All Chapters of 御曹司の妻を辞めた日、私は社長になった〜久世家を出た元嫁は、格上エリートと人生を再建する: Chapter 41 - Chapter 50

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41.代理人を通してください

佐伯真帆の事務所は、久世家とはまるで違う静けさを持っていた。久世家の静けさは、人の声を吸い込むような重さがある。床の間の花、磨かれた廊下、古い振り子時計、先祖の写真。そこでは、美緒の言葉はいつも、家の空気に合わせて小さく整えられてきた。けれど真帆の事務所の静けさは、違った。白い壁。整理された書類棚。無駄な装飾のない相談室。窓際に置かれた観葉植物。テーブルの上には、クリップ留めされた書類と、真帆のノートパソコン、メモ用紙、ペンが整然と置かれている。ここでは、言葉は小さくされない。日付と、事実と、条件に分けられる。美緒は椅子に座り、膝の上に置いたバッグの持ち手を握った。中には、ファイルが入っている。怜央と相沢紗季の会食日。帰宅時間。二名分のレシート。スマホに表示された通知の記録。怜央が「一度だけだ」「本気じゃない」と言った日のメモ。佳乃子の「妻の器量」という言葉。怜央の「久世の名前がなくなって、お前に何ができるんだ」という言葉。莉奈の「久世家の嫁じゃなくなったら何が残るんですか」という言葉。そして、公私混同の可能性として分けた支出記録。バッグの中のファイルは重かった。けれどその重さは、美緒が一人で耐えてきた時間が、ようやく誰かに渡せる形になった重さでもあった。「では、確認しましょう」真帆の声に、美緒は小さく頷いた。今日は、泣くために来たのではない。怒りをぶつけるためでもない。久世家から出るための条件を、現実の形にするために来たのだ。美緒はファイルを取り出し、テーブルの上へ置いた。「これまでの記録です」声は少し硬かった。真帆は、その硬さを責めることも、励ますこともしなかった。ただ、ファイルを受け取り、静かに表紙を開いた。「拝見します」その一言だけで、美緒の胸が少し緩んだ。久世家で
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42.篠原美緒

通知書が届いた日から、久世家の空気はさらに冷えた。怜央は、美緒と目を合わせようとしなかった。朝食の席でも、必要なことを言う時だけ、低く硬い声で短く告げる。会食の有無、帰宅時間、仕事の予定。以前なら、その言葉の隙間に美緒が何かを足していた。お疲れが出ませんように。温かいものを用意しておきます。変更があれば教えてください。今は、必要なことだけを聞き、必要な返事だけをした。それ以上の言葉を差し出さない美緒に、怜央は苛立っているようだった。けれど、もう怒りをぶつければ美緒がすぐに折れる段階ではないことも、薄々分かり始めているらしい。佳乃子は、美緒に家の細かなことを頼まなくなった。以前なら、献立、茶器、花の位置、来客への挨拶、季節の贈答品の文面まで、当然のように美緒へ指示していた。美緒さん、少し応接室を見ておいて。美緒さん、怜央の好きなものを一品入れてあげて。美緒さん、こういうところは家の空気が出るものよ。その声が、急に遠のいた。代わりに、家の者へ短く指示が飛ぶようになった。美緒の前で、あえて美緒を通さないように。それは解放のようでもあった。同時に、この家の中から美緒の居場所だけが、静かに取り外されていくようでもあった。莉奈は、廊下ですれ違うたびに、どこか信じられないものを見る目を向けてきた。面白がっているような、見下しているような、あるいは本当に理解できないものを見ているような目。お義姉さん、本当に出ていくんですか。久世家の嫁じゃなくなったら何が残るんですか。その声は、まだ耳の奥に残っている。美緒は傷ついた。けれど同時に、少し分かってもいた。この冷たさこそが、この家の本音なのだと。久世家の嫁として働いている間は、必要とされる。怜央の妻として支えている間は、居場所がある。佳乃子の期待に応え、莉奈の企画を整え、家の空気を乱さない限り、美緒はこの家の内側に置かれる。けれど、離婚の意思を示した途端、美緒は静かに外側へ押し出された。
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43.最後の圧

別居日が決まってから、久世家の空気はさらに重くなった。怜央は怒っている。佳乃子は何も言わない。莉奈は廊下ですれ違うたび、どこか信じられないものを見るような目を向けてくる。美緒は、その視線を受けながらも、自室で荷物をまとめていた。スーツケースは大きくない。久世家で暮らした時間のすべてを入れるには、小さすぎる。けれど、美緒がこれから持っていくものを入れるには、それで足りた。身分証。通帳。印鑑。カード類。証拠のコピー。PC。手帳。真帆の書類。最低限の衣類。そして、事業計画書。地域ブランド事業支援計画書。作成者、篠原美緒。その表紙を見たときだけ、美緒の呼吸は少し整った。久世家を出ることは怖い。離婚はまだ成立していない。怜央は怒っている。佳乃子は黙ったまま、美緒を家の外側へ押し出すような冷たさをまとっている。莉奈はまだ、美緒が本当に出ていくとは信じ切れていないようだった。それでも、美緒は何も持たずに出るわけではない。自分が何を見てきたのか。何をしてきたのか。何をこれからしたいのか。その紙だけは、手元にある。事業計画書の表紙をそっと重ね、証拠コピーとは別にクリアファイルへ入れた。離婚のための書類と、これからの仕事のための書類。その二つを分ける手つきは、もう迷っていなかった。怜央とのこと。久世家で受けてきた圧。自分の名前が消えてきた仕事。それらは美緒の中ではつながっている。けれど、これから進めるためには、分けなければならない。真帆が言った通りに。事実と条件で返す。怒りではなく、枠組みにする。美緒はスーツケースの中をもう一度確かめた。身分証の入ったポーチ。
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44.重い門の外へ

翌朝、久世家はいつも通り静かだった。磨かれた廊下。障子越しに差し込む淡い光。遠くで鳴る古い振り子時計。玄関先に届いた新聞。何も変わっていないように見えた。この家の朝は、いつもこうして始まっていた。高い塀の内側で、外の音を少しだけ遠ざけ、家の中のものだけを丁寧に整えていく。床板の光、花の角度、湯呑みの位置、新聞の端、玄関のスリッパ。以前なら、美緒はもう動いていた。新聞を揃え、床の間の花を確かめ、廊下に足音を立てないように歩き、久世家の一日が乱れなく始まるように整えていた。佳乃子が起きる前に。怜央が不機嫌にならないように。来客があっても恥ずかしくないように。久世家の嫁として、家の空気が少しも乱れないように。けれど今日は、そのどれもしなかった。美緒は自室にいた。足元には、小さなスーツケースがある。久世家で過ごした年月を詰め込むには、あまりにも小さい。けれど、美緒がこれから必要とするものは、そこに入っていた。身分証。通帳。印鑑。カード類。証拠のコピー。真帆の書類。PC。手帳。最低限の衣類。仕事用の資料。そして、事業計画書。地域ブランド事業支援計画書。作成者、篠原美緒。美緒はその表紙に指を置いた。紙は薄い。けれど、美緒には重かった。まだ事業は始まっていない。顧客もいない。収入の見通しも立っていない。この計画書が、外で通用する保証などどこにもない。それでもこれは、久世家が与えてくれたものではなかった。怜央の役員会資料でもない。莉奈の企画を通すための補足資料でもない。久世物産のために名前を消した資料でもない。自分の名前で、自分が立
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45.篠原美緒の朝

久世家の門を出てから、数週間が経っていた。その数週間は、長かったのか短かったのか、美緒にはうまく言えなかった。門の外へ出た日、菜月の車に乗り込んだ瞬間、何かが終わったような気がした。けれど実際には、何もすぐには終わらなかった。怜央との婚姻は、まだ書類の上では続いていた。久世家からの連絡は、真帆を通す形になっていた。怜央から直接電話が来ることはなくなったが、その代わり、真帆の事務所へ届く文書や伝言の中には、怜央の苛立ちがにじんでいた。大げさだ。そこまですることじゃない。一度のことで全部壊すのか。怜央は最後まで、そういう言葉を手放さなかったらしい。一度のこと。その言葉を見るたびに、美緒は胸の奥に小さな痛みを覚えた。けれど、もうその言葉で自分の決意を揺らすことはなかった。真帆が揃えた記録は、怜央の言葉より重かった。相沢紗季との関係。会食日。二名分のレシート。帰宅時間。怜央が「本気じゃない」と言った日の記録。佳乃子に「妻の器量」と言われた日の記録。久世家の中で、美緒がどういう言葉を受けてきたのか。それらは、ひとつひとつ事実として並べられた。久世家にとって一番避けたいのは、騒ぎが長引くことだったのだと思う。相沢紗季の名前が外へ出ること。怜央の立場が傷つくこと。久世物産の信用に影響が出ること。佳乃子は、美緒を理解したわけではなかった。最後まで、美緒の痛みに寄り添う言葉はなかった。ただ、家の恥を長引かせるより、早く収める方を選んだ。それだけだったのだと思う。それでも、手続きは進んだ。離婚届が受理された日、役所の窓口は驚くほど淡々としていた。待合の椅子に座っている間、美緒は自分の手の中にある書類を何度も見た。紙は薄く、折り目がつかないようにクリアファイルへ入れていた。これ一枚で、何年も続い
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46.リブランシュという屋号

篠原美緒として、始める。手帳にそう書いた翌日、美緒は、小さなテーブルの前でしばらく動けずにいた。窓の外では、朝の光が隣家の壁に反射している。久世家の庭のように整えられた木々はない。季節の花も、床の間も、先祖の写真もない。あるのは、まだ片づけきれていない段ボールが二つと、折りたたみのテーブルと、ノートPCと、少し冷めたコーヒーだけだった。テーブルの上には、事業計画書がある。地域ブランド事業支援計画書。作成者、篠原美緒。理念欄には、何度も迷いながら書いた一文が入っている。見落とされている価値を、正しく届く形にする。その言葉は、美緒の中では確かに形を持っていた。浜口が大切に話していた発酵調味料。藤崎が拾おうとしていたEC導線。森川が見ていた利益率の危うさ。作り手の時間。現場の声。華やかな企画の陰で置き去りにされるもの。それらを、届く形にする。そこまでは、分かっている。けれど、分かっているだけでは仕事にならない。理念だけでは、見積書は出せない。誰かに説明する名前がなければ、依頼も受けられない。契約の形がなければ、また曖昧な「手伝い」に戻ってしまう。美緒は、手帳の新しいページを開いた。篠原美緒として始める。その下に、しばらく何も書けなかった。始める、と書いた。けれど、何をどう始めればいいのか。会社を作るのか。どこかに登録するのか。名刺を作るのか。まず誰に連絡するのか。考えようとすると、途端に現実が大きくなった。美緒はノートPCを開き、法人設立について調べた。株式会社。合同会社。設立費用。登記。資本金。定款。決算。税務。社会保険。画面に並ぶ言葉を追っているうちに、胸の奥が少し詰まった。会社。
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47.久世さんの元奥さんが?

リブランシュの名刺は、まだ一枚も減っていなかった。白い小さな箱の中に、同じ名刺が整然と並んでいる。リブランシュ。地域ブランド事業支援。代表 篠原美緒。その文字を初めて見た時、美緒は確かに息を詰めた。自分の名前が、誰かの妻としてではなく、仕事の前面に出ている。久世家の嫁でも、怜央の妻でも、誰かの資料を手伝う人でもない。篠原美緒として、リブランシュという屋号の下に立っている。それは小さな紙なのに、美緒には、久世家のどの部屋よりも広い場所へ続く扉のように思えた。けれど、扉は紙の上にあるだけでは開かない。名刺は、誰かに差し出して初めて、仕事の入口になる。美緒は名刺を一枚取り出し、指先でそっと縁を撫でた。薄い紙。けれど、その薄さの中に、仕事として名乗るための重さがあった。机の上には、事業計画書と手帳が置かれている。地域ブランド事業支援計画書。作成者、篠原美緒。理念欄には、もう何度も見返した一文がある。見落とされている価値を、正しく届く形にする。美緒は、その言葉を読むたびに少し背筋が伸びる。けれど同時に、まだ何も始まっていない現実も見えていた。顧客はいない。報酬を受け取ったこともない。見積書も、請求書も、契約書のひな形も作った。報酬表もある。事業用のメールアドレスもある。けれど、それらはまだ机の上に並ぶ道具でしかない。本当に自分が仕事として見てもらえるのか。自分の名刺を受け取った相手は、篠原美緒を信頼してくれるのか。それとも、何の実績もない個人事業主だと思うだけなのか。美緒は名刺を箱に戻そうとして、手を止めた。その時、スマホが震えた。表示された名前を見て、胸が少しだけ跳ねた。鷹宮だった。美緒は一度だけ息を整え、通話ボタンを押した。「篠原です」「鷹
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48.工場の匂い

小野寺製菓の工場に入った瞬間、美緒は足を止めた。甘く、香ばしい匂いがした。砂糖が熱を含んだ匂い。焼けた小麦の匂い。バターの余韻。奥の方からは、包装紙と段ボールの乾いた匂いも混ざってくる。資料には載らない匂いだった。売上表にも、原価表にも、催事の実績にも、この匂いは記載されない。けれど美緒はその一瞬で、ここがただ古いだけの工場ではないことを感じた。古い設備。使い込まれた焼き型。整然と並べられた材料。迷いのない従業員の手元。効率だけで見れば、課題はいくつもあるのだろう。けれど、そこには長く作り続けてきた会社の呼吸があった。「こちらです」小野寺千鶴が、少し緊張した声で美緒を案内した。前回の商談室では、ほとんど口を開かなかった人だった。小野寺岳のそばで資料を抱え、何かを言いかけては飲み込んでいた。その姿には、父の不信に押されているような頼りなさがあった。けれど今日は、工場の中に立つ千鶴の姿が少し違って見えた。白い作業着を羽織り、髪を後ろでまとめ、足元は歩き慣れた靴だった。声は控えめでも、どこに何があり、誰が何をしているのかをよく分かっている人の動きだった。ここが彼女の守りたい場所なのだと、美緒には分かった。今朝、美緒はいつもより早く目を覚ました。小さな部屋のテーブルには、手帳と名刺入れと公開情報をまとめたメモが置かれていた。小野寺製菓。一日、現場を見る。久世物産が見なかったところを。前回、帰宅してからそう書いた文字を、美緒は何度も見返した。久世物産が見なかったところ。自分で口にした言葉だった。けれど、言ったからには、本当に見なければならない。資料を眺めるだけでは足りない。相手の言葉を聞いた気になるだけでもいけない。現場を見る、と手帳には書いた。けれど現場とは、資料の中にある数字よりずっと曖昧で、ずっと逃げ場のないものなの
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49.売れているのに、残っていない

小野寺製菓から届いた資料は、きれいに整ったものではなかった。商品別売上。原価表。百貨店催事の実績。ECの注文履歴。包装資材費。送料。値引き販売の記録。販促費。久世物産経由の取引明細。フォルダの中には、形式の違うファイルがいくつも並んでいた。年度の区切りも、集計単位も、担当者の書き方も少しずつ違う。商品名も、正式名称で入っているものもあれば、社内で使っている略称らしいものもあった。千鶴からのメールには、申し訳なさそうな一文が添えられていた。整理しきれていなくてすみません。出せるものを、いったん全部お送りします。父が「どうせ見るなら全部見てもらえ」と言ったので、少し雑多です。美緒は、その文面を見て、少しだけ息を吐いた。整っていない資料。ばらばらの数字。現場の都合で積み上がってきた記録。けれど、困っている会社の数字は、最初からきれいな顔をしているわけではない。きれいに整った資料だけを見ていては、こぼれているものは見えない。久世物産にいた頃、美緒は何度も整った資料を作ってきた。怜央が役員会で説明しやすいように。莉奈のKUZÉ ma vieが、企画として通りやすくなるように。見づらい数字を並べ替え、足りない費用を足し、想定質問への答えを整えた。あの頃、美緒が触れる前の資料も、たいていは整っていなかった。売上だけが大きく載っていて、利益率が見えない資料。販促費が別扱いになっていて、本当の採算が分かりにくい資料。在庫のリスクが空欄のまま、華やかな企画だけが先に進んでいる資料。美緒はそれらを直してきた。けれど、その成果は怜央の資料になり、莉奈の企画になり、久世物産の会議資料になった。美緒の名前は、どこにも残らなかった。今、画面の前に座っている美緒は違う。小さな部屋のテ
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50.正しく届く形

問題は見えた。売れていないわけではない。けれど、残っていない。百貨店催事では動く。ギフトシーズンにも売れる。地元の固定客もいる。看板商品には、確かに力がある。それなのに、包装資材費、手数料、送料、値引き、取引条件が重なって、売れたあとの利益が薄くなっている。美緒は、小さな部屋のテーブルで、前回作った資料をもう一度見返していた。小野寺製菓 残る利益を見るための整理表。作成、リブランシュ 篠原美緒。画面の中に並ぶ数字は、もうただの数字ではなかった。百貨店催事の売上。詰め合わせ商品の薄い粗利。包装資材費の上昇。ECで離脱している購入導線。送料で削られていく利益。値引き販売によって薄くなる定価の意味。久世物産経由の取引条件。ひとつずつ見ていくほど、小野寺製菓の苦しさははっきりした。けれど、美緒はその表の前で手を止めた。問題を見つけるだけなら、ここで終わってしまう。この商品は利益が薄い。この販路は効率が悪い。この詰め合わせは残らない。この値引きはブランドを削る。そう指摘するだけなら、傷口を指さすことと同じだった。美緒がしたいのは、小野寺製菓の商品を数字で裁くことではない。工場の匂いを思い出す。焼き菓子の甘く香ばしい匂い。使い込まれた焼き型。包装室で、一つずつ丁寧に箱へ詰めていた手。古いけれど、清潔に保たれた作業台。そして、千鶴の声。商品が悪いとは思いたくないんです。その言葉は、数字の表を見ている今も、美緒の胸に残っていた。数字は必要だった。けれど、数字だけでは小野寺製菓の価値は見えない。逆に、思いだけでも会社は続かない。商品を守るためには、どこで苦しくなっているのかを見なければならない。けれど、その先には、どう続けるかを考え
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