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第22羽:指名と疼き

last update Veröffentlichungsdatum: 01.05.2026 23:59:17

【2019年7月】東京都・新宿区

歌舞伎町のソープランド『ディープ・ブルー』の待機室は、いつもより少し蒸し暑かった。エアコンの風が弱く、キヨミは着ている服の襟を軽く広げて休憩を取っていた。

今日はゆったりとしたパジャマ姿だ。いつもはオフィス用のスーツなど、パリッとした恰好で接客することが多かったが、店のブログで客からリクエストがあり、それに応えた形だった。パジャマだと「仕事」という感じがせず、どこか落ち着かないが、先ほどまで応対していた客は「ギャップ萌え」と言って喜んでくれた。

源氏名の「アカリ」として働くようになって数ヶ月。体は慣れてきたはずなのに、心のどこかがまだざわついている。仕事は仕事でも、風俗業。こちらが緊張してしまえば、癒しを求めてやってきている客は不安がる。最近では徐々に肩の力を抜けるようになってきたものの、もっと自然にやれるようになると良いのだが。

テラダマコトの店外デートからは2週間ほど経っていた。あの夜の誠意のような言葉と、突然の別れ。キヨミは彼の白い顔を思い浮かべるたび、胸の奥が小さく疼くのを感じていた。奪われたはずの感情がほんの少しずつ戻ってきているような、そ
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    アズサの瞼がゆっくりと開いた瞬間、キヨミの心臓が激しく跳ね上がった。「アズサ……?」キヨミはその名を呼ぶ。“ユキ”ではなく、学生時代から深い関係にあった相手の名を。呼ばれた彼女は顔をキヨミの方へ向けつつも、瞳はまだ焦点が定まらない様子だ。酸素カニューラが鼻に繋がれ、点滴の管が何本も腕に刺さったまま、彼女は弱々しく唇を動かした。「……キヨミ?」ほとんど息のような、かすかな声。キヨミは立ち上がってナースコールを押そうとしたが、一瞬だけ躊躇した。タナベ医師は確かに“何か問題があればすぐにナースコールを押しください”と言っていた。だが、これは“問題”ではないはず。意識が戻ったのは喜ばしいことだ。もちろん、こじつけだとは自分でも分かっている。ただタナベは、短時間だけ一人で付き添っても構わないとも言っていた。点滴の交換準備の少しの間だけだ。キヨミは深呼吸をし、アズサの手を握った。「キヨミだよ。ちゃんとここにいる。ユキはアズサだったんだね。もう目覚めないかと思ってた」アズサの唇がわずかに緩んだ。腫れた顔の中で、その微笑みは痛々しくも美しかった。アズサの指はまだ冷たく、力も弱かったが、確かに生きている温もりがある。キヨミは失っていた9年間を思いながら、アズサの左手にもう片方の手も添え、包み込んだ。「キヨミ……ごめんね」アズサが最初に口にしたのは謝罪の言葉だった。「……私、キヨミに“書く”ことを禁じて、あなたを傷つけて……それなのにユキとして傍にいたなんて」声は弱々しく、途切れ途切れだった。キヨミは首を振り、アズサの額にそっと自分の額を寄せた。「謝らないで。アズサが生きていてくれて、それだけで十分だよ」アズサの目から涙が一筋こぼれた。キヨミはそれを親指で優しく拭う。「アズサ」キヨミは彼女の頰に唇を寄せ、軽くキスをした。腫れた部分を避け、優しく、優しく。アズサも弱々しく微笑み、唇を近づけてきた。二人の唇が触れ合う。最初はただ触れるだけの、優しいキス。そこからアズサの唇がわずかに開き、キヨミの口の中に舌を侵入させてくる。甘く湿った互いの吐息が混ざり合いながら、舌を絡め合った。「ん……」アズサの喉から小さな吐息が漏れる。呼吸が苦しくなったのだろうか。一旦、唇と唇を離して互いに見つめ合った。「キス、久しぶりだね」ポツリと呟くよう

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    事件から6日目となった。キヨミはまたアパートのベッドで横になり、ただ天井を見つめている。 時刻は――まだ夜中の10時か。それでも体は疲れて果てて睡眠を求めているような気がする。一方で思考は堂々巡りを繰り返し、どれだけ目を閉じても眠りは訪れなかった。 昨夜会って以来、テラダからはLINEも無い。無月経であることを打ち明けて関係にひびが入ったのは間違いなく、その関係をどうすれば修復できるのか。そもそも、その必要があるのか否か。 キヨミも恋していたのは間違いないが、テラダから連絡が来ない以上、こちらから送る言葉は何もなかった。「どうか捨てないで」と懇願しろとでも? 「浅ましい女」と思われるだけだ。 “私にプロポーズしたのはマコトでしょ。だから、マコトがリードして見せて。ちゃんと私に相応しい男だってこと、証明して” よくあんなセリフが言えたものだ。仕方ない、テラダといるときの自分は“アカリ”なのだ。笑顔が明るく、妖艶で、自信に満ち溢れた娼婦。 実際は寡黙で、表情の乏しい陰キャ。無月経であることを差し引いたとしても、そもそも一般男性が結婚相手に選ぶような人間ではなかった。 ただ、そんなことでキヨミは自己嫌悪に陥ったりはしない。自分の性格を嫌ったところで今さら生き方は変えられないし、合わない人間とは無理して付き合う必要もない。テラダに関しては正直なところ、「もうどうでもいい」と思い始めているような気がした。 あんなにピュアな男性と付き合ったことは今まで無かったから。ただの物珍しさを「妙な魅力」と履き違え、一時的にハマっていただけなのかもしれない。そう考えると、このまま自然消滅するのも別に悪くない気はしている。 と同時に、一日でそこまで“冷めて”しまえる自分にも驚いていた。 テラダが放出したものだって、まだ少し膣内に残っているような気がするのに。ぴゅっ、ぷぴゅっ、と、その日に用を足している最中でも漏れ出していくのを感じた。ただ、どうせ命が結実することはない。キヨミにとっては無意味な、ただの体液に過ぎない。 (やはり私は、感情の無いサイボーグなのだろうか) アズサの呪いは、まだ解けていないのかもしれない。 アズサ――昼間にまた、彼女の見舞いにも行った。相変わらず意識は戻らず、腫れた顔は前日よりさらに青白く見えた。キヨミはベッドの横で彼女の手を握

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    【2019年10月】東京都・世田谷区 キヨミは自宅のアパートの風呂に浸かっていた。ほんの数時間前までテラダに抱かれていたことが、もう遠い昔の出来事のように思えた。湯船の中で膝を抱え、ぼんやりと白いタイルの壁を見つめる。体はまだ熱を持っていたが、心は妙に冷えていた。 “ご、ごめん……考えさせてくれないかな……?” テラダはホテルでそう言った。 “決して、子供ができない女性とは結婚できないって言ってるんじゃないんだ……ただ混乱してしまって” 必死に否定しようとする彼の言葉は、かえって本音を浮き彫りにしていた。彼のたどたどしい微笑みや視線の泳ぎ方からも、それが痛いほど伝わってきた。 つくづく嘘の下手な男だ。 キヨミは湯船の中で小さく息を吐く。テラダの言葉の後に、自分が紡いだ言葉を思い出した。 “ずっと黙っててごめんなさい。マコトに中出しを許したのも、自分がこういう体だってわかってたから。でも、誰でも受け入れてたわけではないことは信じて。マコトだけだから” テラダは、“アカリ……アカリさん”と掠れた声で彼女を抱きしめたが、それ以上の行為はなかった。シャワーを浴び、服を着て、互いにホテルを出た。 “また、会ってくれる?” そう訊ねたキヨミに、彼は、 “も、もちろんだよ……” と答えたものの、声は明らかにぎこちなかった。 子供が成せないという事実は、それほどまでに重いのだろうか。 無月経の体。これが風俗嬢としての最大の武器だった。生理の心配がなく、いつでも働ける。けれど普通の恋愛にとっては、やはり決定的な欠点でしかない。勘違いしていたのは自分だった。求婚されて、何を舞い上がっていたのだろう。 キヨミは湯船から上がって体を拭き、風呂場から出てバスタオルを体に巻くと、冷蔵庫を開けた。キンキンに冷えたデカビタCのペットボトルを取り出し、一気飲みする。強めの炭酸が喉をチクチクと刺激するが、鬱々とした気持ちは少しだけ浄化されるような気がした。 バスタオル姿のまま、気分転換に図書館から借りてきたタカナシカツヤの小説を読み始めた。 決してアズサのことを書いたという確証があるわけでもないが、少なくともそれがアズサとカツヤの関係性を知る上でのヒントになるのではと感じていた。 ※ 【2011年8月~2

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    テラダマコトはキヨミの前に立ち、緊張で肩を強張らせていた。白い肌が、間接照明の下でわずかに汗ばんでいる。彼は震える指でキヨミのジャケットに手をかけ、ゆっくりと肩から滑り落とした。 「マコト、もっと大胆にしていいよ」 キヨミが囁くと、テラダはごくりと唾を飲み込んだ。次に彼はキヨミのブラウスに手をかけたが、ボタンを外す指先が何度ももつれる。ようやく全てのボタンを外し終えると、下に着ていた白いブラが露わになった。 ハァ、ハァ……テラダの息が上がる。キヨミも少しだけ自分の顔が紅潮していることに気づいた。キスしたい、舌を絡ませ合いたい。そう思うが、ぐっと堪える。今はテラダにリードさせると決めたのだ。 テラダは、しかしそこで固まった。次に何をすればいいのか、ブラを外すべきか、スカートを脱がすべきか、迷っている様子がはっきりとわかった。 キヨミは優しく微笑み、彼の手を取った。少しだけならフォローしてあげてもいいだろう。ほんの少しだけ。 「マコト、まず触ってよ。私のおっぱい」 テラダの瞳が大きく見開かれた。彼は唾を飲み込みながら、震える手でキヨミの胸に触れた。ブラ越しに、柔らかな膨らみをそっと包み込むように。 「あ……柔らかい……」 彼の声は掠れていた。キヨミは彼の手を自分の胸に押しつけ、さらに導く。 「もっと強くてもいいよ。感じて、私の体を」 テラダは勇気を出したように、ブラの上から親指で乳首の位置を探り、優しく円を描くように刺激した。キヨミの体がびくりと震える。 「ん……っ、そう、上手っ」 その言葉に励まされたのか、テラダは徐々に大胆になっていった。彼はキヨミの背中に回り、ブラのホックを外した。露わになった胸を両手で包み、優しく揉みしだく。時折、乳首を指で摘まみ、軽く引っ張る。 「あっ……マコト……」 キヨミの声も甘く掠れる。テラダは興奮を抑えきれず、キヨミの首筋に唇を寄せ、熱い吐息を吹きかけた。 前戯はたどたどしかったが、キヨミの優しい導きによって徐々に熱を帯びていった。テラダはキヨミのスカートを下ろし、ショーツに指をかけ、ゆっくりと脱がせた。キヨミも彼のベルトを外し、ズボンと下着を一緒に下ろす。 やがてテラダが上半身に身に付けていたシャツを脱げば、ついに二人は裸になった。 テラダの白い体が照明の下で淡く輝いている。彼

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第48羽:オムライスとエレベーター(上)

    「まずはせっかくレストランに来たんだから、食事を楽しみましょう」 キヨミは穏やかに微笑んで言った。テラダマコトは一瞬、ぽかんとした表情を浮かべたが、「あ、そ、そうだよね……」とやや苦笑しながらメニューを手に取る。 危ういところだった。いきなり事件の話やらプロポーズの話やらを切り出せば、テラダはきっとパニックを起こしていただろう。彼はそういう男だ。純粋で、真面目で、でも極端に緊張しやすい。 それで料理の味が台無しになるのは避けたかった。食べているときくらいは心穏やかでいたいものだ。 二人が注文したのはこの店の定番メニューだ。運ばれてきたのは、薄く焼かれた卵がチキンライスをふんわり包むオムライス。王道のスタイルであり、ノスタルジックな昭和タイプとも言える。 スプーンを入れると、薄い卵の中から熱々のチキンライスがこぼれ落ちる。チキンライスの味付けは薄口ながらもコクがあり、タマネギと鶏肉の甘みがじんわりと染み出していた。そこにケチャップで軽く味にメリハリがついて、懐かしい味わいに仕上げられている。 「美味しい」 一口ごとにほっとするような味わいが広がり、キヨミは思わず小さく呟いた。テラダも頷きながら、一口ずつ丁寧に味わっている。 ただ彼はスプーンを動かす手つきもぎこちなく、時折キヨミの顔を盗み見る。白い頰がわずかに紅潮しているのが照明の下でよくわかった。 「……実はこのお店、小さい頃、母親によく連れてこられたんだ」 不意にテラダが昔話をする。 「へぇ、テラダさんのお母さんって何歳くらい?」 「もう……亡くなったよ」 キヨミは一瞬、ピタリとスプーンを持つ手を止める。 「そう、ごめんなさい」 「謝らないで。もうずいぶん昔……僕が小2ぐらいの頃だったかな。くも膜下出血で突然倒れて、そのまま。お酒とかよく飲む人だったみたいだから」 初めて聞く話だった。そもそも彼が家族のことを話すこと自体、これが初めてかもしれない。 「うちは父親と、祖父と、男ばかり3人で暮らしてる。祖母も僕が生まれる前からもういなかったみたいで。男ばっかりさ。だから学校でも、女子とどう接していいのかわからなかった。高校は男子校だったし、今アルバイトしてる先も、あえて女性がいないところを選んだんだ」 「もしかして女性が怖かったの?」 テラダはぎこちなく微笑む。 「そうかも……

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第47羽:失われた命と転生

    【2019年10月】東京都・新宿区 事件から5日目の夕方、キヨミは四谷図書館にいた。 外はすでに薄暗くなり始め、図書館の窓から見える新宿御苑の木々が、街灯の光にぼんやりと浮かび上がっている。キヨミは閲覧室の奥の席に座り、目の前の机に積まれた本の山をじっと見つめていた。 タカナシカツヤの作品だ。 彼のデビュー作は貸し出し中だったが、2冊目、3冊目、そして4冊目を見つけることができた。どれも文庫化されており、手に取るのに抵抗はなかった。表紙のデザインはどれもシンプルで、文学賞を受賞した作家らしい品の良さがあった。 とりあえず借りるだけ借りればよいとは思っていたが、いざ手に取ると、その場ですぐに目を通したくなった。 キヨミは中学生の頃、図書室にある小説や詩、戯曲、歴史書、地理書、医学書、そして辞書など、あらゆる本を手当たり次第に読むほどの熱心な読書家だった。恐らく1時間もあれば、小説3冊、ざっくり概要を理解することくらいはできるだろう。 キヨミはまず2冊目、『うしなう』を開いた。 物語は、ある男性が年下の恋人と別れた後の後悔を描いたものだった。男性は売れっ子作家で、女性はまだ学生。互いに惹かれ合いながらも、立場や年齢の差、将来への不安からすれ違い、別れを選ぶ。男性は後になって、女性の存在がどれほど自分を支えていたかに気づき、失った喪失感に苛まれる。 読み進めるうち、キヨミの胸に奇妙なざわめきが広がった。ここで描かれている女性は、アズサだろうか? 年下の女性——純粋で、才能を認められながらも自信がなく、男性にすがるような描写は、高校時代のアズサとはまるで印象が違った。しかし、それはあくまでキヨミから見た印象だ。カツヤの前でアズサは、こんな風に自信のない、まるで幼い少女のような姿だったのかもしれない。 特に別れのシーンで女性が言う「私はあなたに独占してほしかった」という台詞が胸に刺さる。当時のアズサの口からその言葉が出てきたことを想像しても、違和感はなかった。 キヨミは本を閉じ、深く息を吐いた。もちろん偶然の一致ということもありえる。だが読んでいる間、ずっとアズサの顔が浮かんで離れなかった。 次に3冊目、『転生』を開いた。 これはある女性が整形手術を受け、風俗嬢として生きる道を選ぶ物語だった。女性は元々、名門大学に通う優等生。ある夜、街で暴漢に襲わ

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第46羽:ジョンとヨーコ

    カツヤはシャツを脱ぎ、下着も脱ぐ。“中肉中背”と呼ぶよりはやや引き締まった男性的な裸体が露わになった。作家であると同時に売れっ子でいるためには体力も必要であることを彼は知っている。適度なジム通いは続けているようだった。アズサはその、あばら骨の浮き立つ辺りを撫でる。彼と初めて交わったときも、最初にそこを触ったのを覚えていた。無駄のない筋肉は美しく、丈夫な骨は頼もしく、素直に感動を覚えた。だが、当時は彼のことがあまりに完璧で、巨大に見えた。新人賞を取って作家の仲間入りできたと思ったのに、すぐその先にこんな高い壁が聳えていたのかと、憧れと共に畏怖の念を抱いた。そんな彼と交

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第43羽:フレンチとコンクリート(上)

    【2019年10月】東京都・新宿区事件から5日目。アカリの接客専用アカウント宛に、テラダからLINEが来た。 「アカリさん、大丈夫? お店、まだ休業が続いているようだけど……」 書き出しはそれに始まり、かなり長い文面が送られていた。100行、いや200行ぐらいあるだろうか。LINEでこんな長文、なかなか見ない。 読み進めると、最初に店が休業になったことへの労わり始まり、アカリには暴力を振るう客などいなかったかという心配、今アカリがちゃんと生活をできているのかという不安が綴られていた。 そして、できれば会って話をしたいが、店も休業中でそんなことを言っても迷惑だろうといった|

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第35羽:チキンステーキと着衣セックス(上)

    くだらないことを思い出してしまった。ただ白い画面を映すPCから目を離し、時計を見る。時刻は13:40。さすがに昼食を取らねば。 冷蔵庫に、昨日買っておいた味付け済みのチキンステーキがある。ソープの仕事を23時で切り上げて急いで帰った深夜、閉店直前のまいばすけっとで30%引きで購入した商品だ。 商品を包んでいるラップをはずしてトレイから肉を取り出すと、油を敷かず、ホットサンドメーカーで挟む。コンロにかけて中火で焼き始め、タイマーをセットした。じきに肉の焼けるジュウウウウという心地よい音がしてくる。 片面2分、タイマーが鳴ったら手早くひっくり返し、反対側の面をもう2分焼く。徐々に香ばしい香り

  • 新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~   第34羽:ポスティングと炎上

    東京都・世田谷区 千歳烏山の安アパート。キヨミは買ったばかりの作業机でノートパソコンを開き、白い画面をぼんやりと見つめている。一体、何を書けばいいのか。皆目見当もつかない。 そして風俗を続けるべきか、辞めるべきか——それもまだ答えは出ない。テラダの指輪のことが頭から離れず、ユキの言葉も胸に残っていた。 部屋の端には、ポスティングのチラシが高く積まれている。"不動産売りませんか?"という言葉と、一軒家の写真。毎回デザインは変えられているが、訴える内容はほぼ一緒だ。週3回、いつも違うエリアをローテーションしながら配り歩く。同じ家には週1回だけ。 それでも、似たチラシが毎週届くわけで、果たし

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