廊下の端から端まで、人の気配が並んでいた。 リアンにはそれが、ぼんやりとした輪郭の塊としてしか見えなかった。等間隔に壁へ固定された燭台の灯りは、通常の視力を持つ者にとっては充分な明かりなのだろうが、リアンの目にはほとんど意味をなさない。夕刻を過ぎたころから視界は霞み始め、夜が深まるにつれて世界はいっそう曖昧になっていく。輪郭が滲み、色が溶け、眼前に広がるのはただ濃淡だけの、頼りない世界だった。 廊下に居並ぶ家臣たちの視線が、物理的な重さを持って肌に刺さる。 見えているわけではない。ただ、肌を焼くような感覚でわかるのだった。針の先をそっと押し当てるような痛みが首筋のあたりに集まり、リアンは浅い呼吸を繰り返しながら、重厚な扉の前に立ち続けた。背筋を正し、両手を前で重ね、焦点の合わない視線を扉の中心へ向ける。膝が微かに震えているのを、喉の奥までせり上がる気力だけで押さえ込んだ。 不意に、肩に重みを感じた。 父の手だと、その重さと骨張った感触ですぐにわかった。若いころは剣を握っていたという武人の手が、ゆっくりと一度だけ肩を叩く。「陛下のお役に立ってきなさい」 低く、耳元にだけ届く囁き。そこには息子への情などは微塵も含まれていなかった。あるのはただ、家の存続と生き残りを案じる、一族の主としての義務感だけだ。リアンは小さく頷いたが、何も言葉は返さなかった。返すべき言葉など、とうの昔に失ってしまった気がした。 父が退く気配がすると、入れ替わるように別の声が入り込んできた。「妻君と御子を同時に亡くされた陛下の御心は、今やひどく荒れております」 声の主の顔は見えない。ただ、その響きにはまとわりつくような油の粘りがあって、リアンは鼻の奥が不快にざわめくのを感じた。「あなたのその容姿を、大いに活用なさいませ。亡き妻君に似たお顔が、陛下の御心を鎮めることを切に願います。……失敗は、死を意味しますよ」 最後の一言が、冷え切った廊下の静寂の中に鋭く落ちた。「承知しました」 リアンは正面を向いたまま答えた。自分の声は、思っていたよりもずっと落ち着いて、どこか他人事のように響いた。 失敗は死――。 その言葉を、リアンは胸の奥でゆっくりと転がした。 皇帝ヴァレン。 エルスヴェイル家の者であれば、子供の頃から耳に馴染んでいる名だった。若い日の陛下は、あまりにも苛
Last Updated : 2026-05-08 Read more