翌朝。クリニックへ着くと、いつもと変わらない一日が始まった。受付ではスタッフが予約表を確認し、待合室には診療開始を待つ患者が少しずつ増えていく。私は白衣へ着替え、前日に届いていた検査結果へ目を通した。昨日、見学した病院の光景が、まだ頭の中に残っている。自然光の入る待合室。患者が治療の選択肢を整理するための相談窓口。医師だけではなく、看護師や薬剤師、相談員が同じ研究へ参加する環境。そして、診療科長から言われた言葉。本気で考えたいなら、相談できる人はこの病院にもいます。今のクリニックへ不満があるわけではない。患者との距離が近く、日々の診療へ丁寧に向き合える今の環境があったからこそ。大学病院にいた頃には見えなかった疑問を持つことができた。それでも私は、真帆の病院で働いてみたいと思った。その気持ちは、一晩眠っても変わっていなかった。診療開始の時間が近づき、私はカルテを開いた。今日は隼人くんと話す。昨夜、互いに会いたいと伝えた。けれど院内では、まず仕事として整理しなければならないことがある。転職の可能性。兼務という選択肢。勤務日数や外来の引き継ぎ。恋人としての感情だけで話せることではなかった。廊下から聞こえた足音に、思わず顔を上げる。開いていた診察室の前を、隼人くんが通り過ぎた。一瞬だけ、視線が重なる。「おはようございます」「おはよう、白松先生」いつも通りの声だった。足を止めることもなく、隼人くんは隣の診察室へ入っていく。昨夜のメッセージを思い出している様子は見えない。それでいいはずなのに、胸の奥には、ほんの少しだけ距離を感じた。今は仕事中だから。そう自分へ言い聞かせ、私は最初の患者を呼び入れた。***午前の診療が終わる頃には、仕事へ集中していたこともあって。朝から感じていた落ち着かなさは少し薄れていた。最後の患者を見送り、カルテを閉じたところで、院内の内線が鳴る。『白松先生、少し時間ある?』隼人くんの声だった。「はい」『院長室へ来てもらってもいい?』「分かりました」受話器を置き、昨日病院でもらった資料をバッグから取り出す。院長室のドアを叩くと、中から落ち着いた声が返った。「どうぞ」入ると、隼人くんはデスクの上に広げていた書類を片づけ、向かいの椅子を示した。白衣を着たまま、眼鏡をか
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