All Chapters of RMTサバイバー~今日の宿代を稼ぐ俺と、人助けで戦う使い魔~: Chapter 191 - Chapter 200

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第191話 全財産だ

――最高級、蘇生クエスト、たった一人でウミを倒す ジャンクアイランド。 その島の、木々が開けた地面の上だった。 辺りを包んでいた濃い霧は消えている。木の葉の隙間からは太陽の光が差し込んでいた。風に揺られて葉っぱが音を立てている。遠くには山が見えた。山? いや違う。武器や服、乗り物や使い魔たちの死骸が山となっているのだった。腕や足のちぎれた姿がなんとも痛々しい。その下の地面にはポーションの空き瓶が転がっていた。 少し離れたところには白い着ぐるみ姿のウミがいて、左手を腰に当てている。右手の剣で地面を突いていた。挑戦者を待っているようだ。 トウマたちは顔を向け合って話し合った。 「みんな、俺が行く」とトウマ。 「あたしが行くわ」とベルフラウ。 「僕がやる!」とアイギス。 三人が立候補していた。 トウマは小刻みに首を振って、懇願するように声を絞り出した。 「ベルフラウ、アイ、ここは俺にやらせて欲しい」 「ダーリン、大丈夫なの? ウミちゃん、強いわよ?」 ベルフラウが心配そうな目つきでつぶやいた。 アイギスがぶんぶんと首を振った。 「僕がやる!」 その瞳には、絶対に自分が救い出すのだという決意が宿っている。 トウマはアイギスにゆっくりと歩み寄り、その肩に両手を置いた。 「アイ、頼む。俺にやらせてくれ」 「ダメ!」 「アイ。俺にウミを、迎えに行かせて欲しい」 「ダメ!」 「……頼む」 トウマの顔に苦渋がにじむ。 晴恋が助け船を出した。 「アイ。だんちょはウミちゃんの主人だから、ここは任せよう?」 「でも、負けたらどうするの!?」 アイギスの耳が怒ったようにピンと立っていた。 トウマはその場に両足をつく。頭を下げた。 「頼む……アイ。必ずウミを連れ帰ってくる」 「……大丈夫なの?」 「必ず勝つ」 「……じゃあ、分かった」 「ありがとう」 トウマは立ち上がった。左手を掲げる。 「みんな、行ってくる!」 「トウマさん、ファイトさ」とニキ。 「きゃるるぅっ」 「ダーリン、勝ってね」とベルフラウ。 「だんちょ、負けちゃダメだよ」と晴恋。 トウマがブラウンのステッキを両手に構えて、ウミの元へと歩み寄った。 ウミの顔つきが険しくなる。警戒したように眉にしわを寄せた。 「ご主
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第192話 おかえり~第四巻エピローグ~

 ウミがこちらによたよたと走って来ていた。表情がぐしゃぐしゃに崩れている。 トウマが地面に膝をついて両手を開く。「ウミィイ!」「ご主人様ぁぁああ!」 瞬間、アイギスが横から飛び出した。ウミの身体をかっさらって、二人で地面に倒れる。「ウミちゃあぁぁああん!」「あ、アイちゃん!?」 ウミが驚いたように目を見開いた。 アイギスのモフモフとした尻尾が激しくぶんぶんと揺れていた。ウミの胸に顔をこすりつけて泣き叫ぶ。「ウミちゃあぁぁぁぁああああん!」「あ、アイちゃん、会いたかったですよぉ!」「ウミちゃんがいないとダメだもん! 僕、もう耐えられないもん!」「大丈夫ですよ、アイちゃん。ウミは、ウミはここにいますですよ?」 ウミがあやすように声をかけた。背中をさすってあげる。 アイギスが身体を巻き付かせる。「ずっと、ずっと、会いたかったんだもん」「私も、アイちゃんに会いたかったですよ」「いっぱい、いっぱい甘えないと、気が済まないもん!」「あはは。いっぱい甘えていいですよ」「ウミちゃあぁぁああん!」「よしよし、アイちゃん、よしよし」 アイギスの頭をウミが一生懸命に撫でている。 ジャンクアイランドの木々の開けた地面の上だった。空からは太陽の光が照らしている。いま西日になってきていた。涼やかな風が吹いて木の葉がさらさらと音を立てている。だけど乗り物や使い魔の死骸の山の景色は、あまり気持ちの良いものではなかった。配信不可エリアであり、ドローンは無い。 トウマは両手を開いたまま、ちょっと肩透かしをくらった気分だった。目の前ではアイギスとウミが再会の喜びを分かち合っている。 トウマは両手を下ろして立ち上がった。ふうとため息をつく。ベルフラウがトウマの隣に並び、むふと笑った。意味ありげにウインクする。 トウマは腕組みをしつつ、アイギスとウミの様子を見守った。 アイギスは尻尾の振動がお
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第193話 三千円の結婚指輪

 カーペットも、カーテンやベッドの布団、枕カバーまでピンク色だった。 真帆は昔からピンクが大好きだった。 扉のそばにはプラスチックのタンスが三つ。その隣にはコンパクトな物干しが四つある。オシャレのためのスタンドミラーも備えた。ユウマが勉強するための小さな学習机と椅子も買った。 よーし、(素敵な部屋になったわね) この間、ホームセンターからピンク色の日々草を買ってきた。いま、ベランダのプランターに三つ植えてある。春から秋まで咲いてくれる花持ちの良い花であり、ユウマと二人で選んだのだった。可憐な花が夜風にそよそよと揺れている。 あれから、十数日が経過していた。 無事にアパートを借りることに成功し、入籍もした。 その際、二人の両親には電話で報告をした。今度、親族顔合わせをすることになっている。日取りはまだ決まっていない。 ゲーム内では、真帆たちは王都アランクルスに到着している。バフ料理や服を、作っては売る作業に明け暮れている。ウミを取り戻すために使い果たしたヴァルをまた貯めるためだった。いま、だいぶ貯まってきていた。 本当は、料理や釣り、爆弾や服の制作など、隠されたシステム情報を売ればぼろ儲けできる。 だが、それをすることをユウマはメンバーに禁じていた。システム情報を売るということは、料理や服を売って稼いでいるプレイヤーからすれば営業妨害である。実行すれば、グラスオースは迷惑ギルドのレッテルを貼られかねない。 いま、真帆はアパートのキッチンで夕食を作っていた。横長のキッチンであり広々としている。片栗粉をまぶした豚肉を焼いており、焼け具合を見て、混ぜ合わせておいた調味料をかける。生姜焼きがすぐに出来上がった。スプーンでタレを味見する。(うん、こんな感じね)「ふんふんふん」 自然と鼻歌を口ずさんでいる。 良い気分だわ。 ユウマは部屋でのんびりとくつろいでいる。 真帆はだし巻き卵も焼いた。明日の朝の分も多めに作る。 トマトとキュウリを切って、レタスを千切る
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第194話 幸せを手放すもんか

 その夜。 グラスオース号は王都アランクルスの近海に停泊していた。 ウミとアイギスが出港させたのである。 空には黄色い三日月が浮かんでいる。まるで弓のような形だとウミは思った。ちぎれちぎれの薄い雲が流れている。ちぎれた綿菓子みたいだ。黒い海を、月明かりだけがほんのりと照らしていた。時折魚がぴちと跳ねて、ちゃぷんと音を立てている。七月の夜風は少しだけ冷たかった。空気は潮の香りに満ちている。 ウミとアイギスは今、釣りをしていた。この十数日の間にギルドメンバーの全員が釣りシステムを開放させている。 キャルル丸もいて、興味津々に見つめていた。 トビウオのHPを回復させるためだった。何でも、HPが全回復すると素敵なプレゼントをくれるらしい。なので、ウミとアイギスは毎晩、二時間だけ釣りをすることにしていた。 ちなみに、NPCの操舵士のおやじさんは24時間営業である。 トビウオはキャルル丸の足元で丸くなっていた。 配信はしていない。 いま、ウミの木の棒がキュッとしなる。両手がぐぐぐと重くなった。 ドキンと胸が高鳴った。(やったですぅ!)「アイちゃん、来ました!」「本当?」「これは大きいですぅ」「すごい!」「きゃるるぅっ」 ウミが木の棒に糸を一生懸命に巻く。やがて海から魚が顔を出した。ウミは夜目が利いた。うっすらとピンク色がかった大きな魚である。 ウミの右手首には腕力の腕輪がはまっている。魚をぐいぐいと引き上げた。やがて、釣り上げられた魚を両手で握る。魚がぴちぴちとしなった。アイギスとキャルル丸が目を丸くしていた。 強く握られすぎているせいか、魚は困った顔をしている。 ウミがニカッと笑い、口からチャーミングな八重歯を覗かせた。「やりました! 大物ですぅ!」「ウミちゃん、それ大きい」「きゃるるぅっ」 キャルル丸が嬉しそうに頬を緩めて、舌で口をべろりと舐めた。「えへへー」
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第195話 支払いの道

 翌日の早朝。 電話の音で真帆は目を覚ます。隣にはまだ眠っているユウマの気配があった。 カーテンの向こうはまだほの暗い。 けだるい眠気をそのままに、彼女は枕元のスマホを手に取る。 母からだった。(何かしら?) 通話マークを指で滑らせる。スマホを耳に当てた。「もしもし?」「もしもし、真帆か? 朝早くからごめんね」 聞き慣れた母親の声だった。苦労を重ねたせいで声が少ししわがれている。けれど、今はその声が一段と弱っているように響いた。 真帆はベッドに女の子座りをする。「どうしたの?」「実はね、相談があるんだけれど、いま、大丈夫かい?」「大丈夫だけれど、何? ふわあ」 思わずあくびが一つ出た。 母親は大切なことを伝えようとしているようで、声を絞り出すように説明した。「困ったことになってね。昨年、お父さんが、高梨さんにけがをさせただろう?」 緊張で心臓が跳ねた。 まさか、(賠償金のことなの?) 眠気にまどろんでいた頭が一気に冷えていく。「……うん」「実はね。高梨さん、京都の大病院で脳の再生医療を受けることになったんだと。……それがとっても難しい治療みたいでね。お母さんもよく分からないんだども、自由診療らしいんさ。だから、いっぱいお金がかかるんだって」「うん」「それでね。うちにはまだ、一千万円近くの支払い義務があるだろ?」「うん」「……高梨さんのご両親が、今すぐ払って欲しいって、言ってきてるんだわ」「……そっか」「こんなことあんたに相談しても、あんたを困らせるだけなのは分かってるんだ。あんたは今、ユウマちゃんと入籍したばかりで、おめでたい時期だからね。本当はこんな事を伝えるのも、すごく心苦しいんだ。だけど……秘密にしておく訳にもいかないだろ?」「そうね」「……はあ! 本当に困ったもんさ。真帆、いまお金あるかい?」 真帆は言うのをためらった。「……無いわ」「そうだよねえ。とにかく、そう言うことになったんだわ。お金の方は何とか色々と、お母さんたちで工面の当てを探してみるさ。……真帆、お前は心配せずに、ユウマちゃんと幸せに暮らしてね。とにかく、そういうことだから」「お母さんは元気なの?」「元気? あっはは。元気っちゃあ元気だよ。だけどこの頃は、いま言ったことで頭が痛いよ」「お父さんは?」「お父さんは相変わらず、
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第196話 久しぶりの先生

 新宿の中華レストラン、名前は朋来だった。 駅からほど近いお店だった。中は広々としており、小綺麗である。黒いテーブルと椅子が等間隔に並べられている。天井からは中国提灯がぶら下がっていた。大きなガラス窓からは道を行き交う人々を眺めることができた。十時であり、お客さんの入りはまだ少ない。中華料理を炒める音と、その香ばしい匂いが漂っていた。 真帆たちが到着すると、すでに船津は来ていた。テーブルの奥に座っている。ダークグレーのスーツ姿だ。真帆が右手を上げて会釈をすると、船津は立ち上がった。身体の線が細く、背筋はすらっとしている。だけどユウマよりも背が低い。 真帆とユウマは近づき、彼女が挨拶をした。「お久しぶりです。先生」「よく来てくれました。真帆さんと、その旦那さん。真帆さん、お久しぶりですね」 ユウマが頭を下げた。カジュアルなポロシャツを着ている。「ユウマと言います」「貴方がユウマさんですか。真帆さんの口から、ユウマさんの名前は何度も聞いていますよ。診察中にね」「そうでしたか」 ユウマは照れくさそうに頬を赤らめて、真帆をちらりと見る。 真帆は少し恥ずかしくなって、まぎらわすように微笑した。 船津が左手を伸ばして席を勧める。「立ち話もなんです。どうぞ、座ってください」「「ありがとうございます」」 船津の対面にユウマが座る。旦那の隣に真帆は腰掛けた。 すぐに店員が水コップを運んできた。外国語なまりのある日本語で「メニューがお決まりになりましたら、呼び出しベルを押してください」と言った。礼をして去って行く。 船津がテーブルに両手をつけたまま指を合わせて、口を開いた。「まず、入籍おめでとうございます、と言っておこうかな」「ありがとうございます」 真帆は喜色満面で頷く。ユウマも感謝を述べた。「それで、真帆さん。その後の身体の調子はいかがですか?」「特に変わったことはないです」「それは良かった。数年前は
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第197話 今度は俺が助ける番だ

 その日の午後。 王都アランクルスの遊園地にトウマたちは遊びに来ていた。 ウミとアイギスがフリーパスポートを入手したからである。一枚の券につき、20人が入場できるようだ。 スターリーピュアランドである。 ジェットコースターが勢いよく縦に回転している光景があった。客たちが黄色い歓声を上げている。その奥には大きなピンク色の観覧車があり、ゆっくりと動いていた。空中では大きな海賊船がスイングしている。全て魔導具製のようだ。ファストフードやポップコーンを売っている店もある。敷地は広大であり、夢の国のような光景が広がっている。プレイヤーの客がたくさんいて、お菓子を食べ歩きしている。カップル連れも多かった。頭に動物の耳を模したカチューシャをつけている者もいる。人々の表情はウキウキとしており、何とも賑やかだ。リスの着ぐるみを着たスタッフが掃除をしている。客たちのゴミを集めたり、ポイ捨てされたゴミを一生懸命にちりとりに集めたりしている。腕でオデコの部分をさすり、疲れたように吐息していた。清掃員と書かれた腕章をはめている。:今日は遊園地配信ですね。:この遊園地、入場料が馬鹿高いんだよな。:現実のハムスター王国よりもアトラクションにはスリルがあるぞw ドンと音がした。 ――遊園地クエスト、スタンプラリーを全部埋める 入場すると、一つのベンチのそばでトウマたちは立ち止まった。トウマがメンバーに声をかける。「みんな、この遊園地もゲームの攻略要素だと思う。心してかかってくれ」「わあー、凄いですぅ。楽しそうですぅ」 ウミが両手を広げている。アトラクションを眺めて目をキラキラとさせていた。 みんなの頬が嬉しそうに緩んでいた。 トウマはあごを手で撫でる。(まあ、少しぐらい遊んでもいいが) ウミがアイギスの手を握る。もう片方の手でジェットコースターを指さした。「アイちゃん、私、あれに乗ってみたいですぅ」「僕も乗りたい」「行くですぅ!」「うん」「きゃる
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第198話 キスが下手なところも

 ジェットコースターが動き出す。 いま、上へ上へと坂をのぼっていた。 ウミとアイギスとキャルル丸は一番前の席に並んで座っていた。胸元の安全バーを両手で握りしめる。期待と恐怖で胸がドキドキと高鳴っていた。この坂をのぼりきったら、何が待っているのだろうか? ウミははらはらとしてつぶやいた。「あ、アイちゃん、や、やばいですぅ」「やばい」「きゃる、きゃるるぅ」:ジェットコースターはスリル満点。:ウミちゃん、走り出したらバンザイしなきゃダメだよ。:スクショ準備OK。 ジェットコースターがじりじりと坂をのぼりきる。ゆっくりと下りに入った。眼下に広がる遊園地の鮮やかな景色。屋根の色は黄色ばかりだ。ウミの興奮が臨界点に到達した。恐怖を覚えて猫耳を伏せる。 瞬間である。 急降下。 興奮が弾けた。「「キャアアァァアアアアッ!」」「や、やばいですうぅぅぅぅ!」「きゃるるうぅぅぅぅっ!」 お客さんたちが絶叫した。ウミは顔面を硬直させて目を大きく見開いた。ジェットコースターが全速力で走っている。降下したと思ったら右に曲がり、左に曲がり、胸がドクンドクンと振動する。ハイスピードのまま縦回転ゾーンに突入した。ウミはバンザイをして叫んだ。「ヤバアァァアアアアアアアアア!」:ウミちゃん楽しんでるw:ウミちゃんの絶叫顔をスクショ完了w:アイちゃんが目をつむっているぞw ジェットコースターは走り続ける。曲がってくねって、下ってはのぼり、またしても縦に大回転する。ウミの胸はドキンドキンと爆発しそうだった。死にそうなスリルは次から次へと襲って来た。ウミは声が枯れるほどに叫び続ける。「やばいですぅぅぅぅっ!」 やがてスリリングな体験が終わり、プラットホームに帰ってくる。 車両から降りると、ウミとアイギスはウキウキとして笑い合った。モフモフとした尻尾がぶんぶんと振動する。喜びが溢れた。「アイちゃん、今の、とっても楽しかったですぅ!」「本当!」 アイギスの顔にも笑みが浮かんでいる。 キャルル丸はちょっと目を回していた。頭をふらふらと揺らしている。「きゃるるぅ……」 ウミが心配そうにキャルル丸の首を撫でた。「ちょっとキャルル丸、大丈夫ですかぁ?」「きゃるる!」 キャルル丸が自信満々そうに胸を張った。 猫の亜人なので、ウミにはキャルル丸の声が分か
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第199話 いつでも狙っていますよぉ

 少し離れたところでは、ウサギの着ぐるみを着た清掃員が掃除をしていた。 箒とちりとりを使って地面を掃いている。だけどそこにゴミは無い。(おかしい) トウマは疑わしそうな目で清掃員を観察していた。視線に気づいたのだろう。清掃員は焦ったように背中を向けて、だけどやはりゴミの無い地面を掃除している。 配信は先ほどから切ったままだった。 トウマは目を細めて、清掃員のHPMPバーを注視する。 夜月と書かれていた。(マジか!?) トウマがベルフラウの肩を叩く。「おい、ベルフラウ。起きろ、やばいぞ!」「むにゃむにゃ、トウマのえっち~」 妻は完全に寝ぼけている。それでも頭を揺らして上半身を起こした。 ふと、向こうからはニキと晴恋が歩いてきていた。 恋人つなぎをしている。 何か良いことでもあったかのように、二人の顔には幸せが溢れていた。二人の輪郭からはピンク色のオーラが放たれているような気さえした。 ニキがトウマに声をかける。「トウマさん、お待たせさ」「だんちょっ、三時になったから来たよ」 晴恋が右手を上げた。 トウマは立ち上がる。 低い声で伝えた。「ニキさん、晴恋、気をつけろ。近くに夜月がいるぞ」「え、ええ! どこに!?」 ニキが周囲をキョロキョロと見回す。「うっそ?」と晴恋。「夜月がいるの!?」 ベルフラウが慌てて立ち上がった。 トウマはウサギの清掃員を指さす。 清掃員はビクッと身体を震わせて、それでも地面を掃き続ける。 怪しい動きだ。 ニキたちとは反対側の方から、今度はキャルル丸に乗ったウミとアイギスがやってくる。 キャルル丸は乗られることが嬉しいようで、るんるんと足取りを弾ませていた。 ウミが声をかける。「ご主人様、来たですよー」「楽しかった」「きゃるるぅ」 トウマは清掃員を指さしたまま警戒を促す。「ウミ、アイ、注意しろ。あれは夜月だぞ!」「よ、夜月がいるですか!?」「マジ?」 ウミとアイギスがすぐにキャルル丸から降りる。 みんながステータス画面を開いて、武器を取り出した。 周辺にいた人々が何事かと距離を取りだす。 ウミが鼻筋にしわを寄せて、唇から鋭い八重歯を覗かせた。「本当ですぅ。あいつ、夜月ですぅ。HPMPバーに名前が書いてあるです!」「どうして掃除をしてる?」 過
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第200話 迷子の男の子

 スターリーピュアランドの一つのベンチ前だった。 七月の強い日差しが照りつけている。空には入道雲が膨らんでいる。まるで綿飴みたいだ。太陽はだんだんと西に傾いてきていた。建物の屋根は全て黄色をしている。ヒヨコが並んでいるようだとトウマは思った。少し離れたところにメリーゴーランドがあるようで、華やかなメロディーが響いてくる。キャルル丸の周りにはどうしてか白いハトが集まっており、背中や頭に乗っかっている。動物に好かれる体質のようだ。キャルル丸は嬉しそうに頬を緩ませていた。太い尻尾がゆらゆらと揺れている。「うえぇぇええん、ママどこおぉぉおお?」 右手の方から、幼稚園児ほどの男の子がとぼとぼと歩いてきた。顔をしわくちゃにして泣きじゃくっている。小さな青いバッグを肩に下げていた。「ちょっと、どうしたの?」「貴方、どうしたですかぁ?」 すぐにベルフラウとウミが駆け寄り、男の子のそばにしゃがみ込む。 男の子はウミの顔を見て、だけど大声を上げた。「ママあぁぁああ! うわあぁぁああん!」「よしよし、良い子ですよ? ママはもうすぐ来るですよ」 ウミがあやすように言って、男の子の頭を撫でる。 だけど泣き止まない。 男の子は癇癪を起こしたように叫んだ。「ママじゃないとやだあぁぁああ!」 ウミが困ったようにベルフラウを見た。「師匠、どうしたら良いですか? 泣き止まないですぅ」「本当ね。うーん、そうだ!」 何か思いついたようで、ベルフラウがステータス画面を出した。中から一枚の製菓カードを取り出す。「オープン」と唱えると、ソフトクリームが出現した。 ベルフラウがまあるい声を出す。「よちよち。良い子でちゅねー。ほおら、ソフトクリームでちゅよー」「うえぇぇええん、そ、ソフトクリームだあ」「よちよち。ほおら、甘くて美味しいソフトクリームでちゅよー? 食べたいでちゅねー」「た、食べてもいいの?」「いいでちゅよー? はあい、しっかりお手々で握りまちょうねー」「う、うん」 男の子がソフトクリームを持って、一生懸命に舐め始める。 ベルフラウは慈しむような眼差しを送った。男の子の頭を撫でる。 トウマは驚いていた。(ベルフラウは、こんなこともできるのか?) 案外、母性が強いのかもしれない。 ちょっと良い気分である。 ウミが尊敬の眼差しでベルフラウを見た
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