Alle Kapitel von 5年ぶりに再会した安藤さんは、また理性を失った: Kapitel 11 – Kapitel 20

30 Kapitel

第11話

美由は胸を震わせ、わけがわからないという顔で答える。「わざとって……何のこと?」博史は小さく息を吐き、細めて美由の澄んだ目を見つめた。欲望から、声には苛立ちが滲む。「とぼけるな。一晩中、そんな格好で俺の前をうろちょろしやがって。もしお前にそういう気があるなら、はっきり言え。応えてやらないことも無い」美由は分かったような、分からないような微妙なところだったが、それでも頬はカッと熱くなり、心臓がどうにかなりそうなほど激しく鳴った。それでも、自分が博史の言葉を勘違いしているのかもしれないと思い、「何のことか、よくわからない」とつぶやいた。すると、博史がしびれを切らしたように、美由に体を押し付けた。「これで、わかっただろ?」博史の体が、押し付けられたその瞬間――美由は驚いて目を見開いた。瞳がかすかに震える。驚きと緊張で、どうしたらいいかわからない。ただ、はっと息をのむしかなかった。美由は、博史のいらだちの原因をはっきりと悟った。熱い体。硬い胸板。荒い呼吸。どうして、こんな大事なことを忘れていたんだろう?博史は昔から、自分がネグリジェを着ている姿を見ると我慢できなくなってしまうのだった。だから自分のパジャマは、ほとんどが地味なシャツと長ズボンだった。ネグリジェを着ることは、博史にとっては「誘っている」というサインと同じ意味だったのだ。「そういうことなんだろ?」博史は熱っぽい目つきで美由を見つめた。声はほとんど聞こえないほどかすれている。体を押し付けている博史が、生唾をごくりと飲んだ。5年も男性から遠ざかっていた美由とて、何も分からないわけではなかった。体は熱くなり、心もざわつく。しかし、博史とはもう未来がないのだから、これ以上かき乱してはだめなのだ。理性で必死に自分を抑える。いい大人なのだから、自分の行動には責任を持たないといけない。それに博史には、遥がいるではないか。人の恋路を邪魔するような女にだけは、なりたくなかった。美由は手首を振りほどくと、ありったけの力で博史の胸を突き放した。博史が一歩後ろへ下がる。「勘違いさせてごめん。わざとじゃないの」美由は慌てて謝ると、急いで床から服を拾い上げた。そしてそれを抱きしめたまま、自分の部屋へ駆け込んだ。ドアを閉めるやいなや、すぐに鍵をかける。ドア
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第12話

台風はまる一日続いて、豪雨が収まる事はなかった。住宅地の敷地はめちゃくちゃだった。植えられたばかりの若木も、生い茂った古い大木も、風にあおられて、あちこちに倒れたり折れたりしていた。低い土地の道路や地下駐車場は、多くが浸水している。ここ碧瀾郷も、例外ではなかった。博史は朝早くに管理会社から、地下駐車場が水浸しになったとの連絡を受けた。それでも、彼は落ち着いていた。昨日の昼のうちに車を動かして、2キロ先のタワーパーキングに停めていたのだった。風の勢いは弱まったが、大雨はまだ続いている。外は薄暗いままで、水位もどんどん上がっていく。それでも、博史の体内時計は正確だった。朝早くに起きて顔を洗い、朝食の準備をはじめる。彼は冷蔵庫から、卵と野菜、それからネギを取り出した。美由はネギが苦手だった。少し迷った博史は、ネギを冷蔵庫に戻したのだった。一方寝室では、美由が電話の音で目を覚ましていた。しかし、まだ完全には目が覚めておらず、寝ぼけまなこでスマホを探り当て、電話に出た。電話の向こうから聞こえてきたのは、上司である悠多の厳しい声だった。「新井先生、一体どうなってるんだ?商標権侵害の依頼人からクレームだぞ。君は仕事ができないし、態度は最悪だって言ってたけど、一体何をしたんだ?それに、もううちには依頼しないとも言っている。どういうことか、ちゃんと説明してくれ」美由は説明するのも面倒だったので、焦ることもなく、落ち着いた声で答えた。「中川先生。あの依頼人、会社なんて持っていなかったんです。だから、商標権の侵害なんてありえません。ただ私に敵意があって、嫌がらせをしてるだけなんです」「そういうことか」悠多は合点がいったようだった。「どうりで君を指名してきたわけだ。わざとだったのか……」「ええ」美由は眠い目をこすった。「分かった、ならもういい。台風が過ぎたばかりだから、気をつけてな」「はい。中川先生もお気をつけて」電話を切ると、美由はベッドから出てカーテンを開けた。そして、窓ガラス越しに外の景色をながめる。しかし次の瞬間には、さあっと血の気が引いた。風はやんでいるみたいだが、マンションの敷地は水浸しだった。幸い、それほど深くはないようで、下のほうでは、管理人たちが雨合羽を着て、排水溝に詰まったものを
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第13話

二人は、ただ静かに向かい合って朝食を食べた。まるで、5年前にいっしょに暮らしていたころに戻ったかのようだった。博史の担当は、食事の用意とあと片付け。それから、掃除や床拭き。力仕事や、手が荒れるような家事は、全部博史がやってくれていたのだった。美由の役目は、洗濯とごみ出しのような簡単なことだけだった。たまに面倒くさがって甘えれば、博史はそれも全部やってくれた。しかし今はもう、なにもかもが変わってしまった。こうしてまたふたりで朝食を食べていても、気持ちも、関係も、あのころとは違うのだ。先に食べ終えた博史は、口を拭いて箸を置いた。そして、黙って美由を待っていた。その目は、何を考えているかわからないくらい、暗く沈んでいる。美由はその視線に気づいたが、博史と目を合わせる勇気はなかった。だから、急いで食事をかきこんで、食器を片付けようとした。「そのままでいい」博史が、ぽつりと言った。美由は食器をテーブルに置いた。「一晩泊めてくれて、ありがとう。台風ももう大丈夫みたいだし、私、そろそろ帰るね」「外はまだ水がひいてない」「でも、そんなに深くないみたいだから、歩いて帰れそう」「歩いて?」「うん。調べたら、もう地下鉄は動いてるみたいだから」博史はふっと笑った。そして窓の外に目をそらすと、喉に何かがつかえたみたいに、重いため息をひとつ漏らした。美由は席を立つと、椅子をテーブルの下に戻した。それから部屋に戻って、ベッドをきれいに直し、仕事用のバッグとスマホを持って出てきた。博史は、さっきと同じ姿勢のままテーブルに座っていた。窓の外を見つめるその後ろ姿は、なんとも言えない寂しさに包まれているように見える。まるで、彼の周りにだけどんよりとした暗い雲が立ちこめているようだった。リビングを通りかかったとき、美由は思わず足を止め、博史の方を振り返った。胸がきゅっとしめつけられ、離れがたい。でも、もう二度と会わない方がいいだろう。会うたびに、つらくなるだけだから。それに、いくら会ったってどうせ、なにも変わらない。「傘、借りてもいい?」美由は、声を絞り出した。博史は美由の方を見ずに、低くつぶやいた。「下駄箱の横にある」「ありがとう」美由は気持ちを切り替えると、下駄箱へ向かった。そして自分の靴に履き替え、傘を一本手
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第14話

美由は傘を拾い上げ、階段を下りる。幸い浸水はそれほど深くなく、膝下程度だった。靴とズボンは濡れるだろうが、それでも博史と二人きりで部屋にいるよりはよっぽどましだ。美由は黒い傘をさし、土砂降りの中、泥水を掻き分けながらマンションのメインストリートをゆっくりと歩いた。上の階では、博史がベランダの手すりに寄りかかり、下を見下ろしていた。その視線は暗く深く沈み、顔色は酷く険しい。その時、スマホの着信音が鳴った。博史はポケットからスマホを取り出し、視線を戻して画面を見た。雄太からだった。電話に出る。「なんだ?」雄太が尋ねた。「俺の結婚式、本当に来られないの?」博史は再び視線を戻し、下で黒い傘をさしながら、ゆっくりと歩いている美由の後ろ姿を見つめた。「行くよ」雄太は興奮した。「やった!俺の友人席の顔面偏差値は、お前で平均値を引き上げてもらう予定だったんだから」「切るぞ」博史は電話を切ると、素早く身を翻してリビングに戻り、別の傘を手に取って、外へ出た。小走りでエレベーターに向かい、焦るようにボタンを押す。音を聞きつけた遥が部屋から出てきて、エレベーター前で焦っている博史を見つけた。「博史さん、どこ行くの?」しかし、博史は相手にせず、階数表示が上の階で止まったまま動かないのを見ると、勢いよく振り返って階段に向かい、駆け下りた。遥は焦って叫んだ。「博史さん……何しに行くの!」空は重く沈み、激しい雨が降り続いている。泥水が溜まった大通りには、黒い傘をさした二つの影だけが、3メートルの間隔を空けて前後に並び、地下鉄の駅へ向かって歩いていた。美由は、マンホールの蓋が外れている下水口に落ちないよう、一歩一歩慎重に歩を進めた。長い距離を歩き、ようやく浸水箇所を抜けて少し高くなった場所に出た。誰かに尾行されているような気がして、自然と足早になる。雨に吹き付けられ、ズボンが濡れていたが、まだ見苦しいほどではない。地下鉄の入り口に着いたので、美由は傘を閉じ、水滴を強く振り落とした。恐る恐る後ろを振り返る。激しい雨で霞む視界の中に、少し離れた場所で黒い傘をさした背の高い人影があった。傘で上半身が隠れていて、誰かは分からない。するとその人物は突然背を向け、冠水した低い土地の方へと引き返していった。
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第15話

すると、菖蒲が真剣な声で言った。「わかった。もし美由が来なかったら、私、結婚するのやめるからね?」美由はくすっと笑った。「それじゃ雄太さんに殺されちゃうよ?」菖蒲はふふっと笑って、「だから、どうするかは自分で考えてね」と言った。美由はほっとしたように微笑んだ。幸せなことに、自分を深く愛してくれる親友がまだ一人いる。結婚式当日。台風は過ぎ去り、空は晴れわたって、きれいな虹までかかっていた。朝早く、美由は果物などを買って実家へ向かった。美由の実家と菖蒲の家は、百メートルも離れていない。子供の頃はここら一帯何もなかったのだが、近くに地下鉄の駅が開通したことにより、街が急速に発展したのだった。今では、あたり一帯が商業地帯になっている。そのおかげでこのあたりの景気もよくなり、どの家も3階建てや4階建ての、おしゃれな洋風の家だった。美由の家も3階建てだったが、内装はシンプルで、家具も安いものが多かった。実は、実家の方が法律事務所に近くて、地下鉄1本で行けるのだが、それでも、美由は実家で暮らしたくなかった。家に入ると、美由は手土産をテーブルに置き、食卓で食事の下ごしらえをしていた母親の新井洋子(あらい ようこ)に「お母さん」と声をかける。洋子は質素な身なりだったが、まだ若々しさが残っていた。美由をちらっと見ると、不機嫌そうに口を開いた。「よくもまあ、帰ってこれたものね。今日は菖蒲さんの結婚式なんでしょ?あなたはいつになったら嫁に行くのかしら」その言葉はもう耳にたこができるほど聞いていた。だから、美由は何も言わず、自分のために水を一杯注ぐと、ゆっくりと飲み干した。美由が黙っているのを見て、洋子は腹を立てたように野菜を放り出した。顔を曇らせ、さらにきつい口調でまくしたてる。「今年でもう27でしょ。さっさと結婚しないと、行き遅れちゃうわよ。30過ぎたら、嫁にもらってくれる人なんていなくなるんだから。そうなったら、こっちがお金つけてお願いしないといけなくなるの。少しは考えたら?まだ若くて、見た目もそこそこなんだから、早く嫁に行きなさい」洋子の口は止まらない。「あのろくでなしが佐々木さんを植物状態にしちゃったんだよ。佐々木さんは今も病院で寝たきり。それに、彼の息子と結婚すれば、慰謝料も治療費も払わなくていいって言ってくれて
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第16話

美由が結婚式場のホテルに着いた時、両家の親族たちは準備で大忙しだった。しかし、菖蒲はまだ控え室で優雅に昼寝をし、メイクさんを待っていた。しばらくして、メイクさんやカメラマンたちが到着し、皆、慌ただしく準備を始める。普通の結婚式であれば、友人たちが控え室に入る事はないのだが、今回は菖蒲たっての希望で、式が始まる前に新郎新婦の友人たちのみで、先にウェディングドレスを着た菖蒲と雄太の対面を行うことにしていた。さらには、遊び好きの夫婦のため、菖蒲は新婦側の友人たちに「何か面白いことをして、雄太と新郎側の友人たちを揶揄ってくれ」という注文を出していたのだった。昼過ぎ。新婦側の友人たちは、ドクダミ、ゴーヤ、パクチー、コショウなどを混ぜた、この世で最も強烈で不気味な「特製ジュース」を作成し、雄太とその友人たちを揶揄う準備をしていた。「新郎と友達たちが来たよ!」様子を見に行っていた友人の声に、控え室の空気は一気に活気づく。「美由、準備ができるまであと10分は必要だから、先に出て彼らを引き留めて!」こうして美由は、引き留め役として部屋の外に押し出された。静かで高級感あふれるホテルの廊下。控室に入るには、二つの扉をくぐらなければならない。なので、美由は控室の一つドアの内側に立ち、ドアをしっかりと閉めて彼らの到着を待った。新郎とその友人たちの足音と楽しげな笑い声が聞こえてくる。これから行われる新郎新婦の対面を、彼らは明らかに心待ちにしていた。「雄太が花嫁に会いに来たぞ!」新郎側の友人たちの弾んだ声が響く。「開けてくれ!」しかし、美由はピクリとも動かなかった。与えられたミッションは10分の引き伸ばし。この10分間は、何があっても開けるわけにはいかない。美由は時間を稼ぐために、優しく言った。「開けてほしければ、そちらの誠意を見せてもらいますからね」「美由さんだ」雄太が嬉しそうに笑う。「菖蒲の友達の中で一番優しくて話しやすい子なんだ。みんな、頼む!」その「頼む」という言葉に、美由は思わず一歩後ずさった。しかし、無理やりドアを開けられるのかと思いきや、ドアの隙間から「愛する妻への誓い」と書かれたメッセージカードが次々と差し込まれてきた。一つ、二つ、三つ……美由は顔を綻ばせながら、そのカードを拾い上げる。今まで
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第17話

「駄目、あと数分待って」美由はドアに張り付いたまま首を振った。「待てない。だから裏から回ってきたんだ。そこをどいてくれ」博史は美由を見つめた。淡いピンクのドレスから、白く滑らかな肩と細い腕が露わになり、艶やかな黒髪が背中に流れ、サイドには小さな三つ編みに可憐な花が飾られている。控えめなメイクが清楚で愛らしく、花嫁の主役を奪わない考えられた装いだった。その控えめな美しさは、まるで妖精のような透明感がある。博史は胸の奥の熱い息を軽く吐き出し、低く呟いた。「だったら無理やりするしかないな」美由はどういう意味かと怪訝に思った。次の瞬間、博史が近づき、美由の腕を掴んで軽く引いた。博史が本気を出すまでもなく、美由はあっさりとドアから引き剥がされた。しかし、ドアがカードキーでロックされているのを見て、博史は眉をひそめた。「開けられるか?」ドアの反対側にいる男たちが焦って尋ねる。博史は答えた。「カードキーでロックされてる」「じゃあ、キーを奪え!絶対美由さんが持ってる!」博史は顔を向けて美由を見た。美由はカードキーを持った手を後ろに隠し、警戒しながら博史を見上げた。ごくりと唾を飲み込み、鼓動がどんどん早くなっていく。博史は一歩一歩美由に近づき、穏やかな声で言った。「美由、俺たちの個人的な問題は一旦脇に置こう。雄太が花嫁に会いたがってるんだ。通してやってくれ」「あと数分だけ待ってくれないかな?」美由は小さな声で懇願した。「あと1分でも待たせたら、みんなに俺が使えない奴だと思われる」博史はスーツの内ポケットから、用意していた残りのメッセージカードとギフトをすべて取り出し、差し出した。美由はそれを見て、唇を噛み締めながらも嬉しそうに受け取った。「カードキーは?」博史は手を差し出した。美由はギフトを受け取った後、再び手を後ろに隠し、首を振った。「あと5分だけ」博史は軽く息を吐き、少し呆れたように皮肉っぽく笑った。「賄賂を受け取っておいて通さないなんて、ずるいな。力ずくでいくぞ?」「やれるもんなら、どうぞ」美由は少し強気に出た。「他の相手ならやらないけどな」そう言い終わるや否や、博史は美由に飛びかかり、その体を抱きすくめた。両手を彼女の背後に回し、両手首を掴んで拳を探った。突然強く抱きしめられた美由は、
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第18話

控室の前のラウンジスペース。新郎の友人たちの中には、遥もいた。遥は美由が新婦の友人の中にいることには驚かなかったが、少し着飾っただけで天女のように美しく、息を呑むほどの魅力を放っているのを見て、腹立たしさを隠せなかった。花嫁のいる部屋の扉の前には、黒いフタのついた小さなカップがいくつも並べられていた。新婦の友人の一人が宣言した。「このジュースの中に、3杯だけ『当たり』のジュースが入っています。外れを引いたらペナルティで新郎にはこの場で新婦への愛を叫んでもらいます。見事当たりのジュースを3杯引き当て、全て飲み干したら、その時にやっと花嫁の部屋に入ることができます」実のところ、当たりなど1杯も入っていなかった。これは新婦の友人たちが新郎たちを揶揄い、新郎の愛を再度確認するためのものだった。ゲームが始まると、新郎の友人たちは次から次へと強烈な不味いジュースを飲まされ、顔を歪め、様々な滑稽な表情を見せた。新婦の友人たちは大はしゃぎでその様子を見て、雄太には愛を叫ばせるなど、皆がこのゲームを楽しんでいた。そんな中美由は端に立ち、ひときわ美しい笑顔で微笑んでいた。突然、ひどく熱を帯びた視線を感じた。顔を上げると、博史の深い瞳とぶつかった。視線が絡んだ瞬間、博史は目の前のカップに向かって顎をしゃくった。4年間付き合っていた美由には、その視線の意味が自然と理解できた。しかし、まさかこの男が元カノに助けを求めるとは。しかし、甘い。この男は元カノである自分を舐めているのだろうか?美由は隣の新婦の友人に耳打ちをしてから、ゆっくりと一つのカップの前に歩み寄った。美由は博史と目を合わせ、あるカップをじっと見つめた。博史は何も言わず、美由が合図したそのカップを選んだ。フタを開けた瞬間。なんとそれは、博史がこの世で最も嫌悪するドクダミ汁だった。博史は吐き気を催す。「イッキ!イッキ!」その様子を見ていた新婦の友人たちが手拍子で煽った。博史は眉間にシワを寄せ、カップを持つ手を微かに震わせた。息を止め、必死に心の準備をしているようだ。遥が心配そうに言う。「博史さんはドクダミが大嫌いなの。私が代わりに飲むから」しかし、新婦の友人がすかさず止めた。「身代わりは駄目よ。アレルギーじゃないなら、自分で選んだものは自
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第19話

「みんなとゲームに参加しないの?」菖蒲が尋ねる。美由は微笑んで首を振った。「ううん、ここで菖蒲と一緒にいたくて」菖蒲の前に歩み寄り、美由はそっと手を握った。「花嫁さん、今日は本当に綺麗だよ」菖蒲が照れくさそうに微笑む。美由は深い感慨を覚えた。もしあの出来事がなければ、自分と博史もとっくにこんな素晴らしい結婚式を挙げ、今頃は子供が幼稚園に通っていたかもしれない。控室の外。吐き気が治まった博史は、ゲームの現場に戻った。見回したが、美由の姿がない。人ごみの中で視線を動かしたが美由が見当たらなかったため、ゲームに参加する気分も失せ、自ずと隅の方へと退いた。そして、最後の1杯になっても「当たり」はなく、新郎の友人たちはようやく騙されていたことに気づいた。賑やかな雰囲気は続き、試練を終えた彼らはついに控室へと雪崩れ込んだ。ファーストミートの感動的な対面、写真撮影など……その後も様々な催し物が次々と行われた。美由は隅に立ち、親友の幸せに満ちた顔を見て泣きそうになっていた。その後、新郎新婦は結婚式の会場へ向かうため車に乗り込んだ。道ゆく人も、綺麗な花嫁を見て歓声をあげていた。美由も移動の車列へと向かった。博史の車の助手席はロックされたままで、何人かの新婦の友人がドアを引いてみたが開かなかった。遥も仕方なく後部座席に座っていた。美由が博史の車のそばを通ると、彼はすぐにドアを開けて降り、片肘を車のルーフに乗せて言った。「美由、乗れ」後部座席の遥は怒りでギリッと奥歯を噛み締め、顔を険しくした。美由は足を止め、博史を見た。いつの間にか、彼の目から再会した時のあの冷酷な敵意は消え去り、今は読み取れない深く静かな光が宿っていた。「大丈夫、ありがとう」美由は淡々と礼を言い、後ろへ歩いて別の新郎の友人の車に乗り込んだ。博史は唇を引き結んで息を沈め、運転席に戻った。博史の助手席はずっと空席のままだった。車は連なって式会場であるホテルへと向かった。ホテルに到着し、結婚式は非常にスムーズに行われた。そして披露宴となった。本当は雄太と菖蒲がラブソングのデュエットをする際に、新郎新婦の友人たちがバックダンスをすることになっていたのだが、主役が目立たなくなることが心配され中止になっていた。披
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第20話

美由は仕方なく博史の車の助手席のドアを開けて乗り込み、ドアを閉めてシートベルトをした。博史はスマホを美由に返し、エンジンをかけて颯爽と車を走らせる。車内は息が詰まるほど重苦しい空気に包まれていた。美由はルームミラー越しに、遥の険しい顔を見た。その冷ややかな目は嫌悪と怒りを隠そうともせず、自分を鋭く睨みつけている。美由が博史と付き合い始めた頃、遥はまだ高校3年生で、博史に付きまとう時間などあまりなかった。しかし、今では大学も卒業したのに、定職にも就かず、博史を追いかけて深津市までやって来ていたのだった。おそらく、遥はまだ博史の「彼女」というわけではないのだろう。なぜならこの世に、彼氏が元恋人といつまでも関わりを持つのを我慢できる女などいないからだ。遥が怒りを押し殺して何も言えない態度を見れば、二人の関係がまだ何もないことは一目瞭然だった。少なくとも、遥に博史を縛ることはできないのだ。車は広く静かな大通りを走っていた。遥がある違和感に気づき、慌てて口を開いた。「博史さん。先に美由を送っていけば?その方が時間もガソリンも節約できるよ」しかし、博史は黙々とハンドルを握り、遥の言葉には答えなかった。遥は腹立たしげに鼻を鳴らし、頬を膨らませて腕を組むと、座席シートに背を預けた。車内が再び沈黙に包まれる。美由は横を向き、窓の外を流れる華やかな街の景色をコマ送りのように見つめていた。それは、碧瀾郷へ向かう道だった。20分後、車は碧瀾郷のゲート前に停まった。博史が車内の灯りを付けたが、遥はなかなか降りようとしなかった。博史が促す。「遥、降りろ」遥は怒り狂ったようにドアを開けて降り、力任せにドアを閉めた。凄まじい音が響き、美由はドアが壊れるのではないかと思った。彼女が怒っているのは、明らかだった。博史は険しい顔をし、車を再発進させた。彼はスマホを取り出してダッシュボードに固定し、遥のラインを開いてボイスメッセージを送信した。「自分で車を買うかタクシーを使え。二度と俺の車には乗せないからな」その声は冷たく威圧的で、反論を許さない響きがあった。遥から即座に返信がきた。博史が再生ボタンを押すと、美由にもはっきりと聞こえる音量でスピーカーから声が流れた。「博史さんの馬鹿!私が怒ってド
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