復職してから、もうすぐ二ヶ月が経とうとしていた。最初の頃は、白衣に袖を通すだけで緊張していた。診察室の椅子に座るたびに、自分の声がちゃんと出るだろうかと不安になった。患者さんの顔を見るのも怖かった。もし期待に応えられなかったら。もし、もう医者として戻れなかったら。そんなことばかり考えていた。けれど今は違う。もちろん緊張がなくなったわけではない。それでも少しずつ、身体が昔の感覚を思い出していた。問診の流れ。患者さんの表情の変化。声の揺れ方。本当に不安に思っていることは何なのか。言葉にならない違和感はどこにあるのか。そういうものを拾う感覚が、ゆっくり戻ってきていた。仕事を終えて更衣室の鏡を見る。白衣を脱いだ自分の顔は、数ヶ月前よりずっと明るかった。頬には少し血色が戻り、目元の疲れも薄くなっている。最近は髪もきちんと整えるようになった。白いブラウスに細身のパンツ。仕事帰りでも疲れて見えないように。そんなことを自然に考えられるようになった。少し前までは、そんな余裕すらなかったのに。みかにも先日言われた。『綾香、また美人な女医さん感戻ってきた』女医さん感って何。そう笑ったけれど、少しだけ嬉しかった。それは綺麗になったと言われたからじゃない。自分を取り戻していると言われた気がしたからだ。今日は仕事帰りに内見が入っていた。賃貸契約にはまだ必要な書類が揃わない。復職して間もないから、給与明細ももう少し必要になる。それでも物件を見ることはできる。自分がどんな場所で暮らしたいのか考えることもできる。未来を決めるための準備は始められる。それだけで少しずつ現実味が増していた。不動産会社の前に着くと、綾瀬先生はもう来ていた。黒いシャツに薄手のジャケット。長い髪は後ろで自然に束ねられている。片手にはコーヒーが二つ。もう片方の手でスマホを見ていた。人通りの多い駅前なのに、なぜか目に入る。整った顔立ちのせいかもしれないし、立ち姿に無駄な力が入っていないせいかもしれない。「あ、来た」顔を上げる。その瞬間の表情が柔らかい。気負わせない笑顔だった。「お疲れ」差し出されたカップは、甘めのカフェラテだった。私は思わず苦笑する。「また覚えてたんですか」「覚えてるよ」本当に当たり前みたいに返ってくる。「
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