《御曹司の妻を辞めた日、私は社長になった〜久世家を出た元嫁は、格上エリートと人生を再建する》全部章節:第 101 章 - 第 104 章

104 章節

9.答えられない数字

莉奈が席につくと、会議室の空気が少し変わった。モニターにはまだKUZÉ ma vieのロゴが残っている。淡い色。細い文字。明るい写真。先ほどまでそこにあったのは、これから始まるブランドの話だった。誰に届けるか。どう見せるか。何を感じてもらうか。そこから先を確認するため、鷹宮は手元の資料を開いた。「では、いくつか数字を確認させてください」怜央が姿勢を正す。「はい」莉奈も鷹宮を見る。宗一郎は腕を組み、少し背もたれに体を預けた。美緒だけは視線を下げたままだった。ただ、手元に置いている資料の位置が変わっている。先ほど開いていた売れ残り率別損益。その上に、商品別収支。横にはEC関連資料。鷹宮はそこを一度だけ見た。そして、莉奈へ向いた。「まず、百貨店催事についてです」「はい」「初回分として予定している数量のうち、三割が催事終了時点で残った場合、どうしますか」莉奈はすぐに答えた。「ECへ回します」迷いはなかった。想定していた質問なのだろう。「全商品ですか」「いえ。賞味期限の短いものは難しいので、焼き菓子やジャム、調味料を中心に」「では、その分をECで消化する」「はい」「どのくらいの日数を見ていますか」莉奈がわずかに止まった。「日数?」「在庫消化までです」鷹宮は資料をめくらずに続けた。「現在のEC転換率を前提にした場合、催事残在庫の三割を何日で消化できますか」莉奈の視線が一瞬、手元の資料へ落ちた。答えは出なかった。「そのあたりは」莉奈が怜央を見る。「ECの数字と合わせて計算していると思う
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10.家内が少し

「最後に一つ、確認したいことがあります」鷹宮が言うと、会議室の視線が集まった。先ほどまでモニターに映っていたKUZÉ ma vieのロゴは消えている。残っているのは、白い画面だけだった。華やかな写真も。柔らかなコピーも。地域の風景もない。鷹宮は手元にあった補足資料を、机の中央へ移した。商品別粗利。初回ロット別試算。在庫残存率別の損益。百貨店催事とECの振り分け。継続。要見直し。停止。何度も目を通したページを、一枚ずつめくる。久世物産の四人は黙ってそれを見ていた。莉奈は、何を聞かれるのか考えているようだった。怜央はわずかに姿勢を直した。宗一郎には、特に身構えた様子はない。美緒だけが、鷹宮ではなく資料を見ていた。鷹宮は最後に、商品別の収支修正案を開いた。「この資料です」怜央が覗き込む。「収支の補足ですね」「はい」鷹宮は資料に指を置いた。「この収支修正案を作成したのは、どなたですか」短い沈黙が落ちた。答えにくい質問をしたつもりはなかった。作成者を確認しただけだ。それでも、すぐに名前は出なかった。莉奈が怜央を見る。怜央はその視線を受け、少し考えるように資料を見た。宗一郎は、なぜ鷹宮がそこを気にするのか分からないという顔をしている。美緒は動かなかった。ただ、膝の上に置いた手の指先だけが、わずかに重なった。「それなら」怜央が言った。そして、何でもないことのように隣の後方を示す。「美緒です」予想していた答えだった。それでも鷹宮の視線は、はっきりと美緒へ向いた。美緒が顔を上げる。
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11.それは手伝いではありません

鷹宮は、商品別収支の最初のページを開いた。「では、初回ロットについて伺います」美緒の肩が、わずかに固くなった。質問されることを拒んでいるのではない。自分が答える立場に置かれたことへ、まだ慣れていないように見えた。鷹宮は急かさなかった。「三つの案に分けていますね」資料には、商品ごとに三種類の発注数量が記載されている。楽観案。標準案。慎重案。単純に全商品の数量を同じ割合で増減したものではない。商品によって、三案の差が大きいものもあれば、ほとんど変わらないものもある。「はい」美緒が答えた。「なぜですか」美緒は一度、資料へ目を落とした。答えを探しているのではない。どこから話すべきかを考えているようだった。「初めての催事ですので、どの商品がどの程度動くか、まだ正確には分かりません」「だから三つに分けた?」「それだけではありません」答えは、鷹宮が予想していたより早かった。美緒は続ける。「商品によって、売れ残ったときの扱いが違います。賞味期限が短く、催事後に値引きしても消化が難しい商品は、初回を抑えた方がいいと考えました」鷹宮は低糖質和菓子の欄を見る。三案の差が大きい。「この和菓子ですね」「はい。見た目は華やかですし、試食で反応が取れれば販売数は伸びると思います。ただ、賞味期限が短いので、強気の発注をすると、催事が不調だった場合の損失が大きくなります」莉奈が口を挟んだ。「でも、あれはメインにしたい商品なんです。写真でも一番反応がよかったから」「はい」美緒は莉奈の意見を否定しなかった。「ですから、商品を外すのではなく、最初の数量だけ抑える形にしました。催事中に追加できるか、製造元にも確認しています」鷹宮は資料の注記を見た。追加
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12.久世美緒

会議が終わると、張りつめていた空気が少しだけ緩んだ。三崎が今後の連絡手順を確認し、怜央が次回までに提出する資料をメモする。宗一郎は椅子から立ち上がり、ジャケットの前を整えた。「本日は、率直なご意見をありがとうございました」「こちらこそ、ありがとうございました」鷹宮も立つ。「追加で確認したい事項については、一覧にしてお送りします」「承知しました」宗一郎は穏やかに応じた。先ほどまで、美緒の仕事をどう扱うかという話をしていた。しかし宗一郎の表情には、それを問題として受け取った様子はほとんどない。外部の専門家が、嫁の働きを少し高く評価した。その程度に収めたのかもしれない。鷹宮には、まだ分からなかった。莉奈はノートパソコンを閉じながら、美緒へ顔を向けた。「美緒さん、さっきの継続基準のところ、あとでもう一度見せて」「分かりました」「私、数字のところは本当に苦手だから」莉奈は悪びれずに笑う。「美緒さんが得意でよかった」美緒も、小さく笑った。「私も、見せ方のことは莉奈さんに教えてもらっていますから」自分の仕事を認められた直後でも、美緒は相手の長所を先に口にした。謙遜というより、そうすることが身についているように見えた。どちらが上かを決めたくないのか。自分だけが評価される状況を避けたいのか。あるいは単純に、莉奈の能力を正しく見ているだけなのか。鷹宮には判断できない。ただ、莉奈の言葉には悪意がなかった。美緒を下に見ているというより、自分にはできないことを頼める相手として信頼している。その信頼と、仕事に名前をつけることは、莉奈の中では別のものなのだろう。怜央がスマートフォンを確認しながら言った。「美緒、追加資料の一覧が来たら、先に見ておいてくれる?」「はい」
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