「はい。覚悟はしてます」 「まともな味方をつけるまでに相当な時間がかかるだろう。篠原の妻と分かれば、お前から甘い蜜だけを吸おうと群がってくるハイエナのような奴らばかりだからな」 彼が日々、そんな相手に一人で戦っているのだと思うと、ますます私がしっかりしなければという思いが強くなる。 私は恐怖を飲み込み、覚悟を決めるようにギュッと膝の上のドレスを握りしめると、彼を安心させるために力強く頷いてみせた。 「心配しないでください。上手くやってみせます」 私の固い決意を聞き届けた智哉さんは、小さく頷いて納得したようだった。 けれど、彼はふと何か引っかかっていたことを思い出したように眉をひそめ、訝しげな視線を私へと向けてきた。 「そもそも、そのサロンの話をどこで聞いたんだ」 急に話題が変わったことに私は小さく瞬きをした。 「サロンの話ですか? さっき、お仕度をしてもらっている時に、佐々木さんが教えてくれたんですけど…」 私が佐々木さんの名前を出した瞬間、車内の空気が一気に数度下がったような錯覚を覚えた。 「智哉さん…?」 「あまり、あの家政婦と親しくするな」 「え、どうしてですか」 初日に彼自身が彼女を評した言葉と、今の彼の態度がどうしても結びつかない。 「適度な距離を保て」 彼女の人柄まで否定するような言い方に、私は戸惑いを隠せずに反論の声を上げてしまった。 「でも、初日に智哉さんご自身が、『彼女は信頼できる人間だから間違いない』って、そうおっしゃっていたじゃないですか」
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