「……っ、はぁ……ぁっ……!」 全身を引き裂かれるような痛みに、藤倉佳苗は汗で濡れたシーツを握り締めた。 眩しい手術灯。鼻を刺す消毒液の匂い。何度も響く機械音。 苦しい。 息ができない。「もう少しです! 頑張ってください!」 医師の声が遠い。 お腹の奥が裂けるように熱い。 それでも佳苗は必死に意識を繋いだ。(赤ちゃん……) やっと会える。 悟との子供。 愛する夫との、大切な命。 その一心だけで耐えていた。 けれど次の瞬間、医師たちの声色が変わった。「血圧低下!」「出血が止まりません!」「急げ!」 視界がぐらりと揺れる。 寒い。 急激に体温が奪われていく。「佳苗さん! しっかりしてください!」 誰かが叫んでいる。 でも、もう指一本動かせなかった。(やだ……)(まだ、赤ちゃんを抱いてない……) 涙が滲む。 そのときだった。 病室の外から、聞き慣れた声がした。「……本当に、佳苗は助からないのか?」 悟だ。 夫の声。 だがその声に、佳苗を心配する色はなかった。 ぞくり、と背筋が冷える。「仕方ないじゃない。もともと体弱かったし」 続いて聞こえたのは、妹――坂井恵の声。 どうして恵がここに……? ぼんやりした頭で考えた瞬間、二人の会話が耳に飛び込んできた。「でも、これでやっと私たち本当の家族になれるのね」「……ああ」 悟が安堵したように笑う。「正直、佳苗には感謝してるよ。代理母としては完璧だった」 ――だいりぼ? 意味が分からなかった。 佳苗の思考は止まる。「お姉ちゃんって昔から私に逆らえないもんねぇ。妊活頑張ろうって言ったら、あんなに嬉しそうにして」 恵がくすくす笑った。「不妊の私の代わりに産んでくれるなんて、本当に便利なお姉ちゃん」 ……なに、を。 言っているの。 耳鳴りがする。 視界が滲む。「まあ、死んじゃったのは想定外だけど。でももう役目は終わったし」「だな。子供さえ無事なら問題ない」 悟の声は、驚くほど冷たかった。「佳苗も、自分の子を俺たちに育ててもらえるなら本望だろ」 二人が笑う。 楽しそうに。 幸せそうに。 その笑い声が、佳苗の心をぐちゃぐちゃに引き裂いた。(……うそ)(そんな……)(私は……) 愛されていたんじゃなかったの? 赤ちゃん
Last Updated : 2026-05-17 Read more