小野寺製菓のECページを開いたのは、藤崎亮だった。きっかけは、営業担当から回ってきた一通の社内メモだった。小野寺製菓より、次回催事条件について再確認希望。販促費負担、返品条件、催事手数料、EC向け商品の取り扱いについて、先方より見直し相談あり。今後は久世物産経由の催事だけでなく、自社ECおよび直販比率を強めたい意向。藤崎は、そのメモを見た時、最初に違和感を覚えた。小野寺製菓は、これまで強く条件を主張する取引先ではなかった。地元では長く知られている老舗だが、久世物産の中では、大きく扱われる相手ではない。百貨店催事の一角に並べれば一定数は売れる。けれど、新規ブランド企画のように社内で話題になることは少ない。地味。誰かがそう言っていたのを、藤崎は覚えている。だが、藤崎自身は以前から、小野寺製菓の商品をそこまで悪く見ていなかった。商品写真は弱い。ECページの導線も古い。ギフト用と自宅用の区別も曖昧だった。けれど、商品そのものには、まだ見せ方を変えれば届く余地があるように思っていた。だから、メモを読んだあと、藤崎は小野寺製菓のECサイトを開いた。最初は、単なる確認のつもりだった。取引先が自社ECを強化したいと言っているなら、現状を見ておこう。その程度の気持ちだった。けれど、ページが表示された瞬間、藤崎はマウスを動かす手を止めた。大きくリニューアルされたわけではない。派手な動画が入ったわけでも、流行りのデザインになったわけでもない。商品写真も、過剰に明るく加工されてはいない。サイト全体の印象は、むしろ以前と同じように落ち着いている。だが、迷いが減っていた。最初の画面に、三つの入口がある。初めての方へ。きちんとした手土産をお探しの方へ。ご自宅用に。藤崎は、静かに眉を上げた。「……これ、誰か入ってますね」隣の席の社員が顔を上げる。
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