『あなたは、それで安心なのよね?』 美佐子の声に、佳苗はすぐに答えられなかった。「……お母様?」『ごめんなさい。変な聞き方をしたわね』「いえ……」『ただ、少し気になって』 美佐子はため息をついた。『絢子ちゃん、昨日うちに来たのよ』「そうだったんですか」『ええ。仕事の帰りにね』 それ自体は何もおかしくない。 佳苗はそう思った。『それで、雄吾と一緒だったんでしょうって聞いたら、仕事の話しかしていないって』「はい」『終わったあとは、一人で帰ってきたそうよ』「……はい」『あの子、本当にあなたとの約束を守ろうとしているのね』「約束というか……」 佳苗は言葉を選んだ。「私が一条さんにお願いしたわけではありません」『でも、仕事以外で連絡を取るのは嫌だって言ったでしょう?』「それは言いました」『だったら同じじゃない?』「……」 胸が苦しくなる。 まただ。 何かが少しずつ、違う意味へ変わっていく。「お母様。私、一条さんに仕事以外で一言も話さないでほしいとは言ってません」『でも、連絡は嫌なのよね?』「はい。でも……」『二人きりで食事をするのも嫌』「それは……はい」『触れるのも嫌』「……はい」 美佐子が小さく息を吐いた。『じゃあ、絢子ちゃんはどうしたらいいのかしら』「え?」『二十年以上も友達だった人と、仕事以外では連絡もできない。食事にも行けない。昔みたいに接することもできない』「……」『私はね、佳苗さん』 美佐子の声は穏やかだった。 だからこそ、その言葉は重かった。『恋人ができたら多少距離が変わるのは仕方ないと思うの』「はい」『でも、昔からの友達をそこまで遠ざけなくてもいいんじゃないかしら』 佳苗の胸が痛んだ。「私が……遠ざけているんですか?」『そういうつもりじゃないのは分かってるわ』「でも、今――」『ごめんなさい』 美佐子が遮った。『あなたを責めたいわけじゃないの』「……」『ただ、絢子ちゃんも大切な子だから』「はい」『あの子が寂しそうにしているのを見ると、どうしてもね』 佳苗は唇を噛んだ。 分かっている。 美佐子にとって絢子は大切な存在。 だから傷ついていれば心配する。 当然のことだ。 けれど。「お母様」『なあに?』「一条さんは、私が嫌だと言ったから寂しい
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