弥一は咄嗟に、「やめろぉぉ!」と叫んだのが、次の瞬間には、「あ、え?」と、気の抜けた声を出した。 八重子によって封筒から引き抜かれ、その指に挟まれてままの思いがけない紙切れたちの正体。それはー お金? なぜこんなものが出てくるのか弥一にはさっぱりわからない。八重子に目を向けたが、その表情から察するに、彼女もわかっていないようだった。 八重子はとりあえずそのお金をテーブルの上に置くと、他にはないのかと、封筒の中をのぞいた。が、中には何も入っていない。 弥一はてっきり、その封筒の中には離婚届も入れられていると思っていた。だが、違った。 予想が外れた弥一はほっと胸を撫で下ろすと、改めて目の前の封筒から出てきたお金に目をやる。そして、おもむろにそれらを掴み上げると、数を数え始めた。 9,10,11,12ー 「13万円。」 お金は13万円あった。数えたはいいものの、やはりこれが何を意味するのかわからない。 弥一は思案するように、唇に手を当てる。と、背後から早苗が「それは坊ちゃんが、あの日かすみさんに渡された買い物の代金です。」と、声をかけた。 「あの日?」と、弥一は早苗に振り返る。あの日と言われたところで、弥一にはそれがどの日を指しているのかまるでわからなかった。 「あの日ってどの日だ?」 「あの日とは、ここで初めてお二人がお会いした日のことです。」 それでもまだピンときてない様子の弥一に、早苗は言葉を続ける。 「あの日、坊ちゃんが私に本宅まで送るよう申し付けたことは覚えておいでですか?」そこまで言われて、やっと「ああ。」と弥一も思い出す。その弥一の様に、早苗は呆れたように、ふうと鼻で息を吐くと、「私の代わりに買い物に行ってくださることになったかすみさんに、坊ちゃんがお金を渡されましたよね?そのお金がその時のものです。」 そう言われ、弥一の頭の中にあの日の記憶が思い起こされた。 あの日、玄関先でかすみの前にお金を差し出したが、彼女は眺めるだけで受け取らなかった。だから、さらにその手を伸ばしたところ、意図せずその手が彼女の身体に触れてしまった。驚いた自分は、咄嗟にその手を開いてしまう。 開かれた手から舞い落ちるお金。交錯する二つの視線。あの時の言いようのない耐え難い空気感に、咄嗟に彼女に背を向ける
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