佳乃の言葉を聞いた充は、わずかに眉を寄せ、彼女の方へと疑わしげな視線を向ける。「今回、母さんの件を仕切ってるのは須藤本部長だ」佳乃は部屋に入ると、どこか余裕のある笑みを浮かべた。「須藤本部長だから何?父には、もっと上の人にだって伝手があるわ」佳乃はさらに近づき、声を潜める。「あなたのお母さんの件、私なりに調べたの。確かに問題にはなってるけど、金額はそこまで大きくないし、表向きは正規の手続きを踏んでるものも多い。だから、やりようはあるのよ。ただし……」佳乃は充のシャツのボタンに指をかけ、意味ありげに弄んだ。反射的に嫌悪感を覚えた充だったが、必死でそれを堪える。「条件があるなら言え」佳乃も回りくどいことはしない。「今日は奈緒さんと離婚の手続きに行ったんでしょ?どうだった?ちゃんと離婚できたの?」充の目に不快感がよぎる。「いや、ちょっと事情があったんだ」佳乃はさらに聞いた。「事情って」視線をそらした充。「そこまで話す必要はないだろ?それより、本当に母さんを助けられるのか?」佳乃は相変わらず、露骨なほど熱のこもった目で充を見つめていた。そして充の耳元に唇を寄せ、ある大物の名前を囁く。その名前を聞いた途端、充はその場に固まり、信じられない思いで佳乃を見つめた。「本当に……知り合いなのか?」「もちろん。遠い親戚なの。毎年ちゃんと付き合いもあるわ。その人から一言口添えしてもらえば、罰金程度で済ませられる可能性もあるし、厳しくても、何日か身柄を拘束されるくらいでしょうね。あなたのお母さんが長く苦しむようなことにはさせないから」佳乃の口ぶりは、まるで簡単なことだと言わんばかりで、確信的なものだった。充は今、その件で頭を抱えていた。どんな問題を起こしたとしても、翠は自分の母親だ。チャリティーを巡る不正を知った麟太郎は激怒し、そのままこの街を離れてしまった。だが、息子である充には見捨てることなどできない。母を刑務所になど入れたくないに決まっている。もともとは、この件も条件の一つとして奈緒と交渉するつもりだった。だが、そんな矢先に黎が倒れてしまった。充は心の底で考えを巡らせながら、目の前の佳乃をじっと見つめる。その視線に気づいた佳乃は、充の腰に腕を回した。服越しにでも
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