだろう。耳元で、自分を呼ぶ声がする。「奈緒、奈緒……」ぼんやり目を開けると、目の前には心配そうな蘭と琴葉の顔があった。「お母さん、琴葉さん」奈緒は我に返り、起き上がろうとした。だが蘭が慌てて奈緒の身体を押さえる。「起きなくていいから、寝てなさい。まったく、あんたって子は……こんな大変なこと、一人で抱え込んで、お母さんにも黙ってるなんて!」奈緒は気まずそうに笑った。「ごめん。お母さんも身体が治ったばかりだし、心配かけたくなくて……」「心配させた
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第470話

そこへ、仁哉が料理を運んできた。美味しそうな香りが病室いっぱいに広がり、その場の3人の視線を一気に引きつける。「できたよ」仁哉は料理を小さなダイニングテーブルへ並べると、すぐ奈緒のそばへ来た。「奈緒さん、具合はどう?少しはよくなった?」奈緒は頷いた。「うん、だいぶ楽になった」「よかった」仁哉はそれ以上聞かず、蘭と琴葉にも声をかける。テーブルには、身体に優しそうな家庭料理が並んでいた。仁哉が一品ずつ説明する。「肉じゃがに、味噌汁、あとは茄子の浅漬けに小松菜のおひたし。あとは、エビの炒め物も作ってみた」どれも彩りがよく、食欲をそそる。奈緒は並んだ料理を見ながら、胸の奥がなんとも言えない気持ちになった。仁哉の優しさは、押しつけがましくない。いつの間にか必要なことをしてくれているのだ。こういう人と付き合う女性は、きっと幸せだろう。美紀は一度は仁哉と結婚したのに、その幸せに気づけなかった。こんな人と夫婦になれたなら、本当はきっと、とても穏やかな毎日を送れたはずなのに。奈緒がそんなことを考えていると、蘭が先に感嘆の声を上げた。「仁哉くん、すごいじゃない!仕事ができるだけじゃなくて、料理までこんなに上手なの?琴葉、いったいどうやって育てたの?どうしたらこんな息子になるのよ」琴葉が得意そうに笑う。「この子が6歳の時から自分で料理させてたの。作らなかったら食べられないって言って。男の子だからって、何にもできないのは駄目でしょう?それに、勉強だけできる人間にもしたくなかったし。だから、家事も仕事も何でもできるくらいじゃないと、将来お嫁さんも来ないわよって、ずっと言って育ててきたの」ところが、そこで琴葉の口調が急に沈んだ。「それなのに……こんなにちゃんと育てたのに、結局あんな相手と結婚して、家の中までめちゃくちゃになって……ほんと、何だったのかしらね……」琴葉のため息とともに、それまで和やかだった空気が止まった。息苦しささえ覚えるような重苦しい空気が流れる。奈緒も箸を持つ手を止める。何か慰めの言葉をかけたかったが、すぐには浮かばない。仁哉もスープをよそう手を止め、眉をひそめる。「母さん、今その話する?」琴葉はため息をつきながら、料理を自分のお皿に取った。「ちょっと思い出しただけよ。
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