All Chapters of 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています: Chapter 391 - Chapter 400

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期待していないと言いながら

 顔合わせから数日。 佳苗の母親からは、何の連絡もなかった。 普段なら、少し言い合いになったあとでも翌日には何事もなかったように連絡してくることが多い。それが今回は珍しく静かだった。「怒ってるのかな……」 佳苗はスマートフォンを見ながら呟いた。「母親?」 向かいに座っていた雄吾が顔を上げる。「はい。顔合わせから一度も連絡がなくて」「放っておけばいいだろ」「そうなんですけど」 嫌われたくない。 怒らせたくない。 そう思う癖は、まだ完全には消えていない。 けれど、だからといって自分から謝るのは違う。「私、言いすぎましたか?」「何を?」「お母さんの生活が変わるって期待しないで、って」「事実だろ」「そうなんですけど……」「じゃあ、謝る必要はない」 雄吾はそう言ってから、少し考えるように続けた。「ただ、今後どう付き合うかは佳苗が決めればいい。縁を切れって話でもない」「はい」「普通に話したくなったら話せばいいし、今は話したくないなら連絡しなくていい」 佳苗は頷いた。 何も、母親との関係をすべて断つ必要はない。 ただ、自分が嫌だと言ったことまで受け入れなくていい。「もう少し、このままにしておきます」「ああ」     ◇ 一方。 母親もまた、佳苗から連絡が来ないことを気にしていた。「……普通、娘の方から何か言ってくるでしょう」 顔合わせでは恥をかいた。 そう思っている。 服の話など、ほんの軽い冗談のようなものだった。それなのに佳苗は皆の前で止め、雄吾まで自分を拒絶した。 ただ。 冷静になればなるほど、母親にも一つ
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久しぶりの姉妹

 恵と会うことになったのは、次の日曜日だった。 待ち合わせに選んだのは駅近くのカフェだ。人通りも多く、食事を終えればそのまま別れられる。 約束の時間より少し早く着いた佳苗は、店の前で恵を待った。「お姉ちゃん!」 声に振り向くと、恵が手を振りながら歩いてくる。「久しぶり」「うん。待った?」「今来たところ」「よかった」 思っていたより、普通だった。 以前のような険悪な空気もない。 二人で店へ入り、向かい合って座る。「お姉ちゃん、何にする?」「私はこれかな」「じゃあ私もそれにしようかな」 注文を済ませると、恵は佳苗の顔をじっと見た。「何?」「なんか変わったなって」「そう?」「うん。前より明るくなった」 悪意のない言い方だった。「そうかも」「幸せ?」 佳苗は少し驚いた。 けれど、迷わず頷く。「うん」「そっか」 恵は笑った。「よかったね」「……ありがとう」 本当に。 ただ祝ってくれるだけなのかもしれない。 佳苗の警戒心が、ほんの少し緩んだ。     ◇ 料理が運ばれてくると、話題は自然と近況へ移った。 佳苗は仕事を続けていることを話し、恵も今の生活について簡単に話した。「仕事は?」「今ちょっと探してる」「そうなんだ」「お母さんとも喧嘩しちゃったしね」 恵は苦笑した。「この前は家に行ったみたいだけど」「聞いた?」「お母さんからじゃないよ。結婚のことを聞いたって言ってたから」「ああ」 恵は肩をすくめる。「まあ、ずっと喧嘩してるわけにもいかないし」「そうだね」「でも、一緒に暮らすのは無理かな」「それは二人で決めたらいいと思う」 以前なら、母親と仲直りするよう勧めていたかもしれない。 あるいは、恵が困っているなら自分が何とかしなければと思ったかもしれない。 けれど今は、それぞれの問題だと思える。 恵はそんな佳苗を少し不思議そうに見た。「お姉ちゃん、本当に変わったね」「最近よく言われる」「榊原さんのおかげ?」 その言葉に、佳苗は少しだけ笑った。「違うよ」「違うの?」「雄吾さんにはたくさん助けてもらったけど、私が変わろうって決めたのは私だから」「……ふうん」 恵はストローを指で弄んだ。「お母さんも言ってた。お姉ちゃん、前と違うって」「そう」「悟もそう思ってる
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妹と婚約者

 恵と雄吾が会うことになったのは、翌週の日曜日だった。 場所は佳苗が選んだ。 駅から近いレストランで、昼間は家族連れも多い。個室ではなく、周囲にほかの客もいる店だ。「わざわざ付き合わせてすみません」 店へ向かう途中、佳苗が言うと、雄吾は隣で眉を上げた。「何で謝る?」「だって、私の妹に会うために休日を使ってもらってるので」「結婚するなら、いずれ会う可能性はあるだろ」「そうですけど」「それに、嫌なら最初から断ってる」「……はい」 また謝るところだった。 佳苗は小さく笑った。「何だ?」「いえ。雄吾さんといると、私、謝る回数が減ったなって」「まだ多いけどな」「減ってはいます」「じゃあ、そのうちゼロを目指せ」「それは無理です。悪いことしたら謝ります」「それでいい」 そんな話をしているうちに、店へ着いた。     ◇「お姉ちゃん!」 恵はすでに店の前で待っていた。 佳苗に手を振ったあと、その視線が隣の雄吾へ移る。 一瞬。 恵の顔が止まった。「初めまして」 雄吾が先に声を掛ける。「榊原雄吾です」「あ……初めまして。佳苗の妹の恵です」 恵は慌てて頭を下げた。「今日はすみません。私が会ってみたいって言ったから」「いや」 雄吾はそれだけ答えた。 写真では何度も見た。 けれど実際に会うと、印象が違う。 恵は店へ入ってからも、何度か雄吾を見てしまった。「恵?」「え?」「メニュー」「ああ、ごめん」 佳苗に声を掛けられ、慌てて視線を落とす。「何にしようかな」
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欲しいもの

 恵と会った翌朝。 佳苗は出勤の支度をしながら、昨日のことを思い返していた。 大きな問題はなかった。 恵も雄吾に失礼なことは言わなかったし、金を無心したわけでもない。最後には「お姉ちゃんのこと、よろしくお願いします」とまで言っていた。 それなのに、何となく引っかかっている。「どうした?」 ネクタイを締めていた雄吾が、鏡越しに佳苗を見た。「昨日のこと考えてました」「妹?」「はい」「何か気になることでもあったか?」「分からないんです」 佳苗は正直に答えた。「何もされてないのに疑うのも嫌だし。でも、前のことがあるから……」 恵と悟の関係を知ったときのことを思い出す。 あのときも、最初から疑っていたわけではなかった。「無理に信用する必要も、疑う必要もないだろ」 雄吾が言った。「今は何も起きてない。それでいいんじゃないか」「……そうですね」「何かあったら、そのとき考えればいい」 佳苗は頷いた。 未来のことまで怖がっていても仕方がない。 ただし、自分の嫌なことまで我慢する必要もない。 その二つを混同しないようにしようと思った。     ◇ 一方、恵は昨日から何度も雄吾のことを思い出していた。 顔が好みだったから、というだけではない。 もちろん、実際に会えば魅力的な男性だとは思った。 けれど、それ以上に引っかかったのは、雄吾が佳苗を見るときの態度だった。 佳苗が席を立つとき。 戻ってきたとき。 話しているとき。 特別に甘い言葉を口にするわけでもないのに、自然と佳苗を気に掛けているのが分かった。「……悟と全然違う」 悟と一緒にいた頃の佳苗は、いつも悟の様子を見ていた。 機嫌は悪くないか。 何か必要ではないか。 自分が何か失敗していないか。 恵には、それがひどくつまらない女に見えていた。 もっと好きなことをすればいいのに。 言いたいことを言えばいいのに。 そう思っていたはずなのに。 いざ佳苗がそうなれば、それも面白くない。「何なの、私」 恵は自嘲するように笑った。 佳苗が不幸なら、勝ったような気がする。 佳苗が幸せなら、負けたような気がする。 そんな勝負など、最初から誰もしていないのに。 スマートフォンが鳴った。 母親からだった。     ◇『この前、雄吾さんに会ったんでしょう?
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少しずつ

 恵が謝ってから、姉妹のやり取りは少しずつ増えていった。 毎日連絡を取るわけではない。 面白そうな店を見つけたとき。 昔好きだったものを見かけたとき。 そんなときに、短いメッセージを送り合う程度だった。 佳苗には、そのくらいの距離が心地よかった。 何もなかった頃へ無理に戻るのではなく、今の二人で新しい関係を作っていけばいい。 そう思えるようになっていた。     ◇「入籍日、どうします?」 ある夜、夕食を終えたあとで佳苗が尋ねた。 雄吾がカレンダーを開く。「佳苗は希望あるか?」「特には。でも、あんまり先にする理由もないですよね」「ああ」「式をするかどうか決めてからじゃなくてもいいですし」「別でいいだろ」 二人で候補の日をいくつか挙げていく。 仕事の都合。 役所へ行ける時間。 縁起を気にするかどうか。「雄吾さん、こういうの気にします?」「全く」「私もあんまり」「じゃあ、大安は条件から外すか」「はい」 そんな話をしながら決めていくことが、佳苗には楽しかった。 誰かから指定された日ではない。 家族が決めたわけでもない。 二人で相談し、二人で選ぶ。「この日なら、二人とも午後空けられそうですね」「じゃあ、ここにするか」「いいんですか?」「佳苗は?」「私はいいです」「なら決まりだな」 あまりにもあっさり決まって、佳苗は笑った。「もっと特別な決め方するのかと思ってました」「例えば?」「記念日とか」「作ればその日が記念日になるだろ」「……確かに」 雄吾らしい。 佳苗はカレン
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私のもの

    ◇ アクセサリーショップへ入ったとき。 恵が一つのネックレスを手に取った。「かわいい」「似合いそう」「本当?」「うん」 小さな石がついた、華奢なデザインだった。 高級品ではない。 恵でも、少し頑張れば買える金額だ。「買おうかな」「欲しいなら買えば?」「……そうする」 恵はしばらく迷ったあと、自分の財布を出した。 会計を終え、紙袋を受け取る。「なんか嬉しい」「そんなに気に入った?」「うん」 恵は袋を見ながら笑った。「自分で欲しいと思って、自分で買ったから」 佳苗が恵を見る。「今までだって買ってたでしょう?」「そうなんだけど」 恵は少し考える。「なんかね。最近、お姉ちゃん見てると、私って人のものばっかり見てたなって思って」 佳苗は何も言わなかった。「誰かが持ってると欲しくなるの。別にそれまで欲しくなかったものでも」「……うん」「悟もそうだった」 恵は苦笑した。「お姉ちゃんの旦那じゃなかったら、あんなに欲しかったか分かんない」 佳苗の胸が少し痛んだ。 けれど、逃げずに聞いた。「今は?」「いらない」 即答だった。 佳苗は思わず笑ってしまう。「そこは迷わないんだ」「絶対いらない」 恵も笑った。「だから、今度は自分が欲しいものをちゃんと見つけようかなって」「いいと思う」「でしょ?」 恵は紙袋を大切そうに持った。     ◇ そのあと、二人でカフェへ入った。「そういえば」 
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結婚する日

 入籍の日は、驚くほど普通にやって来た。 朝起きて、いつものように朝食を取り、それぞれ仕事へ向かう準備をする。 違うのは、今日の午後には二人で役所へ行くということだけだった。「本当に今日なんですよね」 玄関で靴を履きながら佳苗が言うと、雄吾が振り返った。「今さら確認するのか?」「なんだか実感がなくて」「婚姻届も書いただろ」「書きましたけど」 必要事項を記入し、証人欄も埋まっている。何度も確認したから、不備もないはずだ。 それでも佳苗には不思議だった。 一度目の結婚とは、何もかもが違う。 あの頃は、結婚するのだからこうしなければならないと思うことばかりだった。 妻になるのだから。 夫に合わせなければ。 家事をしなければ。 家庭を守らなければ。 けれど今は、結婚したあとも仕事を続ける。住む場所も、これから二人で考える。子供についてさえ、今すぐ答えを出さなくていいと言われた。 妻になるのに。 何か別の人間にならなくていい。「佳苗?」「はい」「遅れるぞ」「あ、すみません」「そこは謝らなくていい」「……はい」 佳苗は笑って、雄吾と一緒に家を出た。     ◇ 午後。 二人は予定通り仕事を切り上げ、役所の前で待ち合わせた。 雄吾の手には、婚姻届が入った封筒がある。「持ってきました?」「忘れたら今日来た意味がないだろ」「一応確認しただけです」「佳苗こそ必要なもの持ったか?」「大丈夫です。三回確認しました」「確認しすぎだ」「こういう日に忘れ物したくないんです」 そんな話をしながら中へ入る。 窓口で書類を提出すると、職員が内容を確認してい
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波乱の予感

 帰宅すると、佳苗は母親へ入籍したことを連絡した。『今日、無事に入籍したよ』 少しして電話が掛かってくる。『おめでとう』「ありがとう」 母親の声は、思っていたより穏やかだった。『本当に榊原さんになったのね』「うん。まだ慣れないけど」『そりゃそうよ。ずっと朝倉だったんだから』 そこまでは普通だった。『それで、結婚式は?』「まだ決めてないよ」『またそれ?』「入籍したからって、今日決めなくてもいいでしょう?」『そうだけど……向こうのお家は何も言わないの?』「好きにしていいって」『ずいぶん自由なのねえ』「うん。ありがたいと思ってる」『まあ、あなたがいいならいいけど』 また、その言葉だった。 けれど佳苗は気にしなかった。「じゃあ、また連絡するね」『待って』「何?」『今度、雄吾さんと一緒にうちへ来ない?』 佳苗は少し驚いた。「家に?」『結婚したんだから、一度くらいいいでしょう? 顔合わせは外だったし』「……雄吾さんに聞いてみる」『そうして。別に大したことするわけじゃないから』「分かった」 電話を切る。 雄吾はキッチンで冷蔵庫を開けていた。「何かあったか?」「お母さんが、今度二人で家に来ないかって」「いいぞ」「まだ日程も聞いてないですよ」「都合が合えば行けばいい」「……ありがとうございます」「それは礼を言うところか?」「言いたかったので」「ならいい」 佳苗は笑った。 母親も、顔合わせの件を引きずっていないのかもしれな
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以前はできなかったこと

 佳苗と雄吾が母親の家を訪れる日。「狭いところだけど、どうぞ」「お邪魔します」 母親は玄関に立つ雄吾を見て、どこか落ち着かない様子で笑った。 顔合わせではホテルの個室だった。 今日は違う。 自分が普段暮らしている部屋へ、娘の夫となった男を迎えている。「本当に何にもないところで恥ずかしいわ」「そんなことないよ」 佳苗が言う。「お母さん、前からここに住んでるでしょう?」「そうだけど。雄吾さんが普段住んでるところとは違うでしょう」「比べる必要ないよ」「佳苗はそう言うけどねえ」 母親は笑いながら二人を中へ通した。 テーブルには、すでにいくつもの料理が並んでいた。 佳苗は目を見開く。「お母さん、こんなに作ったの?」「せっかく来るんだもの」 刺身に肉料理、煮物、サラダまである。普段の母親が二、三人の食事に用意する量ではなかった。「食べきれる?」「残ったら明日食べればいいでしょう」「それはそうだけど」「ほら、座って」 母親は雄吾を見る。「雄吾さん、お酒は?」「今日は車なので」「あら、そうなの。じゃあ買わなくてもよかったわね」「ごめん、お母さん。車で行くって言ってなかったね」「いいのよ。私が飲めばいいんだから」 母親は笑っていた。 佳苗も、それ以上は気にしなかった。     ◇ 食事が始まると、母親は雄吾へ次々と料理を勧めた。「これもどうぞ」「ありがとうございます」「遠慮しないでね」「いただいてます」「佳苗、ちゃんと取ってあげなさいよ」「自分で取れるよ」「そういう問題じゃないでしょう」 佳苗は苦笑した。「雄吾さん、自
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これまでとは違う関係

「それで、新婚生活はどう?」 食事が一段落すると、母親が尋ねた。「新婚って言っても、昨日までとあんまり変わらないよ」「そうなの?」「前から一緒に住んでるから」「でも、夫婦になったんでしょう?」「うん」「家事とか、ちゃんとやってる?」 佳苗は少し眉を寄せた。「今まで通りだよ」「雄吾さん忙しいんだから、佳苗がもう少し――」「俺もやってます」 雄吾が自然に口を挟んだ。「え?」「家のことです」「あら……そうなの?」「二人で暮らしてるので」 母親は驚いたようだった。「社長さんなのに?」「社長でも家では生活しますから」 雄吾が真顔で答え、佳苗は笑いそうになった。「そういうものなのねえ」 母親はまだ納得しきれない様子だった。「佳苗は昔から家のことはできるから、任せておけば安心だと思ってたけど」「仕事もしてるからね」「でも雄吾さんの方が忙しいでしょう?」「お母さん」「何よ?」「私たちがそれでいいんだからいいの」 佳苗が穏やかに言うと、母親は口を閉じた。「……まあ、二人の家のことだものね」「うん」 以前なら、ここからさらに説教が続いたかもしれない。 今日はそれで終わった。 佳苗は少しほっとした。     ◇ 食後。 雄吾が母親の持ってきた食器を受け取ろうとすると、母親が慌てた。「いいのよ! 座ってて」「運ぶくらいは」「お客さんなんだから」「もう家族でしょう?」 雄吾が何気なく言った。 母親が一瞬、目を丸くする。 それから嬉しそうに笑
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