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第4話

Penulis: キンちゃん
病院。

支払いを済ませた美由は、領収書を手に病院から出た。

充が追いかけてきて、美由の腕を掴む。「この前言ったこと、考えてくれたか?」

美由は怒りに任せて充の手を振り払い、振り返って睨みつけた。「頭おかしいんじゃないの!」

充は怒りを露わにし、ギリッと奥歯を噛み締めた。そして腰に手を当て、傲慢な態度で言った。

「俺と結婚すれば、賠償金はチャラにしてやるって言ってるんだ。父さんの医療費だって払わなくていい。お前の母親の言う通り、銀行から借金してでも結納金を用意してやる。そうすれば、両家の因縁はこれですべて帳消しになるんだぞ?」

美由は充と口を利くことすら嫌だった。

この男が視界に入るだけで吐き気がする。

美由は怒りを抑え、黙って歩き出した。

それでも充は美由を追いかけ、彼女の腕を乱暴に引っ張った。「お前の母親の同意だって得てる。なのに、何をそんな頑なに……」

「じゃあ、私の母と結婚すればいいじゃない」美由は声を荒げた。

充の口元がヒクヒクと引き攣る。そして、獲物を狙うような鋭い目つきで美由の後頭部を掴み、自分の方へ乱暴に引き寄せた。

「この俺がこんないい条件で結婚してやるって言ってるんだから、ありがたく思えよ!それに、俺の気は長くねぇんだ。手荒な真似をされたくなければ……な?分かるだろ?」

汚らしい手で後頭部を掴まれた美由の胃は激しく波打ち、吐き気がこみ上げた。美由は充を鋭く睨みつけ、一字一句はっきりと告げる。「ここは法治国家よ。私に指一本でも触れてみなさい。残りの人生、刑務所で過ごさせてあげるから」

「法律がなんだって言うんだ」鼻で笑った充は、嫌な笑みを浮かべながら言った。「元々はお前の親父が原因なんだ。娘のお前がなんとかするのが、当たり前だろ?」

美由は毅然と言い返す。「父は無実だから」

必ずこの冤罪を晴らす。賠償金など払うものか。今まで払ってきた医療費も全額返還させ、父が受けた5年間の不当な刑罰に対し、国にだって損害賠償を請求するつもりだ。

充はくだらないとでも言うように笑った。「懲役20年以上くらっておいて、まだ無実だって?」

これ以上、この男と言葉を交わす気はなかった美由は、充の手を力強く払い除ける。

美由が大股で立ち去ると、背後から充の怒鳴り声が響いた。「俺は絶対にお前を手に入れて見せるからな。逃げられると思うなよ!」

この男の声を聞くだけで耳が腐ると思い、美由はさらに歩調を早めたのだった。

法律も知らない野蛮人と話すなんて、虫酸が走る。

……

1週間後の午前1時。

眠りについていた美由は、スマホの着信音で目を覚ました。暗闇の中手探りでスマホを探し、慣れた手つきで画面をスワイプして耳に当てる。「もしもし……」

「美由……私、結婚なんかしない。うっ、うわーん……雄太とは別れる……」

電話の向こうから、酔っ払って泣きじゃくる菖蒲の声が聞こえてきた。

美由は一気に目が覚め、勢いよく身を起こした。「どこにいるの?お酒飲んでるの?」

菖蒲たちの結婚式は15日後だ。もう入籍も済ませ、招待状も送り、前撮りも終えていると言うのに……

今さら別れるなんてどういうことなのだ?

何か大きなトラブルがあったに違いない。

美由は慌てて布団を跳ね除け、ベッドから飛び降りた。「菖蒲、今どこ?」

「バー・トモシビ」

「そこにいて、どこにも行かないでね。今すぐ迎えに行くから」美由は急いでクローゼットを開け、服を引っ張り出した。

焦ってバー・トモシビの個室に駆けつけると、そこには雄太の姿もあった。

二人ともかなり酔っており、それぞれソファの端と端に2メートルほど離れて座り込んでいた。

「美由……」酒で真っ赤な顔をした菖蒲は、美由の姿を見ると、泣きながら手を伸ばし、悲痛な声で訴えかけた。「私、雄太と別れる。ここから連れ出して。雄太の顔なんか、もう二度と見たくない」

美由はバッグをソファに置き、ティッシュを持って菖蒲の隣に座ると、優しく涙を拭ってあげた。「どうしてこんなになるまで飲んだの?感情的になっちゃ駄目でしょ?何か問題があるなら、お酒が抜けてから話し合った方がいいんじゃない?」

すると、顔を真っ赤にした雄太が、ふらふらと立ち上がった。「博史、来てくれたのか」

その声を聞いて、美由の心臓がギュッと縮み上がった。血液が凍りついたかのように、全身が重く痺れる。美由は緊張しながらゆっくりと顔を上げた。

博史は上下黒のシャツとパンツ姿で、相変わらず冷酷で気高い雰囲気を纏っている。そして、その底知れぬ暗い瞳は、真っ直ぐに美由を捉えていた。

視線が絡み合うと、美由の心は乱れ、よく分からない恐怖に襲われた。

先週の記憶がフラッシュバックする。博史に強引にキスをされた恐怖は、まだ鮮明に残っている。博史の唇の傷は治っていたようだが、美由の心に刻まれたしこりは消えていなかった。

雄太がふらつきながら博史に寄りかかった。

博史は雄太を支えるように腕を掴む。

「こいつ、俺と別れるって言うんだよ」雄太が菖蒲を指差し、泣きそうな震える声で言った。「なあ、こいつに心ってものはあるのかな?」

しかし、博史が見ていたのは菖蒲ではなかった。

美由だったのだ。

その視線に射抜かれ、美由の胸が激しく痛む。

「ないな」博史の声は低く、小さく、そして凍てつくように冷たかった。

美由は目を伏せる。そして、急かすように菖蒲を立たせ、自分と菖蒲のバッグを持ち、「菖蒲、家まで送るから」と声をかけた。

足元がおぼつかない菖蒲を支えながら、美由は部屋を出て行った。

バーを出た美由はタクシーを拾い、菖蒲を乗せる。

「菖蒲、あなたのお母さんのところに送るから」美由は菖蒲を抱き寄せ、優しく髪を撫でた。

しかし、菖蒲が泣きそうな顔で首を振った。「やだ。こんな顔、お母さんに見せたくない。きっと心配するよ」

「じゃあ、うちに来る?」

「ううん。美由には迷惑かけたくないから、家でいい」

「でも、雄太さんと一緒に住んでるんでしょ?また夜中に喧嘩になったらどうするのよ?」

菖蒲は体を起こし、酔っ払った勢いで怒鳴った。「あのマザコン男、きっと実家に帰って大好きなママに慰めてもらうんだから!私たちの家なんかになんて帰ってこないよ!」

美由は二人の喧嘩の原因がだいたい察しがついた。

母子家庭で育った雄太は、母親思いだった。一方の菖蒲は、家族の愛情を一身に受けて育ったお姫様気質で、自由で快適な生活を好む。姑と同居などしたくない、といったところだろう。

仕方なかったが、美由は菖蒲を雄太と暮らしている家へと送ることにした。

高級マンションの最上階。広々としていて、とても暮らし心地が良さそうだった。

部屋に入る。

美由は菖蒲を寝室の大きなベッドに寝かせ、靴と靴下を脱がせた。温かいタオルで体と腕を拭き、メイクを落とし、着心地の良いパジャマに着替えさせる。

さらに酔い覚ましの薬と水をベッドサイドに置き、明日の朝すぐに履けるようにとスリッパまで揃えて置いた。

その時、外から玄関のドアが開く音がした。

美由は胸をドクンと鳴らし、慌てて寝室を出た。

ちょうど、博史が泥酔した雄太を支えて入ってくるところだった。

博史は雄太をソファに放り投げ、自分の肩を揉みながら後ろを振り返った。

二人の視線がぶつかる。

美由はビクッと体を震わせ、急いで寝室に逃げ込んだ。心臓が激しく鼓動し、緊張と戸惑いで頭が真っ白になる。

博史には警告された。完全に彼の世界から消え去れ、二度と目の前に現れるな、と。

しばらくして、玄関の方からドアが閉まる音がした。

美由はしばらく寝室の中でじっとし、外の気配が完全に消えたのを確認してから、そっと部屋を出た。

博史はもう帰ったようだった。

ソファに横たわっている雄太を見て、少し同情した。

男とは、本当にガサツだ。送り届けるだけ送り届けて、布団一枚すらかけてあげないなんて。風邪でも引いたらどうするのだろう?

美由は寝室のクローゼットから布団を取り出し、雄太にもかけてあげた。

時刻はすでに午前2時半を回っている。美由はひどい疲労感に襲われ、全身から力が抜けていくのを感じた。

バッグを持ち、疲れ切った顔で玄関のドアを開けて外に出た。

ドアを閉めた瞬間、顔を上げると、目の前に男が立っていた。ギョッとして後ずさる。ドアを背中に、焦りながらドアノブをガチャガチャと回した。

しかし、ドアはオートロックだったようで、鍵が掛かっており、逃げ場はなかった。

美由の心臓が早鐘のように鳴り、呼吸が乱れる。緊張でごくりと唾を飲み込んだ。

博史は片手をポケットに突っ込み、気怠げに壁に寄りかかっていた。

その長く骨ばった美しい指先には、半分ほど吸いかけのタバコが挟まれている。うつむいていた彼がゆっくりと顔を上げ、漆黒の瞳で美由を見据えた。

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