メイドは手際よく救急箱を片付けながら、思い出したように重要な忠告を口にした。 「明確なドレスコードなどは設けられておりませんが、白と赤のドレスだけは避けてお召しになるのがよろしいかと」 「何か特別な意味合いでもあるのですか」 私の問いかけに対し、メイドは少しだけ困ったように眉を下げ、声を潜めて周囲を憚るような仕草を見せた。 彼女は一度小さく咳払いをすると、いかにも上流階級のくだらないマウントの取り合いを象徴するような、呆れを含んだ声でその理由を明かしてくれた。 「紫苑様が、その二色を好んでお召しになるからです。あの場において、主催者である彼女より目立つことは許されません」 なるほど。要するに自分のお気に入りの色を他人が着て、自分より目立つのが気に食わないというだけの極めて個人的で幼稚な理由だ。 「あぁ……なるほど。紫苑さんのお衣装と被って、不快な思いをさせないようにという配慮なのですね」 私の言葉を聞き、佐々木さんは深く頷きながら顔を曇らせた。 いくら上流階級の暗黙のルールだとはいえ、ただ服の色が被っただけで激怒するような紫苑の異常なまでの自己中心的な考え方は、一般的な感覚を持つ彼女からすれば滑稽にすら思えてしまうのだろう。 「でも、それって少し馬鹿ば……いえ。上流階級のルールなんでしょうけど、正直ちょっと呆れませんか?」 佐々木さんは思わずズバッと本音を口走ってしまいそうになり、慌てて言葉を濁して言い直した。 「きっと、身なりへのこだわりが人一倍強いのでしょうね」 佐々木さんは声を一段階落とし、そのサロンで起きた陰湿な制裁の様子を語り始めた。 「以前、何もご存知ない令嬢が、美しい純白のドレスで参加してしまったことがあったそうで。それはもう、悲惨だったんですって。紫苑様ご自身は『気にしないで』なんて優しく許したそうですが、周りの取り巻きたちが一斉に
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