「修一(しゅういち)との結婚、もう決めた。一週間後に浜辺市へ行く」藤田夏美(ふじた なつみ)は話しながら、ふと白野修二(しらの しゅうじ)の首筋に残るキスマークに目をやった。胸が鋭く痛んだ。修二に騙されたのは、これで何度目だろう。彼女はそっと首を振ると、ふっと苦い笑みが口元に浮かんだ。電話の向こうで一瞬の沈黙があり、戸惑いの声が返ってきた。「藤田さん、本当にそれでよろしいのですか?もし修一様に嫁ぐことになったら、そのお子さんは……」「堕ろすわ」「承知しました。一週間後にお迎えにあがります」電話を切ったと同時に、ドカンという音がして、夜空に華やかな花火が咲いて散った。花火の明かりと同時に、夏美の目に機体に大きく刷り込まれた彼女と修二のツーショットが浮かび上がった。写真の中、幸せそうに笑う二人の顔が、夏美の胸を締めつけ、目頭を熱くさせる。「夏美、十周年おめでとう!」修二にぐいと抱き寄せられ、清々しい松の香りが鼻先をかすめた。夏美はわずかに眉を顰める。「新居はお前の好みに合わせて仕上げてある。ベビールームのおもちゃも揃えたし、引き出物の記念品は何種類か選んである。後はお前が決めてくれ」「……わかった。とりあえず搭乗しましょ」言葉を遮るように、夏美はスーツケースの柄を握った。窓ガラス越しに、一瞬、花火が光った。青い花火がこれほど不快に見えたのは、生まれて初めてだ。予定では、一か月後に夏美と修二の世紀の結婚式が挙げられるはずだ。そして彼女は可愛い赤ちゃんを産み、裕福な妻として穏やかな人生を歩む――はずが、修二は彼女を欺いていた。十年前、夏美は白野家の兄弟の中から修二を選んだ。兄の修一は彼女の手を握りしめ、真っ赤な目で詰め寄った。「修二は隠し子だ。遺産を継ぐ資格もないし、お前を幸せにすることもできない。なぜ……なぜあいつを選ぶんだ」――クリスマスにくれたあの手袋のために。――雪の日、肩にそっと掛けてくれたマフラーのために。――凍えた手を修二の胸に当てたとき、彼がくれたあの優しいぬくもりのために。若い頃は、愛のために愚かなことをしてしまうものだ。夏美は十年の青春をかけて修二という男を見極めた。後悔しているかどうかは、もうどうでもいい。スマホの通知音が鳴り、夏美は思い出の中から現実へ引き戻さ
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