「棗っ」 「葵っ」 互いの言いたい事は声に出さずとも分かっている。 棗は白鳥邸から真南にある邸宅へ向かうと、僕は北東にある邸宅へ向かうと互いに名へ意味を込めて視線を合わせ伝えあう。 それだけで十分。 僕と棗は互いに真逆の方向へ向かって駆け抜ける。 時間も時間だ。もう辺りは真っ暗。 電気の供給が切断された所為で、足元を照らす光もない。でも…。 「全く問題ないんだよね」 昔から鈴ちゃんと歩き回っていた市。多少暗闇で見えない所で何の問題もない。こうして走っていたって、 「転びもしないってね」 花壇の位置ですら把握している。因みに、大地さん所にある鍵のかかっていない自転車の場所もしっかり把握している。 ので、ちょっと拝借します。 …何かこう言う所、佳織母さんに似てきたな、僕…。 いや、考えるな。考えたらきっと負けだ。 自転車に跨り、一気に踏み込む。 まずは北東を目指す。車も今は動いていない。 街灯も電気供給が無い為に、真っ暗。月明かりもない。市民だって皆避難して、今日は風もないから木々が揺らぐ音もない。 ない、筈なんだけどなぁ…。 前方からも後方からも音がする。後方の方は微か。前方は分かりやすい音が聞こえている。 無視しても良いんだけど…前方のはそうも行かないよね。 自転車のライトを点けてこっちに向かわせてみようか。…でも行き先がばれたらバレたで面倒だよね。 …さて、どうしようかな。 漕ぐスピードを上げて、撒いた方が早いかな? …うん。一先ずスピードを上げてみよう。足に力を込めてスピードを上げた瞬間、――ドスドスンッ。「うぐっ!?」急に背中に重みがっ!? 一体何がっ!? 驚き自転車を漕ぐ足を止め、振り返ると、そこには…。 「(葵兄さん、ちょっと速過ぎるよ)」 「(うん。速い)」 ひそひそとした小さな声で中々に聞き取り辛いけれど、この声は…。 「(旭、蘭。どうして、ここに?)」 鈴ちゃんの前だと、可愛い弟ぶりっこする弟達は鈴ちゃんがいない場所だと途端に僕達の血の繋がりを感じる口調になる。 頭の回転も下手すると僕達以上かもと思う時もある。…兄馬鹿かな? いや、今はそんな事はいい。 そんな事よりどうして、ここに二人がいるのか、だ。 「(お姉ちゃんからの伝言。『華菜ちゃんが集めた情報によると、北東にある家
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