《君に触れたい〜逃した未来は大きかった〜》全部章節:第 51 章 - 第 60 章

94 章節

51話

18時になった。 かすみははしゃぐ気持ちを抑えられなかったばっかりに、一時間も前に待ち合わせ場所である噴水広場に到着してしまった。 かすみの今日の服装はグレージュのウェストスタックワンピースに淡いピンクのフラットパンプスを合わせてみた。 髪はいつも結い上げているのを下ろし、さらに何年も前に買った安物のヘアアイロンで毛先にウェーブ感を出してみた。 さらに、普段は滅多にしない本格的な化粧にも挑戦してみた。 彼女のいう本格的な化粧とは、普段からやっている日焼け止めとアイブロウにさらにプラスαしたものを指している。 下地とクッションファンデ、気になる部分にコンシーラーを叩き込んでベースメイクを作り上げ、目元はアイラインを引き、キラキラとしたアイシャドウを乗せて華やかに。 久々に使ったビューラーでは、誤ってまぶたの際まで挟み込んで痛い思いをしたが、それなりに長さと毛束のあるまつ毛はくるりと綺麗に上がってくれた。マスカラは塗った所から目の水分がもっていかれる感覚に陥るので、しない。 最後に、唇にピンクベージュの口紅を乗せてひとまず完成したことにしてみた。 ファッションやメイクに疎いかすみにとって、今日したおめかしは全てにおいて、正解はわからないがとりあえずはやってみた、という類のものだった。正解がわからないのだから自信もない。正直、すっぴんに近いいつもの状態でいる方が、人前に出やすいくらいだった。 そんな自信のない状態にありながら約束の時間のかなり前に着いてしまったことで、かすみは一人、所在なく噴水の前に立っていた。 彼女にできることは、ただじっと二人を待つことだけである。 視線を伏せていたかすみだったが、ふと上げた目線の先で道行く男の人と目が合った。 びっくりしたかすみは、慌ててその視線を右へと逸らしたのだが、今度はその先で自分と同じように噴水前でたむろしていた三人組の男性たちと目が合った。 彼らは目が合った直後にはかすみから視線を反らせたものの、その後も時折こちらをチラチラと見ては、何か言い合ったり小突き合ったりしている。 その瞬間かすみは、やっぱり、と思った。 やっぱり変だった?似合ってない?というか、もしや一昔前の授業参観で一人気合いが入ったお母さんみたいな、見ていて少しイタい状態になっちゃってる、私⁉︎
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52話

男性は全力疾走でもしてきたのか、苦しそうに肩を上下させていた。それから、楽な体勢を取ろうとそのスタイルの良い腰に手を当てる。 かすみは頭を後ろに引いて、高い位置から自分を見下ろしている黒縁眼鏡をかけた男の顔に目をやる。 と、次の瞬間、かすみは安堵したように微笑んだ。 かすみのその微笑みに、男も荒い息を整えながら優しく微笑み返す。 その後、息を整えることに成功した黒縁眼鏡の男は、背後へと振り返った。そこには若い男が気まずそうに突っ立っている。 黒縁眼鏡の男は、若い男を上から下まで評価するかのように見やった後、ふいにニコリと口角を上げ、 「僕の連れに何かご用ですか?」 そう聞いたのだが、聞かれた若い男は、目線を上げて黒縁眼鏡の男の顔を見るなり「あ、いえ、何でも…何でもないです。」しどろもどろにそう言うと、「すみませんでした!」そう言って頭を下げ、すぐさま踵を返すと仲間たちの元へと戻っていった。 少し離れたところで一連の様子を見守っていた若い男の仲間は、友達が青い顔で帰ってくるなり、「男連れだったんなんてツイてなかったな。背の高いあの男が、お前に向かってものすごいスピードで走ってくのを見た時はタダじゃ済まないかと思ったけど、あの男の人も笑ってたし、無事で何よりだよ!」 それに対して、「呑気なこといってんじゃねえよ。」と、若い男が間髪入れずに言う。 「あいつの目、全然笑ってなかったんだからな。」そう言って、若い男は後ろを振り返ると、「ひいっ!」 黒縁眼鏡の男がまだこちらをじっと見ているのに気づき、若い男は堪らず悲鳴を上げ、仲間を引き連れてその場から走り去った。 しばらくの間、黒縁眼鏡の男は若い男たちの動向を鋭い目で追っていたのだが、彼らが逃げ出したのを見て、問題なさそうだな、と思うとやっと彼らから目線を外した。そして穏やかな表情に切り替えると、かすみへと向き直る。 「ごめんな、遅くなって。大丈夫だった?」 聞かれたかすみは、胸の前で両手を振ると、「ううん、違うの。私が二人に会いたくて早く来すぎただけで…だから、まこちゃんは全然遅くなんてないよ!」 まこちゃん、と呼ばれた加島真琴は、その返答に心を綻ばせる。 「俺も待ちきれなくて早めに出てきちゃったんだけど、一番乗りだと思って来てみたらかすみに負けちゃったみた
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53話

「ただ、どうしたの?」 そう言って加島はかすみの顔を覗き込む。 覗き込まれ、かすみも加島の顔を見る。久々に見るその端正な顔立ちに、かすみは思わず見入ってしまった。 カッコいいなあ 「かすみ?」 名前を呼ばれかすみはハッと我に返ると、「あーっとね。あ、そうそう。ただ、ね。うん、ただ、」と、あたふたしつつ、 「私の今日の格好が、変だったんだと思う。」と、そう言った。 加島は、馬鹿な、というように目を見開く。 「それはない!断言できる!すごく素敵だよ!」 思わず見惚れたんだぞ、と加島は心の中で付け足した。 「本当?」と、かすみが不意打ちで上目遣いに見つめてきたものだから、加島は咄嗟に唇を噛むことでニヤけるのを防いだ。 「俺が嘘つくと思う?」 その問いにかすみが首を振る。 「ありがとう、まこちゃん。まこちゃんのおかげで自信出た!おしゃれとかちゃんとした化粧とかする機会もなければ、センスないしで、合ってるのかどうかもわからなくて不安だったの。二人に恥をかかせたらどうしようって。」 そう言って視線を落とすかすみに、加島はすかさず、 「何度でも言うけど、今日のかすみの服もメイクも、かすみの雰囲気にものすごく似合ってて素敵だよ?最高に綺麗だし、可愛いと思う。」 と、最後の所は少し照れながらも、加島は真っ直ぐに正直な気持ちを伝えた。 かすみも照れたようにはにかむと、 「ありがとう、まこちゃん。まこちゃんみたいなイケメンにそう言ってもらえるなんて光栄です!さっきの子たちは気に入らなかったのかもだけど、今日この服を着て、頑張って化粧もしてきて良かったって思えた。」 「うん、俺も伝わってくれて良かったって思ってる!」加島はそう言って笑った後、「ところでさ、一つ気になったんだけどー」 なあに?、というように、かすみが首を傾げたので、加島は言葉を続けた。 「かすみはさ、さっきの男の子たちは何でかすみに近づいてきたんだと思ったの?」 かすみは考えるように顎に手を当てると、「うん、たぶんだけど、文句を言いに、だと思われる。」 それを聞いた加島はただ笑うと、なるほどなるほど、と頷いた。 そういったことへの鈍感さは健在ですか そんなかすみに、加島は安心したのやら、先が思いやられるのやらで、複雑な感情になる
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54話

「で、なにしてたのこの二年間?」 三人はあれから噴水広場から移動し、加島が事前に予約を取ってくれていた、立って食べるスタイルのフレンチのお店で食事を取っていた。 聞かれたかすみは、バゲットにパテ・ド・カンパーニュを乗せようとしていた手を止める。 それから、質問を投げかけてきた愛蘭をちらりと見上げると、 「あー。実はね、ちょっとしたご縁から、とあるお金持ちの方の家で住み込みで働いてたの。」 そう言い終えると、以上です、というように、かすみはにこりと笑って中断していた動作を再開した。 「住み込みで働いてた、って。それは家政婦さんとしてってこと?」 「そう、だね…うん、そう。」 「二年間、家政婦さんをしてたってこと?」 そう聞く愛蘭に、かすみはバゲットを頬張りながら、こくこくと頷く。 「ふ〜ん。」と返す愛蘭の足を、テーブルの下で加島が小突く。 "何すんのよ"と目で文句を言う愛蘭に、"野暮なこと聞くなよ'と、加島も視線で返す。 二年前、かすみが二人の前から姿を消すことになる数日前のこと。かすみはあらかじめチャットで、〈ちょっとした頼まれ事があって、しばらく…二年ほどかな?その間連絡が取れなくなると思うけど、私は大丈夫なので心配しないで下さい( ´ ▽ ` )二年後、必ず連絡をしますので!〉そう二人に伝えてあった。 こう伝えとけば大丈夫だろう そう思って安心したのはかすみだけで、心配するなと言われても、過去あんなことがあったためにものすごく心配になった二人は、腕の良い探偵に頼んでかすみの行方を探らせた。 「お二人のご友人である女性は、どうやら海老原市にある、とあるお宅で暮らされているようです。」 「海老原のとあるお宅?」 探偵である男のその言葉に、愛蘭と加島は視線を交わした。 愛蘭と加島が知る限り、かすみはその土地に縁もゆかりもないはずである。 そんな二人に、探偵は現状において自分が調べ上げたことを報告する。 「そのお宅というのはどうやら"あの"御子柴家が所有するものみたいでしてー」 探偵は、あえて強調するようにそう言った。 「まさかとは思うけど。その言い方だと、あの御子柴家ってのはもしかして、あの御子柴グループのこと?」 「ええ。」と、探偵。 なんでそんなところに? そう思
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55話

「つまり、御子柴弥一が主人として暮らす家で、あたしたちの友達は家政婦の一人として働いているということですか?」 今までに聞いた探偵の調査報告をそのようにまとめ上げた愛蘭に、探偵は「そのようです。」と答える。 なんだ。その程度のことなら最初から正直に言ってくれれば良かったのに そう思った愛蘭だったが、気遣い屋のかすみのことだ。愛蘭も加島も口が固いことはかすみも重々承知だろうが、それでも相手が相手なだけに、万が一のこともないよう細心の注意を払うべく自分たちに言わなかったのだろう。 かすみらしいっちゃ、かすみらしいわね そう思って微笑を漏らした愛蘭だったが、二年間は会えなければ、連絡すらも取れないのかと思うと一抹の寂しさを覚えた。 とはいえ、かすみの安否は確認できたのだ。探偵にお礼を言って依頼料を渡そうと、愛蘭が椅子から立ち上がろうとしたその時だった。 「ただー」と、遠慮がちに探偵が口を開く。 「ただ、何ですか?」と、聞く愛蘭に、探偵は一つ咳払いをすると、 「ただ、一つ気になる噂を耳にしまして。」 「気になる噂ですか?」 「ええ。とはいえ、たぶんただの噂に過ぎないことだと思うのですが。」と、もったいぶるような言い方をする探偵に、自他共に認めるせっかち女である愛蘭は、 「はっきり言ってもらっていいですか?」と、少しキツい言い方をする。 そんな愛蘭に探偵が少し怯えたような表情になったので、すかさず加島が、 「すみません、キツい言い方に聞こえたかもしれないですけど、この子はただ友人である彼女のことが心配なだけで。他意はないんです、すみません。」 そうフォローする。 色男が割って入ってくれたことで、探偵はほっとしたように息を吐くと、 「御子柴弥一さんが勤めてらっしゃる会社の方へも行ってみた時の話なんですけど。やはり一流企業とあって警備が厳しくて、確信がつけたわけではないのですが、そこでたまたま耳にしたことがありまして。と、言うのは、どうやらおしゃべり好きな女性たちの話では、お二人のご友人である白石かすみさんと御子柴弥一さんは、そのぉ。」 と、癖なのかまたしてももったいぶるように言葉を濁す探偵に、愛蘭は目で促して(脅して)先を進めさせる。 探偵は、そんな愛蘭の標的を射るような視線から思わず目を背けさせると、
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56話

その後、探偵のご厚意により破格の値段で調査を続けてもらえることになった二人は、そもそもでかすみと弥一の結婚は名ばかりのもので籍すら入れていないということを知った。 さらなる調査で、最初は弥一によって冷遇されていたものの、徐々に彼が態度を改めているようだということも聞かされた。 最初、かすみが冷遇されていると聞いた時は弥一に対して憤慨した愛蘭だったが、徐々に態度を改めていると聞いた時には、少しばかり弥一に対しての怒りがおさまっていった(加島は嫉妬に狂っていたため、反・弥一の姿勢を最後まで崩さなかったが)。 さらには、つい先日、はじめて御子柴弥一本人と接してみたことで、愛蘭には弥一が性根の悪いタイプの人間であるようには到底見えなかったのだった。 かすみはそんな二人に目をやると、ふいに食事をしていた手を止め、お腹の前で重ねると、「ご心配をお掛けしたようで申し訳ありませんでした。」そう言って丁寧に頭を下げる。と、すぐさま"許してくれるかな?"とでも言うように、ちらりと目線を上げて二人を見た。 加島はかすみのその姿に笑うと、 「はい、我々すごく心配させられました。今回は大目に見るけど、次はこうもすんなり許したりしないからね?」そう言うと、かすみの頭を撫でる。 かすみは申し訳なさそうに苦笑すると、「心の広い友人を二人も持てて、私は実に幸せです。」と言った。 その言葉に、加島はかすみの頭を撫でる手を一瞬止めたが、最後二度ほど優しくポンポンと叩くと、その手をスッと引っ込める。 愛蘭は幾度となく見てきたこの光景に、懐かしいようなやるせないような、複雑な気持ちになった。 この行き過ぎた鈍さは時に残酷よね そう思った愛蘭は、ふと先日のことをかすみにそれとなく伝えてみたい気になった。 なので、愛蘭は早速口を開くと、 「そういえばね、この間うちの店に面白い客が来たのよ。」 そう言う愛蘭に、かすみは興味を惹かれたように愛蘭の次の言葉を待っていたが、即座に勘づいた加島は声に出さずに"や、め、ろ"と口の形で訴える。 愛蘭は綺麗な手つきでぺぺロンチーノをフォークに巻きつけると、「その面白い客ってのがね、もう嫌味かってくらいに見た目が整った男の子だったんだけどね。」 「へえ〜!愛蘭がそういうなんて、よっぽどかっこいい子だったんだねえ!」
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57話

「それにしても一万円だなんて、その美男子くんは豪華なホールケーキでも注文したの?」 「ううん、違うよ。」と愛蘭。 かすみは驚いた顔をすると、 「じゃあ、ピースケーキを買ってたってこと?うわあ、それはすごいね。まあ、確かに二人のお店のケーキはどれも美味しそうだもん、選びきれないよね。そっか、美男子くんは奥さんのためにいろんな種類のケーキをたくさん買ってったってことか!」 その問いに愛蘭が正直に答えようと口を開いた瞬間、加島が、そうはさせまい、と割って入る。 「奥さんにとしか聞かなかったけど、もしかしたらパーティーが何かでも開いてて、たくさんのケーキが必要だったのかもしれないね!」 まさか、一個2000円というぼったくり価格で売りつけたなどとかすみに知られるわけにはいかなかった。 そんな加島に、愛蘭は冷めた視線を送る。だが、すぐに視線をかすみに移すと、 「ねえ、かすみだったらどう?」 「ん?何が?」 「もしも、彼氏くんや旦那くんがサプライズでケーキ買ってきてくれたら、かすみだったら嬉しい?」 「え?私?」と戸惑うかすみに、愛蘭はこくんと頷く。 加島は、かすみに若い子を連想させるために、わざと愛蘭が"くん"付けしていることに気づき、眉間にしわを寄せた。 「うーん、恋人とか結婚相手とか私には縁遠いものだから想像でしかないけど、でも…うん、嬉しいと思う!私甘い物大好きだし、好きな人が自分のために買ってきたくれたんだとしたら、尚更喜んじゃうと思うな。」 この間、まさに買ってきてもらってたんだよ そう思った愛蘭だったが、もちろん黙っていた。それに、かすみが御子柴弥一に気があるようには見えなかったために、先程かすみが言った買ってきてくれたら嬉しい人としての条件に、あの子は入らないだろうな、そう考えたのだった。 かすみの話を黙って聞いていた加島は、期待のこもった目でかすみを見つめると、 「じゃあさ、じゃあさ。かすみはケーキを買ってきたのが俺だったとしたら、喜んじゃう?」 かすみは加島のその真っ直ぐな目に笑ってしまうと、 「うん、喜ぶと思うよ!なんてったって一流パティシエの作るケーキだもんね!」 それを聞いた加島はなんだか喜ぶに喜べず、微妙な表情を浮かべると、 「あ、うん、そうね。なんてったって俺は
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58話

加島はその端正な顔でニコッと笑うと、 「そう!実はね、俺の友達が金白市で有名なフレンチの店やってるんだけど、今週末に貸し切りで50人ぐらいのパーティーが開かれることになったらしいんだ。ただ、急遽予約が入ったのと、人数が人数なのとで、誰か手を貸してくれる人を探しててさ。かすみ、急で悪いんだけど、良かったらその日俺と一緒に行ってくれない?」 「今週末?」 「うん。今週の土曜日!四日後なんだけど、都合悪い?」 かすみは微笑みながら首を振ると、 「ううん、大丈夫だよ!手伝えます!」 「お店の準備とか大丈夫なの?」そう聞く愛蘭に、かすみは、 「うん!実は大家さんのご厚意で、契約前から店への出入りをちょこちょこさせてもらってたの。だからその間、必要なものを運び込んだり、リフォームさせてもらってたりしてたから、あとはただ契約書にサインしてお金を払うだけなんだ!だから全然大丈夫だよ!」 加島は嬉しそうに満面の笑みを浮かべると、「やった!ありがとう、かすみ!助かります!」 かすみは加島に向かって、クシャッと笑って見せてから、 「愛蘭はその日は来れないの?」 「うん、あたしはその日知り合いから下着の展示会に誘われちゃっててさ。そっちのほうが早くに誘われてたから、そっちを優先させる。ごめんね?」 そう言って愛蘭が申し訳なさそうに眉を下げたので、かすみはぶんぶんと首を振ると、 「そっか。ううん!残念だけど、先約があるのならそちらを優先で!愛蘭もその日は楽しんできてね!」 「ありがとう!うん、楽しんでくるし、かすみに似合いそうな下着があったらお土産に買ってくるよ!」 かすみは顔を赤くすると、「あ、うん。ありがとう。けどー」と、チラリと加島を見た。と、加島はなぜか下唇をギュッと噛んで渋い顔をしている。 男の人には女性の下着の話なんて気まずいよね そう、加島を見てかすみは思うと、次に愛蘭に向かって小声で、 「あんまり派手じゃないのでお願いします。」 愛蘭は口角を上げて、ニッと笑って見せると、 「まあ、楽しみにしていなさいな。」と言った。 その後、送っていくと言う加島の誘いを、かすみはありがたくも「そんなに遠くないから、大丈夫だよ!」と言って断ると、三人は互いに名残惜しくもその日は解散したのだった。 遠ざかっ
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59話

一方その頃、A国のN州にて。 朝の眩しくも温かい太陽の光の下、場違いにも、とある人物の墓が掘り起こされていた。 重機を使って慎重に掘り返される墓の前には、黒いサングラスを掛けた屈強な体格の男たちが立ち並んでいる。 そんな中で一人、屈強な男たちに紛れて、彼らと背丈は変わらないもののスラッとしたスタイルの男が目を引いた。男はサイドの髪を刈り上げ後頭部で一つにまとめた"マンバン"という髪型をしており、その綺麗な顔立ちと相まって、とても色気のある雰囲気だった。 男は履いているスラックスのポケットに手を突っ込みながら、氷のように冷え切った目で墓が掘り起こされる様を見下ろしている。 と、男は自身の右手に目をやった。そこには墓を掘り返すためにと、先に取り外されていた墓石が置かれていた。 男は墓石に刻まれた名前に目をやる。そこにはかつて自分の妹であった人物の名前が刻まれていた。 男はしばらくその墓石をぼんやりとした目で見つめていたが、その目からは何かしらの感情も読み取ることはできなかった。 と、重機を操っている作業員の男から、「お目当てのものに辿り着きました!」との声が上がる。 マンバンの男は、その声に墓石からスッと目線を外すと、 「取り上げろ。ただし慎重にな。傷一つ付けてみろ?次にここに埋められるのはお前たちになるからな。」 そう作業員に向かって脅しつけた。 作業員たちは嫌な汗をかきながらも、慎重に慎重を重ね、コンクリートの壁に覆われた中にあるその"モノ"をクレーンを使って吊り上げると、またしても慎重な手つきで地面へと下ろす。 地面に下ろされたモノ、それは木製の白い棺だった。コンクリートの壁で四方を守られた中に埋められていたとあって、その棺は年月を感じさせない真新しさがあった。 マンバン男はしばらくその棺をじっと見つていたが、ふいに自身の横にいた屈強な男たちに目をやると、 「開けろ。」 何の温かみも感じられない声で、そう指示を出した。 屈強な男が二人、その棺の前後に分かれ、棺の蓋を開けようと手を掛けたー その時だった。 「いっけないんだー?」 ふいに背後から掛けられたその茶化すような言い方に、マンバン男をはじめ、屈強な男たちも眉を寄せると不快そうに振り返る。 と、そこには、こんな場所に来るには場違
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60話

保(たもつ)と呼ばれた不精髭男は、そう言われても眉ひとつ動かさない。 しばしの間無表情で櫂斗を見つめた後、ふっとその表情を緩めると、 「櫂斗くん、君ともあろう美青年が、まさかあんな平凡娘に心奪われたわけじゃあるまいね?そんなこと恭子さんに知られた日にはタダじゃ済まないと思うけど?」 その女性の名前が出た途端、櫂斗は眉をピクリと動かすと、次に、ハッと笑って、 「あの女にバレて困るのはあなたも一緒でしょう?異常に綺麗なモノ好きな上に、執着心が強く、嫉妬深いあの女のことだ。死んだと思わされてた義理の娘がまだ生きていると知ったら、嫌悪感からどんな手を使ってでも排除しにかかるに決まってる。」 "過去、あんたの奥さんにしたようにな" その後しばらく、保と櫂斗は互いに表面上浮かべた笑顔で牽制し合っていたが、ふいに櫂斗はその目を逸らすと、 「あなたも大概ひどい親ですね。あんな女に取り入るために、実の娘すら死んだことにするんですから。」 そう言って櫂斗は蔑むように保を見たが、 「自分のお母さんをあんな女呼ばわりする櫂斗君も大概だと思うよ?」と、保。 櫂斗は保を見る目を細めると、彼から視線を外すことなく、 「棺の蓋を開けろ。」そう再び指示を出す。 先程棺の蓋に手を掛けようとしていた男たちは、少し戸惑ったように互いに視線を交わしていたが、主人に逆らえるわけもなく、棺の蓋に手を掛けると遠慮がちに持ち上げた。 櫂斗は尚も保から視線を外さないまま、 「どうだ?彼女は、そこに横たわっているか?」 "いるわけない" そうわかっているものの、万が一を考えて男たちに向かってそう尋ねた。 尋ねられた男たちの内の一人が、緊張したように答える。 「いえ、おられません。棺の中は空っぽです!」 それを聞いた櫂斗は、ほっと息を吐くと、次にニンマリと笑って、 「保さん、訳あって僕はこれからしばらく家を開けることにします。鬼の居ぬ間に何とやらと言いますのでね。その間、あなたは今まで通りあの女のお気に入りのコレクションよろしく、全力で気を引いていてください。くれぐれも、僕の行き先などあの女に教えないでくださいよ?」 そう言い残すと、櫂斗は屈強な男たちに向かって、 「行くぞ。」 そう言って、櫂斗は踵を返すと、去り際にわざと保の肩に
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