美由も、博史に自分が最低な女だなんて思われたくない。そして、それ以上に博史をもう傷つけたくなかった。だが、どうしようもないのだ。1時間後、車は郊外に入り、美由のアパートから少し離れた駐車場に停まった。「ありがとう」美由は、博史がなぜここで車を停めたのか分からなかったが、お礼を言ってドアを開け車を降りた。しかし、駐車場を出たところで、博史がついてくるのに気づき、美由は不思議に思って振り返った。「何してるの?」博史はスマホと車のキーをズボンのポケットに入れながら言った。「お前の家に傘を取りに行く」美由は、ことさら冷静に答えた。「明日、配達サービスに頼んであなたの家に送るから」「もうここまで来たんだし、自分で取りに行く」「もう遅いから、迷惑なんだけど」オレンジ色の暖かい街灯が二人を照らし、淡い光の輪が浮かび上がる。あたりは静まり返っていた。博史は黙り込み、美由の穏やかな瞳を見つめる。何の感情も宿していない彼女の目は、澄んでいるのに、ひどく冷たくて無情に見えた。やがて、博史は仕方なさそうに言った。「もう夜中の1時半だ。運転してて眠いんだ。このまま帰ったら事故るかもしれない。お前の家でコーヒーを一杯飲ませてくれ。目を覚ましたい」美由はスマホを取り出した。「代行を呼んであげるよ」博史は鼻で笑うと、美由からスマホをひったくった。そして不機嫌そうに言う。「美由。まさか俺が、骨の髄まで憎んでる元カノに何かすると思ってるのか?」またスマホを奪われ、美由は腹を立てた。「博史、私は弁護士だよ?自分の身を守る意識くらいはあるの。あなたが私を憎んでいるからこそ、自分の安全を守らなきゃいけない。スマホ返して」博史はニヤリと笑い、美由のスマホを自分のポケットにしまった。そして声を潜め、わざと陰険な雰囲気を作って、一言一言区切るように言った。「俺がお前をどうにかしたいと思ったら、弁護士だろうが警察だろうが関係ない。そんなのは無駄だ」博史のことを知らなかったら、今の言葉で本気で恐怖を感じていただろう。しかし、美由は心底疲れ果てていたので、博史の感情が読み取れない黒い瞳を見上げ、少し懇願するような声で言った。「博史。私たち、もう別れて5年も経つの。一体何がしたいの?」「別に何も。ただお前の家でコーヒーが飲みたいだけだ」博史はあざ笑う
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