梨沙は気まずさのあまり全身が熱くなり、天音が一刻も早く戻ってくることだけを願っていた。スマホを手にすると、素早く指を動かし、天音へメッセージを送る。すると、すぐに返事が届いた。【昔の同級生に会っちゃって、別の個室にいる二人にも顔を見せてって、無理やり連れていかれたの。5分くらいで戻るから、お義姉さん、それまで土岐さんのお相手をお願い!】梨沙は言葉を失った。「......」嫌な予感ほど、よく当たるものだ。梨沙はスマホをしまい、仕方なく望の話を切り出した。「望は手術が終わったら、土岐家へ戻ることになるんですか?」礼都は短く「ああ」と答えた。梨沙はため息をつく。「土岐さんが望を大切にしてくださるのなら、土岐家のほかの皆さんも、きっと同じように可愛がってくださいますよね」土岐家の人々を立てるつもりで口にした言葉だった。ところが礼都は、きっぱりと否定した。「そうとは限らない」その短い一言で、梨沙の胸にたちまち不安が広がった。「え?それは、どういう意味ですか?」礼都は目を伏せた。しばらく沈黙したあと、低くかすれた声でゆっくりと答える。「望が戻れば、財産を奪われると警戒する人間もいる。それだけの話だ」梨沙の脳裏に、これまで見てきた名家を舞台にしたテレビドラマが次々と浮かんだ。とうに忘れていたさまざまな場面が、一気に記憶の底からよみがえる。財産を巡って手段を選ばず、兄弟が敵対し、血を分けた家族同士で傷つけ合う。考えるだけで恐ろしくなった。梨沙は探るように礼都を見つめた。「でも、土岐さんは望を守ってくれますよね?」礼都はわずかに首を傾け、興味深そうに彼女を見た。そして気だるげな声で聞き返す。「俺にも守れないとしたら?」梨沙は迷うことなく答えた。「土岐さんなら、絶対に守れます」そう言ったあと、さらに一言付け加える。「だって、とても頼りになる方ですから!」礼都は口元を緩めた。「お茶でも飲むか?」梨沙はすぐに立ち上がった。「私がお注ぎします」ティーポットを手に礼都のそばへ歩み寄ると、彼から漂うシダーウッドの香りが、ふわりと鼻先をかすめた。梨沙は思わず息を止め、そのまま彼のカップへお茶を注いだ。カップが満たされ、後ろへ下がろうとする。
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