安藤博史(あんどう ひろし)と過ごした4年間は、新井美由(あらい みゆ)の人生で最も幸せな時間だった。別れた後……美由は5年間悲しみの中にいた。毎日ではないが、博史を思い出す度、心に冷たい雨が降り、息苦しさとともに自然と涙が溢れるのだった。この先の人生、博史に再会することなどないと思っていたのに。それは、碓氷雄太(うすい ゆうた)が主催した食事会の席でのことだった。賑やかな個室に入った瞬間、美由の視線は忘れようとしても忘れられない横顔に釘付けになった。その瞬間、津波のような衝撃が心を揺さぶった。周囲の音も色も、すべてが消え失せた感覚に陥る。視界には、博史の姿しか映らなかった。白いワイシャツに黒のパンツ姿。引き締まった長身に、気高く優雅な雰囲気。そして、どこか冷ややかな空気を纏うその横顔は、息を呑むほど美しかった。博史はうつむき加減でスマホを見ていた。ふいに、過去の記憶が重なり合った。あの明るく温かい、笑顔が絶えなかった青年が自分を抱きしめ、甘えるように顔を近づけてくれていた日々。「美由、キスして」しかし、それは昨日今日の話ではなく、5年も前のことだった。まるで前世の記憶のように遠い……指先が微かに震え、胸の奥が締め付けられるように痛み、目頭が熱くなる。しかし、彼に向き合う勇気などなく、今はただ逃げ出したかった……躊躇った美由は、慌てて背を向けると立ち去ろうとした。「美由さん……」雄太に声をかけられた。「来たばかりなのに、もう帰るの?」美由は足を止め、ドアに手をかけたまま固まってしまった。個室にいたほぼ全員の視線が彼女に集まる。ただ一人、博史だけが画面をスクロールする親指をピタリと止めただけで、美由の方に視線を向けなかった。美由は深く息を吐き出したが、なんだか胸がつかえているような感じがして、とても息苦しかった。初恋の相手との再会は、ひどく気まずく、いたたまれない。ましてや二人の別れは、最悪だったのだから。「早く入って。菖蒲ももうすぐ着くから」と雄太が美由を促す。碓氷菖蒲(うすい あやめ)というのは美由の幼馴染であり、大親友だった。先月、雄太と見合いをし、お互い一目惚れだったらしく、すぐに交際を始めた。この二人の熱は一気に燃え上がり、来月中旬には結婚式を挙げることに
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