一月も下旬に入り、ローンチまで残り二か月。毎日が、目の回るような忙しさだった。 あの夜以来、有馬とは、ほとんど目を合わせられなくなった。「業務には支障が出ないようにします」という有馬の言葉は本当で、紡にキスをしたことなど、もう、すっかり忘れてしまったかのようだった。 ――やっぱり、あのことはなかったことにされたんだ。 会議で顔を合わせるたびに、苦しくて、つらくて、その場から逃げ出したくなった。けれど、プロジェクトの責任者である紡が、抜けるわけにはいかない。腹に力を入れて、終わるまで乗り切るしかなかった。 紡は、今まで以上に、必死に仕事をこなした。仕事をしているあいだだけは、有馬のことを、頭の隅に追いやっていられた。けれど、同じプロジェクトに関わっているのがよかったのか、悪かったのか。追い出せたと思った途端、有馬から業務連絡が届いて、また考えてしまう。その繰り返しだった。 その日も、紡は精力的に仕事をこなしていた。商品の専用WEBサイトが、ようやく形になりつつある。デザイン案を見ながら、リンクの配置や導線を、ひとつずつ確認していく。 さすがは、セントラル・アドだ。代理店としては中堅だが、大手にはないフットワークの軽さがある。こちらの要望を、細部まで丁寧に反映してくれる。WEBサイトは、開いてからの数秒が命だ。そのあいだに「使いにくい」「見にくい」と感じさせてしまえば、ユーザーは、すぐに離れていく。いかに使いやすく、見やすく、わかりやすくするか。それでいて、商品のコンセプトから外れたデザインでも困る。その兼ね合いを、きちんと汲んで作ってくれているから、いいサイトに仕上がりつつあった。あとは、上層部の了承を待つだけだ。「よし」 トキワ文具側が指摘した箇所の修正を確認すると、紡は目を閉じて目頭を押さえた。そのまま椅子の背にもたれて、背伸びをする。 そのとき、スマホが震えた。画面を見ると、電話番号宛てのショートメッセージだった。見覚えのない番号。 たまに、まったく知らない番号からメッセージが届くことがある。たいていは、勧誘か、詐欺まがいのものだ。 またその類だろうと、削除しかけて――冒頭の一文が
Last Updated : 2026-06-04 Read more