All Chapters of 君に触れたい〜逃した未来は大きかった〜: Chapter 61 - Chapter 70

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61話

かすみが久々に旧友たちとの再会を楽しんだ次の日。 三雲は、休日と有給休暇を含め、実に四日ぶりとなる会社へと出勤していた。 三雲が勤めるこの高級下着ブランド会社[Le Cygne ル・シーニュ]は、毎月第二と第四土曜日は出勤日となっている。 あの日、弥一にかすみへのお詫びとしてケーキと花束を買うよう勧めた日は、第二土曜日だった。 次の日の日曜日は毎週会社も休みなのだが、その日、日本へと2ヶ月ぶりに帰ってきていた咲希と過ごすために、三雲はさらに二日間の有休を取っていたのであった。 そんな今日は水曜日である。 咲希は今週いっぱいは日本にいる。 気持ちとしては咲希と一緒に過ごしていたいものの、週末に新商品の展示会を控えているとあってはこれ以上休むわけにもいかず、後ろ髪を引かれる思いで三雲は出社したのだった。 弥一から事前に言われない限り、三雲が御子柴家専用の運転手が運転する車に乗って、弥一の家まで出迎えることもなければ見送ることもない。 その代わり、弥一が出勤する少なくとも30分前には、社長室専用のエレベーターの前で弥一が来るのを待つようにしていた。 この日は一時間近く前に会社へと着いていた。 弥一が来る前に、近くのカフェで淹れたてのコーヒーでもテイクアウトしておこうかな、そう思いつつ、堂々と聳え立つ格式高いビルの入り口へと足を踏み入れた時だった。 社長室専用のエレベーターの前に既に弥一が立っているのが目に入る。 非凡な彼の姿は、数十メートル離れた先からでもすぐ見分けがついた。 三雲はいつもに比べあまりに早く到着している弥一の姿に、驚きのあまり一瞬その足を止めたものの、ハッとすぐに我に還ると、急いで彼の元へと駆け出した。 三雲は弥一の元へ到着するなり、「社長、お待たせしてしまったようで申し訳ありませんでした。」と、ゼーハーゼーハーと苦しそうに息をしながら謝罪する。 弥一はそんな三雲に、「待ったけど、待ってない。俺が早く着きすぎただけで、お前が謝る必要はどこにもない。」 朝から汗だくな上に息切れしている三雲とは対照的な清々しい様子で弥一はそう言った。 三雲はまだ呼吸が整わないながらも、 「それなら良かったです。てっきり僕のほうで時間を間違えたか、社長からの連絡を見過ごしてしまったのかと焦ってしまいました。
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62話

弥一はそんな三雲を見て可笑しそうに笑うと、 「いやいや、まさか。海老原市から歩いてくるわけないだろう?」 「当たり前だっ!あそこからここまでどんだけ距離あると思ってんだよ!」 三雲の焦る様子に、弥一はまだ可笑しいのか、クスクスと笑うと、 「2時間ほど歩いてみたんだけどー」 歩いてんじゃねーか、と三雲は心の中でツッコんだ。 「このままじゃ出勤時間に間に合わなそうだっから途中でタクシーを呼んだんだ。けど、呼ぶのが早かったんだな。結果お前がくるより30分も早く着いてしまった。」 こいつバカかも そう三雲は思うと共に、そんな風に弥一が奇怪な行動を取る時の統計として、彼の中には今、彼自身では解決しようのない、どうしようもない悩みがあるのだろうということを悟った。 仕事の事ではない。 仕事に関しては三雲などがアドバイスするまでもなく、弥一は完璧にやって退ける。 となると、もうー 「かすみさんと何かあった?」 そう三雲に聞かれた瞬間、弥一の身体がピクリと反応する。 それだけでも十分答えにはなったが、弥一は言葉でも、「ああ。」と言って肯定する。 そして続けざまに、淡々とした声色で、 「彼女、あの日の前日にあの家から出て行ってた。」 「はあ!⁉︎」 さすがの三雲でも、予想だにしなかった回答に、思わず素っ頓狂な声が出る。 「かすみさん、あの家を出たのか?あの日って、あのケーキ買ってた日のことか?で、出てったのがその日の前日?てことは、あの接待があった日のことか?」 混乱する三雲は、矢継ぎ早に質問をする。 弥一はそんな三雲を少し引いた目で見ると、 「三雲、ちょっと落ち着け。」 「落ち着いていられるかっ!やめろっ、そんな目で俺を見るなっ!てか、そこじゃないだろ!なんでだ?なんで急にそうなった⁉︎」 自身が咲希と甘い時間を過ごしていた中、まさか弥一にそんなことが起きていたなどと考えもしなかった三雲は、落ち着けるわけもなく、混乱したままの状態でそう聞いた。 「契約だったらしい。」 「へ?」 さすがの三雲も頭が追いつかない。 エレベーターは、いつの間にかお目当ての階に到着していたらしく、扉が開いていた。 弥一がエレベーターの扉から廊下へと出たので、三雲も釣られて降りる。 着
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63話

三雲は、まるで人質を盾に立て篭もる犯人への説得を試みる刑事のように、慎重に言葉を選びながら話しかける。 「御子柴。お前が一体何を考えているのか分かったわけじゃない。が、考え直した方がいいと思う。」 その三雲の言葉に、弥一は、ふっと笑うと、 「何でそんなことを言うんだ?三雲、俺は何も良からぬことを企んでいるわけじゃない。ただ、俺に与えられた当然の権利を執行しようとしてるだけだ。」 「お前に与えられた当然の権利って?」 「彼女を探し出す。でもって、俺を騙した上に置いてったことを後悔させてやる。」 ああ…やっぱりロクでもなかった 三雲は片方の手を腰に当て、もう片方の手を額に当てると、 「ー応聞くだけ聞いてみるけど、どうやってかすみさんを探し出すつもりだ?」 「そのために、今日お前が来るのを待ってた。」 そう満面の笑みで言う弥一に、三雲は眉を寄せると、 「俺に探しだ出せっていうのか?」 「違う。お前には腕のいい探偵を知ってるか教えて欲しかったんだ。誰か知らないか?」 三雲はため息を吐くと、 「御子柴、俺のことを買ってくれているのは嬉しい。けど、残念ながら俺は凡人なんだ。平凡な生活を送る人間にとって、探偵なんてものは、日頃関わることのない縁遠い人種なんだよ。知らなかったか?」 「知らないのなら調べてくれればそれでいい。」そう、弥一はあっさり返す。 自分でやれば? そう喉まで出かかった三雲だったが、何とか飲み込むと、 「そもそもで、お前に契約だの何だのとネタバラシしたのは会長か?」 「他に誰がいるって言うんだ?」 やっぱりか 「てことは、会長はネタバラシはしてくれたものの、かすみさんの居場所は教えてくれなかったってことだな?」 「じゃなきゃ探偵なんて必要なかっただろうな。」 それを聞いた三雲は、ふむ、と言って腕時計に目をやる。 8:10か。まあ、これなら少しくらい無駄な時間を使ってもいいか 「どうした?」と、弥一が怪訝そうに聞く。 三雲は諦めたような笑みを浮かべると、 「言ったところで、今の御子柴じゃ聞く耳持たないだろう?だから、実際にその目で現実ってものを見てもらう。」 「どう言う意味だ?」 「良いから黙って付いてこいよ。」 そう言って三雲はドアに向かって
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64話

時を同じくして、とあるホテルのスイートルームにて。 シルクのガウンを、大胆にも胸元をはだけさせるように着用した美女が、その細くくびれた腰に片方の手を当て、もう片方の手の中にある携帯電話の画面を見つめては、イライラしたように歩き回っていた。 美女はからこれもう数十分その状態だったわけで、見かねた同室の男がそんな彼女に声をかける。 「雪菜、弥一からはまだ電話が掛かってこないのか?」 この若い男も、ルームガウンの胸元を大きくはだけさせるように着用し、ベッドの脇に腰掛けながらタバコをふかしていた。 明らかに“情事の後”とわかるような二人の格好だったが、そこに流れる空気には、二人をカップルだと思わせるような甘い雰囲気は一切ない。 "弥一"という名前に、雪菜と呼ばれた美女はぴくりと反応すると、 「あんたなんかと違って弥一は忙しいのよ。」 その言い方に、雪菜という人物の人となりが垣間見えたと言えよう。 だが、そんな美女の傲慢で高飛車な物言いを特に気にすることもなく、男は指に挟んでいるタバコを口に持っていくと、ゆっくりと深く吸い込んだ。 "そう思っていたいわけか" プライドの高いこの女のことだ。弥一から返信がないのは、いよいよ切られたからではなく、あっちが忙しいために連絡できないでいることにしたいのだろう。 とはいえ、こいつにベタ惚れだった弥一のことだ。 どうせ拗ねてる体でわざと連絡してこないだけで、こいつに会えると知った日には何が何でも飛んでくるに決まっている。そう男は考えた。 「確かに、今となってはあいつも社長なわけだし、忙しくないわけないもんな?」 そう、雪菜に向かってフォローする。 「そうよ!ちょっと連絡がないくらいでいちいちそんなこと聞いてこないでくれる?ホント、あんたってホント器が小さい男よね!」 お前に言われたかねーよ そう思った男は、雪菜に気づかれないよう嘲笑うような表情を浮かべたが、すぐさまそれを引っ込めると、 「そういえば。お前の歓迎パーティー、金白で有名なフレンチの店抑えといたから。日にちは今週の土曜日なんだけど、それで良かっただろ?」 「人数は?」 「本当に仲の良いやつにしか声を掛けなかったからなあ。ざっと50人くらいかな。」 本当は片っ端から声を掛けても、最初の内は全
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65話

「申し訳ありませんが、我が社ではー」 「対応できかねます、ですか?」 弥一がそういうと、受付の女性は困った様に眉を下げる。 もしめちゃくちゃに私情を挟んでも許されるのなら、いくらでも目の前のイケメンたちに手を貸してあげたい!だが、会社の上層部からの命令に一介の社員である自分なんぞが逆えるわけもなく、泣く泣く、二人を追い払うのだった。 これでもう六社目だ。 あれから弥一と三雲は、手始めにマップアプリで探偵事務所を調べ上げた。 検索結果に並んだ探偵事務所の中から口コミの良さで選ぼうとする弥一に、三雲は頑なに、とにかく近いところから一つずつ当たっていこう、と言って聞かない。 仕方なく弥一は三雲に従ったのだが、行く先々で皆口を揃えたように、 「申し訳ありませんが、我が社では対応できかねます。」 そう言って頭を下げる。 最初は“何か理由があるのだろうから仕方ないか”と思って大人しくその場を後にしていた弥一だったが、こうも同じように断られるなんておかしい。 そう思い、四社目にして初めて、「理由を教えてもらってもいいですか?」そう聞くと、 「実は今、依頼が立てこんでおりまして。そういった理由から、大変申し訳ないのですが、新規の依頼はお断りさせていただいているんです。」 そう言われた。そして、その次に訪ねた五、六社目でも全く同じ文言で断られ、断る理由も似かよったものだった。 「さすがにおかしくないか?」という弥一に、「そうか?俺は想定済みだったけど。」と、三雲はあっけらかんとした様子で答える。 弥一は足を止めると、 「どういう意味だ?」 そう聞く弥一に、三雲はため息交じりに振り返ると、 「会長はかすみさんの居所を教えてはくれなかったって言ったよな?」 「ああ。だからこうやって、彼女を探すのを手伝ってくれる探偵を探してるんじゃないか!」 「だからだろ。」 「は?」 「かすみさんの居所を調べようとお前が探偵を頼るだろうってなことは、会長なら難なくわかるだろうってことさ!」 瞬間、弥一は口をあんぐりと開けた。 なぜ考えなかった? 明らかにおかしいということはわかっていたはずなのに。なぜ、おばあさまが先回りして妨害しにかかっているという可能性をを考えなかったのだろう。 弥一は、途端に自
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66話

そう言われた弥一は、直後にはきょとんとした顔をしていたものの、言葉の意味を理解したのか、瞬間、その顔を赤らめると、 「バカかっ!ありえない!」 そう叫ぶ弥一に、三雲は、 「いーや、バカはお前だ!」 「なっ。口が悪いぞっ、三雲!」 お互いさまだ、と三雲は心の中で返すと、 「じゃあ、何でここまでしてかすみさんを探したいんだよっ!好きだからだろっ!」 「違うっ!!」 と、弥一は瞬時に否定し、その後も自分に言い聞かせるように、「違う、違う、そんなんじゃ…そんなんじゃない。」と、ぶつぶつ呟く。 "またこのパターンか"そう思った三雲は、さすがにうんざりした様子で、 「じゃあ、何でだよ?」 そう尋ねる三雲に、弥一はキョロキョロと視線を彷徨わせた後に、どうやら体のいい答えを思いついたようで、 「彼女に料理を作らせるためだ!」 三雲はもう呆れてものが言えなかった。なので、顔の表情だけで、気持ちを伝えた。 こんな風に。 (・Д・) そんな三雲の表情に、弥一は狼狽えると、 「な、何だよその顔。こっちはちゃんと答えたんだ、何とか言えよ!」 三雲は疲れたように頭を振ると、 「料理なら早苗さんが作ってくれるんじゃないのか?もしかしてお前の口に合わないのか?」 「いや、そんなことはない。小さい時から食べている慣れ親しんだ味なんだ。」 「なら、早苗さんが作ってくれる料理で十分じゃないか。お前はただ、料理を作る人が欲しいってだけなんだろ?」 「違う!」 「何が違うんだ?」 「そうじゃなくて、彼女に作らせたいんだよ!わかるだろ?」 もちろん、三雲には分かった。むしろ、 "そうまで言っててなぜわからない?" と、それが不思議でならなかった。 「それに、彼女にはわからせてやらなきゃどうにも気が済まないんだよ!」 「はい?」 「彼女は俺をあっさり捨てていった!この俺を、だ!彼女は俺が何者なのかをちっともわかってない!逃した人物の大きさも、どれだけそれが勿体ないかってことも!」 逃した人物の大きさを痛いほどわかっているのは、むしろ自分のほうじゃないか。いや、痛感してるからこそムキになってるのか? そんなことを頭で思いながら、三雲が 「それをわからせてやりたい、と?」 と、聞くと
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67話

「おい、なんだよ弥一。もしかして怒ってるのか?」 電話先で冬馬は茶化すようにそう言った。 弥一は細めた目はそのままに、口元だけで笑ってみせると、 「まさか。それとも、何か俺に怒られるようなことをしたとでも言うのか?ん?」 電話越しにも弥一の冷え切った空気が伝わってくるようだった。 だが、冬馬はそんな弥一に怯むどころか、ニヤリと笑うと、 "どうやらとうとうバレたみたいだな" そう思うと、満足気に舌なめずりした。 彼は今にも高揚感丸出しの声色になりそうになるのを必死に抑えると、 「お前のことを誰よりもわかってるのはこの俺だ。そんな俺がお前を怒らせるようなことをわざわざすると思うか?」 実際には大いにしてやったわけだが、冬馬は一切悪びれる様子もなくそう言った。 弥一はふっと笑ってみせると、 「そういえば何日か前に雪菜から電話が掛かってきていたが、出なかったんだ。もしかしてこの電話はそれと何か関係しているのか?」 普段仲の良い人には決して話さないような喋り方で弥一はそう問いかける。 冬馬はその話し方には反応せず、代わりに弥一が先程言った〈電話は掛かってきいたが、出なかった〉という部分に、反応すると、 「出られなかったんじゃなくて、出なかったのか?」と、敢えて聞いた。 そしてその問いに、弥一が「ああ。」と言って答えると、冬馬はいよいよ感情を抑え切れなくなったようで、携帯電話のスピーカー部分を手でを抑えると、「くっ、ふ、っふ。」と笑いながら、ソファの上で手足をバタバタとさせた。 あの弥一が俺に嫉妬している! そう感じた冬馬は、優越感からくるゾクゾクとした感覚に全身で酔いしれた。 長年、夢見てきた感覚を実際に体験できたことに、彼は笑いが止まらなくなる。 そんな冬馬を訝しんだ弥一が、「で、一体何の要件だ?」と言ったことで、さすがの冬馬も笑いを必死に抑えると、 「ああ、悪い悪い。少しネット環境が良くないみたいで、聞き取り辛かったんだ。」そう言い訳をしてから、 「弥一、長らくお待ちかねだったお前の想い人がついに帰ってきたぞ!で、今週の土曜日、金白で人気なフレンチの店で、雪菜の歓迎パーティーをやるんだ。雪菜はお前を真っ先にそのことを伝えようとしたのに、お前が電話に出ないから、あいつ相当気にしてたん
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68話

それぞれにとって勝負となる日となるであろう、土曜日がやって来た。 かすみは加島と共に、パーティー会場であるフレンチレストランで料理に使う肉や魚や野菜など、具材の下準備をしていた。 作る品数は全部で十八品。 パーティー開始時刻である午後六時までにそれらの料理五十人分を、かすみと加島、それからこの店のオーナー兼シェフである小笠原と他二名のスタッフ、計五人で仕上げなければならないとあって、厨房はなかなかの慌ただしさだった。 「小笠原さん、新玉ねぎの皮は剥いて、ピーマンとにんじんと一緒に千切りにしておきました。次はどうしましょう?」 かすみに声を掛けられた小笠原は驚いたように振り返ると、 「もう終わったんですか?」 かすみはふわりと笑うと、 「まこちゃんと一緒でしたから。」 と、何でもないことのように答える。 小笠原はそのかすみの笑顔に釣られて自分もへにゃりと笑うと、 「加島には感謝しないとだな。こんなにも協力な助っ人を連れてきてくれたんだから。」 今回急に入れられたこのパーティーの予約は、相手が名の知れたお金持ちとあって断ることが許されなかった。 小笠原のそのフレンチの店は、スペースはあるものの、クオリティの観点から完全予約制とし、さらに一日の客の上限を三十人としていた。 そんなわけで、いつもより人数も多ければ、ビュッフェスタイルとあって、作る品数も量も多いわけで。 さらには、それだけで大変だっていうのに、今回の客は世間が抱く嫌なお金持ちのイメージの代表格みたいな奴らで、パーティーで出す料理のことや、店内の飾り付けなどに関して何かと面倒な要望を付け足してきては、小笠原を始め、スタッフたちを掻き乱してくるのであった。 そんな中、ついにスタッフの一人である女の子の狩野が、 「オーナー、いくらなんでも情けなさ過ぎますよ!金持ちとはいえ、あんなイキっただけのガキ共相手にいい大人がへりくだっちゃって。情けなさすぎて見てらんなかったです。」 と、盛大な愚痴を漏らす。 小笠原はその自覚があったからこそ、自分よりも五歳も若い女の子にそう指摘されたことが恥ずかしくて、 「なっ、誰がへり下ってて情けないだよ!」 と、動揺したように言い返してしまう。 それを見ていたもう一人のスタッフである深見沢(ふかみざ
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69話

「ニヤけている暇があったら、手を動かしてくださいね。そのチャウチャウ顔をいくら動かしたところで、やることは一つも減らないですよ?」 と、深見沢は、先輩相手とはいえ、いつも通りの容赦ないイジリをかます。 「誰がチャウチャウ顔だっ!」と、深見沢にツッコミながらも、小笠原の目は、深見沢の奥で自分をすごい目で見据えている加島へと注がれていた。 小笠原と加島、そして今日この場にはいないが、円城寺(愛蘭)とは料理の専門学校で出会ったことがきっかけで仲良くなった。 加島は当時からえげつないほどモテていたのだが、なぜか彼女らしき人の気配がなかった。 加島目当ての女の子たちから頼まれ(限りなく脅しに近かったが)、特定の相手がいないのかと尋ねたところ、 「いるよ。中学からずっと片想いの子が。」 「片想い⁉︎お前が?嘘つけ!何をビビってるのか知らないが、お前が気持ちを伝えたら速攻でカップル成立じゃないか!」 小笠原はそう言って、"そうだろう?"と同意を求めるよう、傍らにいた愛蘭に目を向けたのだが、愛蘭は彼のその問いに、"さあ?"とでも言うように肩をすくめて見せただけだった。 そんな二人に加島は苦笑すると、 「この顔で釣れるような相手なら苦労しないんだけどね。彼女とはもうかれこれ八年の付き合いになるけど、そもそもで俺が自分に好意を持っているなんて微塵も思ってないし、なんなら愛蘭のことを好きだって勘違いされてるくらいだから。な?」 と、加島も愛蘭に同意を求めたが、愛蘭は今度は苦虫を噛み潰したような顔をしたので、 「いや、冗談でもお前のことなんて好きになんてならないからな?わかったならその顔やめろ。」 愛蘭はツンとしてそっぽを向くと、 「冗談でもそんな風に思ったなら最後、その鼻へし折ってやるから。」 「来世でも思わないから安心しろっ!そしてすぐその暴力に訴えようとするクセもやめなさい!」 そう言っていつも通りの掛け合いを見せつけてくる彼らを横目に、小笠原は加島ほどのイケメンを以ってしても落とせない女の子もいるんだなあ、とそう思ったものだったがー まさかそれが目の前にいる彼女のことだったとは。 未だかつて見たことのない加島の牽制顔に、小笠原は"滅相もありません"というように、顔を振って見せると、加島は"本当か?"というよう
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70話

まさかとは思いつつ、かすみは探るような口調で、 「へぇ〜、そうなんですね。ちなみに、そのかぼちゃのサラダというのは、デパ地下のデリのような甘い味つけの、ですか?」 そう小笠原に聞くと、彼は眉根を下げて、 「いや、違います。というのも、そのかぼちゃのサラダが好物だという方は、どうやら甘い味付けのものが苦手らしくて。」 言われたかすみは瞬時に、 "御子柴さんだ。絶対、御子柴さんだ" そう思うと、途端にそわそわとし始める。 小笠原から加島伝いに、今日のパーティーの主催者はどこぞのお金持ちだとは聞いていたが、彼らの態度を聞くに、そこから弥一を連想することはなかった。 まさか、こんなにすぐ会うかもしれないことになるとは。 どの面下げて彼と対面すればいいというのだろう。 いや、そもそもで自分如きが彼に会おうとしてること自体がおこがましい。彼に合わせる顔なんて元よりあるわけないじゃないか。 そう考えたかすみは、準備だけしてはちゃんとして、パーティーが始まる前にお暇しよう、そう心に決めると、 「小笠原さん。よければそのかぼちゃのサラダ、私に作らせてもらえませんか?」 あの日できなかったリベンジをここで果たそう、そう思って小笠原に提案する。 言われた小笠原は、パッと顔を輝かせると、 「ぜひぜひ!加島から、白石さんが料理上手だということを聞いた時から食べたいなって思ってたんです!それと、近々お店も出されると聞きましたけど、本当ですか?」 「プロのフレンチシェフの前でおこがましい話しだとは思うんですけど、カフェを開くことが、私の長年の夢だったんです。ある方との出会いでそれを叶えることができました。」 "その出会いのせいで迷惑をかけてしまった人もいたけれど" 「大丈夫ですか?」 かすみの表情が急に曇ったように見えた小笠原が、心配そうにそう尋ねると、かすみは「大丈夫です!すみません、ちょっと昔を思い出して。」と、返す。 「かぼちゃのサラダ、めちゃくちゃ美味しく作れるよう頑張りますので、出来上がった際は味見をお願いしますね?」 そう言って、かすみはかぼちゃを手に笑うと、さっそく調理に取り掛かるのだった。 "私が作ったとは気づかないだろうけど、だからこそ!御子柴さんが食べて美味しいって思ってもらえるように
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