食事が終わりに近づく頃には、店の中の客も少し減っていた。窓の外には夜の街の灯りが浮かび、ガラスに室内の明かりが淡く映っている。鷹宮はコーヒーカップへ手を伸ばした。結局、今夜はほとんど仕事らしい話をしなかった。法人化の話は少しした。藤崎のことも、美緒の会社のことも聞いた。だが、結論を出すためではなかった。美緒が話したから聞き、自分も思ったことを返した。それだけだった。不思議なくらい、時間は短く感じた。いつもの面談なら、終わる時間を意識する。確認事項がすべて片づいたか。次に何をするか。どこまでが今日の範囲だったか。今夜は、そのどれも必要なかった。それでも鷹宮は、この時間が終わりに近づいていることを、少し惜しいと思っていた。美緒がカップを置く。「鷹宮さん」「はい」声の調子が少し変わった。鷹宮は顔を上げた。美緒は何かを言おうとして、一度だけ視線を落とした。仕事の相談をするときとは違う。資料を確認するときとも違う。鷹宮には、その先に何が続くのか分からなかった。「少し、お話ししてもいいですか」「もちろんです」美緒はすぐには話さなかった。鷹宮は待った。急かす必要はない。彼自身にも、今夜は伝えようと思っていたことがあった。ただし、どう伝えるかはまだ決めきれていない。仕事ではない食事に誘った。美緒は来てくれた。迷惑ではなかったとも言った。それだけで、自分に都合のいい結論を出すつもりはなかった。鷹宮が美緒を一人の女性として望んでいることと、美緒が鷹宮をどう見ているかは別の話だ。だから今夜、自分の気持ちを伝えるとしても、答えを求めるつもりはなかった。美緒が会社を作ろうとしている時期でもある。久世物産の再建も、まだ終わっていない。仕事上の相談相手だった男から突然個人的な感情を渡されれば、その関係をどう扱うかまで考えさせることになる。それを避けたくて、ここまで待った。少なくとも、自分が必要だから選ばれるような関係にはしたくなかった。美緒の生活から鷹宮の助言がなくなっても。仕事の紹介がなくなっても。困ったときに最初に思い出す相手でなくなっても。そのあとで、美緒が鷹宮を選ぶなら。そういう関係でありたかった。「私」美緒が口を開いた。「前に、鷹宮さんに言われたことを、ずっと覚えています」「何ですか」
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