All Chapters of 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています: Chapter 401 - Chapter 410

510 Chapters

おもてなしの代金

 翌日の昼休み。 佳苗のスマートフォンに、母親からメッセージが届いた。『昨日は来てくれてありがとう』『こちらこそ。ごちそうさま』 すぐに返事が来る。『雄吾さん、思ってたより気さくで安心したわ』『うん』『また来てもらいたいわね』『都合が合えばね』 そこまで読んで、佳苗は微笑んだ。 けれど。 次に届いたメッセージを見て、表情が止まった。『そういえば昨日の食事、結構かかったのよ』 嫌な予感がした。『そうなんだ』『雄吾さんが来るから、安いもの出すわけにもいかないでしょう?』 続けて。『全部で二万ちょっとかかったの』 佳苗はしばらく画面を見つめた。 何と返せばいいのか迷っている間にも、次のメッセージが来る。『一万円でいいから、今度返してくれない?』 やっぱり。 佳苗は小さく息を吐いた。『昨日、食事代を払ってほしいって話は聞いてないよ』『だって家に来るのに、普通お金の話なんて先にしないでしょう』『だったら、招待した人にあとから請求するのも違うと思う』 既読がつく。『請求って言い方やめてよ』『別に全部払えって言ってるわけじゃないでしょう』『半分だけよ』 佳苗は返信する前に、少し考えた。 金額は払えないものではない。 一万円なら、自分で出せる。 けれど。 ここで払えば、次も同じことになる気がした。『払わないよ』 送信した。 しばらく返信が来なかった。 やがて。『たった一万円なのに?』 佳苗は目を閉じる。 顔合わせのときと同じだ。 たった服一着。 今度は、たった一万円。『金額の問題じゃな
Read more

少しくらいいいでしょう?

     ◇ 仕事を終え、帰宅した佳苗は、そのことを雄吾に話した。「一万円?」「はい」「払ったのか?」「払ってません」「そうか」「……やっぱり払った方がよかったですか?」 雄吾が佳苗を見る。「佳苗は払いたかったのか?」「払いたくはなかったです」「なら、それでいいだろ」「でも、一万円くらいなら出せるし……」「出せるかどうかと、出したいかどうかは別だ」 顔合わせのときにも似た話をした。 雄吾にとって三十万円が大きいかどうかと、悟に貸す理由があるかどうかは別。 金額が小さければ、嫌なことでも受け入れなければならないわけではない。「次から、食事代が必要なら先に言ってって伝えました」「それで十分だと思う」「はい」 佳苗は頷いた。 それでも、胸の奥には少しだけ罪悪感が残っていた。     ◇ その頃。 母親は一人、昨日の残り物を食べていた。「何よ……」 二万円も使った。 娘夫婦のために。 雄吾が来るから恥をかかないように、普段なら買わないものまで用意した。 なのに一万円さえ出してくれない。「家族なのに」 雄吾は言った。『もう家族でしょう?』 あれは嘘だったのだろうか。 家族なら。 少しくらい困ったときに助けてくれてもいいはずだ。 別に、贅沢をさせろと言っているわけではない。 たった一万円。 それさえ拒む佳苗の方がおかしいのではないか。 母親はそう考えながら、スマートフォンを手に取った。 佳苗にはもう言いたくない。 雄吾にも直接言えば、また佳苗の味
Read more

同じ母親なら

 翌朝になっても、母親の怒りは収まっていなかった。 むしろ一晩考えたことで、自分の方が正しいという気持ちが強くなっていた。 二万円すべてを払えと言ったわけではない。 半分だけ。 しかも、佳苗たちをもてなすために使った金だ。「それくらい普通でしょう」 呟きながら、母親はスマートフォンを操作した。 昨夜、美佐子へ連絡する方法を探してみたものの、当然ながら個人の連絡先など出てこない。 雄吾の会社へ電話することも考えた。 しかし、それはやめた。 悟が会社へ押しかけた話を思い出したからだ。 自分まで同じことをすれば、佳苗に何を言われるか分からない。 それに。 雄吾へ話したいわけではない。 美佐子と話したいのだ。「今度会ったときに聞けばいいか……」 結婚したのだから、これから両家で会う機会もあるだろう。 そう考え、母親はいったんスマートフォンを置いた。     ◇ 数日後。 佳苗のもとへ、美佐子から電話が掛かってきた。『佳苗さん、今大丈夫?』「はい。どうしました?」『ちょっと聞きたいことがあって』「何ですか?」『お母様のことなんだけど』 佳苗の胸がわずかに緊張した。「母が何かしました?」『違うの。何もされてないわよ』 美佐子はすぐに否定した。『ただ、今度こちらからご挨拶に伺った方がいいのかしらと思って』「挨拶?」『結婚したでしょう? 顔合わせはしたけど、その後は何もしてないし』「別に大丈夫だと思います」『そう?』「はい。母もこの前、私たちを家に呼んでくれましたし」『まあ、そうなの?』「はい」『雄吾も行ったの?』「一緒に」
Read more

美佐子への根回し

「また怒らせたかな」 夜。 佳苗が今日のやり取りを雄吾に見せると、雄吾は一通り読んでからスマートフォンを返した。「怒ってるだろうな」「やっぱり」「でも、それと佳苗が間違ってるかは別だろ」「はい」「母さんにも言っておくか?」「何をですか?」「もし佳苗の母親から何か言われても、俺たちに確認してから返事してくれって」 佳苗は少し迷った。「そこまでしなくてもいい気もするんですけど……」「連絡先知らないんだろ?」「多分」「なら今すぐ何かあるとは思わないけどな」 雄吾も強くは勧めなかった。「ただ、金の話が出たら勝手に約束しないようには前から言っておく」「それは……お願いします」「ああ」「なんか、すみません」 言った直後、佳苗は口を押さえた。「また謝った」「分かってるならいい」「でも、私の家族のことで」「佳苗が頼んでやらせてるわけじゃないだろ」「はい」「なら佳苗が謝ることじゃない」 佳苗は頷いた。      ◇  翌日。 雄吾は美佐子へ電話を掛けた。『何?』「一つだけ言っとく」『何よ、改まって』「佳苗の母親から、もし金の話をされたら、その場で何も約束するな」 電話の向こうが静かになる。『……何かあったの?』「少しな」『佳苗さん、大丈夫?』「ああ」『お母様と揉めたの?』「詳しい話は佳苗と母親の間のことだから、俺からは言わない」『そう』 美佐子はそれ以上聞かなかった。
Read more

母の歪み

 それから数日は何も起きなかった。 佳苗も母へ連絡せず、向こうからも連絡は来ない。 そんなある日、美佐子は知人との食事を終え、ホテルのロビーを歩いていた。「美佐子さん?」 名前を呼ばれて振り返ると、見覚えのある女性が立っていた。「あら、佳苗さんのお母様」「やっぱり! こんなところで会うなんて」 顔合わせ以来だった。「今日はどうなさったの?」「ちょっと近くまで買い物に来たんです。美佐子さんは?」「私は友人と食事をしていたところです。もしお時間があるようでしたら、お茶でもいかが?」「いいんですか?」「ええ、もちろん」 二人はそのままロビーラウンジへ向かった。     ◇ 最初は当たり障りのない話だった。 結婚した二人のことや仕事のこと。先日、雄吾が家を訪ねたことを話すと、美佐子は楽しそうに笑った。「雄吾さん、本当に優しいですね。食器まで運んでくれて、『もう家族でしょう』なんて言ってくれたんですよ」「まあ。雄吾がそんなことを?」「本当に、いい人と結婚できてよかったと思ってるんです」「そう言っていただけると、私も嬉しいですわ」 そこまでは和やかだった。「ただ……」 佳苗の母がわずかに表情を曇らせる。「何かございました?」「こんなこと、美佐子さんに言うことじゃないんですけど。最近、佳苗が少し冷たくて」 その前置きで、美佐子は先日の雄吾からの電話を思い出した。「二人が来るから、ちょっと張り切って食事を用意したんです。それで思ったよりお金がかかってしまって……あとから佳苗に、一万円だけ出してくれないかって頼んだんですよ」「そうでしたの」「でも、招待したのにあとから請求するのはおかしいって言われてしまって」 困ったように笑ってから、探るように美佐子を
Read more

母親の居場所

 数日後、美佐子から佳苗へ連絡があった。『少しだけ、お話ししておきたいことがありますの』「何でしょう?」『先日、偶然お母様にお会いしたの』「母に?」 佳苗は思わず聞き返した。『ええ。ホテルでね。少しお茶をご一緒したのだけれど、そのとき食事代のお話が出たの』「……すみません」『佳苗さん』 美佐子の声が少しだけ強くなる。『あなたが謝ることではありませんでしょう?』「あ……はい」『私も雄吾から、お金のことで何か言われても勝手に返事をしないようにと言われていましたから。何もお約束していません』「ありがとうございます」『ただ、お母様は少し寂しく感じていらっしゃるようでした』 佳苗は黙った。『もちろん、だから佳苗さんが何かして差し上げるべきだと言っているわけではありませんよ』「はい」『以前の私なら、そう言ってしまったかもしれませんけれど』 美佐子は小さく笑った。『でも今は、親が寂しいことと、子供がそれを埋めなければならないことは別なのだと思っています』 その言葉に、佳苗は少し驚いた。「お母様、変わりましたね」『まあ。褒めてくださっているの?』「もちろんです」『それなら素直に喜んでおきますわ』 電話を切ったあと、佳苗はしばらく考えていた。 母が寂しい。 それ自体は理解できる。 けれど、だからといって以前のように母の機嫌を取るため、自分が折れるつもりはなかった。     ◇ その日の夜、恵からメッセージが届いた。『お母さんとなんかあった?』『どうして?』『最近めっちゃ面倒くさい』 佳苗は思わず笑ってしまった。『何て言ってるの?』『私たち二人とも結婚したら、お母さん一人になるとか』
Read more

寂しいからといって

 週末、恵は母に呼ばれて実家を訪れた。「最近、ちゃんと食べてるの?」「食べてるよ」「仕事は?」「普通」 母が淹れたお茶を飲みながら、他愛のない話をする。 こうして会うこと自体は嫌ではなかった。 問題は、その先だった。「ねえ、恵」「何?」「この前話したこと、考えてくれた?」 一緒に暮らさないかという話だ。「考えたけど、やっぱり無理」「どうして?」「今の生活変えたくないから」「でも、一人暮らしだってお金かかるでしょう? ここなら家賃も浮くじゃない」「お母さんと暮らすために仕事してるわけじゃないし」 母の顔が曇る。「そんな言い方しなくてもいいでしょう」「ごめん。でも、一緒には住まないよ」「佳苗も結婚して出ていったし、あなたまで……」「お姉ちゃんは前からここに住んでないじゃん」 恵は思わず突っ込んだ。 佳苗は悟と結婚していた頃から、母とは別に暮らしていた。雄吾と結婚したから突然家を出たわけではない。「そういう意味じゃないわよ。もう完全に向こうの家の人になったってこと」「結婚しても娘でしょ?」「だったら、もう少し親のことを考えてくれてもいいじゃない」 結局、そこへ戻る。 恵は小さく息を吐いた。「お母さん、寂しいの?」「……何よ、急に」「寂しいから、私に一緒に住んでほしいんでしょ?」「親が娘と暮らしたいと思うのは普通でしょう」「普通かどうかじゃなくて、お母さんがどうなのって聞いてるの」 母は答えなかった。 その沈黙で十分だった。「寂しいなら、ときどき来るよ。ご飯も食べようよ」「だったら一緒に住めばいいでしょう?」「それは
Read more

三人で食事を

 三人での食事は、翌週の日曜日になった。 佳苗が選んだのは、駅近くの気軽なレストランだった。「こうやって三人で食事するの、久しぶりね」 母は嬉しそうだった。「そうだね」「昔はもっと一緒に出かけたのに」「二人とも大人になったんだから、仕方ないでしょ」 恵が笑う。 母も笑い返した。 最初のうちは穏やかだった。 料理を食べながら、恵の仕事の話を聞き、佳苗の新しい名字にもまだ慣れないと笑う。「そういえば、会社ではもう榊原さんって呼ばれてるの?」「うん。まだ自分のことじゃないみたいだけど」「いいわねえ、榊原佳苗か」 母がどこか満足そうに言った。「立派な名字になったわね」「朝倉だって別に悪くないでしょう」 恵が呆れる。「そういう意味じゃないわよ」「じゃあ、どういう意味?」「雄吾さんの家に入ったんだなって思っただけ」 佳苗は箸を置いた。「私は雄吾さんの家に入ったわけじゃないよ」「結婚したんだから同じでしょう?」「同じじゃないよ。雄吾さんと私で新しい家庭を作ったの」 母は納得していない様子だったが、それ以上は言わなかった。     ◇ 食後のコーヒーが運ばれてきた頃、母が何気ない調子で言った。「そういえば、お正月はどうするの?」「お正月?」「今年から結婚したんでしょう? 榊原家に行くの?」「まだ決めてないよ」「じゃあ、うちにも来られるわよね?」 佳苗は少し考えた。「予定が合えばね」「予定って、お正月くらい家族で過ごすものでしょう?」 隣で恵が顔を上げた。「お母さん、またそれ?」「何が?」「この前も私に毎週帰ってこいって言ってたじゃん」「毎週なんて言
Read more

誰を一番にするのか

 三人で食事をした日の夜、佳苗は雄吾に母とのやり取りを話した。「お正月か」「まだだいぶ先ですけどね」「今から決めたいんだろうな」「多分」 佳苗はソファに座り、少し考える。「お母さん、前はここまでじゃなかった気がするんです」「佳苗が結婚したからじゃないか?」「やっぱりそう思います?」「ああ。結婚したことで、自分から離れたって感じてるんだろ」 雄吾の言葉は、美佐子から聞いた話とも重なった。「でも、別に会わないって言ってるわけじゃないんですよ。恵も、たまには帰るって言ってるし」「それじゃ足りないんだろ」「何が欲しいんでしょう」「優先されたいんじゃないか」 佳苗は黙った。 今日の母の言葉を思い出す。『家族なのに、予定が空いてたらなの?』 確かに、母が気にしていたのは会えるかどうかではなかった。「私、冷たいですか?」「俺に聞くな」「どうしてです?」「佳苗が母親とどれだけ会うかは、佳苗が決めることだから」 雄吾は当然のように言った。「俺が『もっと会ってやれ』って言ったら、会うのか?」「……嫌です」「なら答え出てるだろ」 佳苗は思わず笑った。「そうですね」     ◇ 一方、母は一人で食事から帰り、静かな部屋を見回していた。 佳苗は雄吾のところへ帰った。 恵も自分の部屋へ帰った。 当然のことなのに、取り残されたような気がする。 スマートフォンを開くと、三人で撮った写真があった。 今日、恵が「せっかくだから」と撮ったものだ。 三人とも笑っている。 楽しかった。 娘たちも楽しそうだった。 それなのに。「どうして&helli
Read more

断られること

 日曜日、佳苗は予定通り雄吾と出かけた。 目的は、新生活に必要なものを買うことだった。 とはいえ、結婚前から一緒に暮らしていたため、大きく買い足すものはない。タオルや食器などを見ながら、気に入ったものがあれば買おうという程度だった。「これ、どうですか?」 佳苗が白いマグカップを手に取る。「同じの二つ?」「色違いもありますけど」「佳苗はどっちがいい?」「私は白かな」「じゃあ俺は黒」「即決ですね」「悩む理由がない」 そんな他愛のない会話をしながら店内を歩く。 ふと、佳苗のスマートフォンが震えた。 母からだった。『今日、本当に出かけてるの?』 佳苗は画面を見つめた。「どうした?」「お母さんです」 雄吾には画面を見せず、簡単に説明する。「この前、今日買い物に付き合ってって言われたんです。でも雄吾さんと約束があるから、別の日ならって断ったんですよ」「それで?」「本当に出かけてるのかって」 雄吾が眉を寄せた。「確認する必要あるのか?」「ないと思います」 佳苗は少し考えてから返信した。『出かけてるよ』『どこ?』 今度は答えなかった。     ◇ その頃、母は返信の来ない画面を見つめていた。「どこにいるかくらい教えてくれてもいいじゃない」 別に邪魔をするつもりなどない。 ただ、娘がどこで何をしているのか知りたいだけだ。 以前なら、佳苗はもっと話してくれた。 何を買った。 どこへ行った。 悟と何があった。 困ったことがあれば相談もしてきた。 それなのに今は、何を聞いても必要最低限しか答えない。 母は恵へメッセージを送った。
Read more
PREV
1
...
3940414243
...
51
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status