大盛況のまま閉店時間を迎え、最後のお客さんを送り出す。心地よい疲労感と、まだ肌に残るスポットライトの熱。私は上気した顔のまま、カウンターで祝杯をあげる三人の元へ駆け寄った。「皆さん、最高でした! 練習の時はどうなることかと思ったけど、あんなに感動的なショーになるなんて。特に圭さん、あのお客さんの持病まで言い当てるなんて、やっぱり本物のコールドリーディングは凄いんですね……!」 興奮気味に身を乗り出すと、圭さんは琥珀色のウイスキーをゆっくりと揺らし、整った唇に微かな笑みを浮かべた。その瞳は獲物を愛でるように甘く、それでいて鋭い。「結さん。マジシャンなら、タネのない奇跡なんて信じちゃいけないよ」「えっ?」 圭さんの声が、やけに低く鼓膜を揺らす。彼は隣に座るレンくんに、視線だけで合図を送った。レンくんは、私の隣でポテトチップスを無邪気に齧りながら、悪びれる様子もなく言葉を継ぐ。「……あのね、結ちゃん。僕、ショーが始まる前、あのお客さんがコートを脱ぐのを手伝った時に、ちょっとだけ『資料』を借りてたんだ」「資料……?」 嫌な予感が背筋を走る。レンくんは、その細くしなやかな指先で、ポケットから小さな薬の袋を摘まみ出してみせた。そこには、さっきの女性客の名前と、循環器系の処方薬の名称がはっきりと記されている。「あの方が席に着くまでの、ほんの数秒だよ。……はい、これは写し。本物はもう、お帰りの際にお返ししてあるから」「な、……っ!」 絶句する私に、圭さんが身を乗り出し、私の顎を指先で軽く持ち上げた。逃げようのない至近距離。彼の纏う、洗練されたビターな香水の香りに眩暈がする。「これは『ホットリーディング』。事前に得た確実な情報を、あたかもその場で読み取ったかのように演出する……欺き(コン)の基本だよ、結さん。コールドリーディングだけで勝負するのはリスクが高い。僕が求めているのは、百パーセントの成功(コントロール)だけだ」
Last Updated : 2026-04-17 Read more