All Chapters of 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています: Chapter 371 - Chapter 380

398 Chapters

私だって好きだから

「私だって、雄吾さんが好きなんです」 佳苗の声を、絢子は廊下で聞いていた。「だから、一条さんが傷つかないようにするために、私と雄吾さんの関係まで小さくすることはできません」 美佐子は何も答えない。 絢子も動かなかった。 やがて、美佐子が小さく息を吐く。「……そんなつもりじゃなかったのよ」「はい」「私はただ、絢子ちゃんも大切で」「分かっています」「小さい頃から知ってるの。娘みたいなものなのよ」「それも分かっています」 佳苗は静かだった。「だから、お母様と一条さんが家族のように付き合うことを、私はやめてほしいなんて思っていません」「……」「でも、一条さんが雄吾さんを好きなことと、それは別です」「そうね」「一条さんが雄吾さんのことで傷つくたびに、私が何かを譲らなきゃいけないなら……」 佳苗は一度言葉を切った。「私も苦しいです」「……ごめんなさい」 今度の謝罪は、これまでとは少し違って聞こえた。「私、絢子ちゃんが泣いているのを見たら、つい……」「はい」「あなたが何かしたわけでもないのにね」 佳苗は目を見開いた。「お母様……」「今日だってそうだわ。あなたは何も言っていないのに」 美佐子が苦笑する。「私が勝手に先回りして、お願いしてしまったのね」「……はい」「ごめんなさい」 佳苗の胸から、少しだけ重いものが消えた。 ようやく。 分かってもらえた気がした。「ありがとうございます」 そのときだった。「……ごめんなさい」 背後から声がした。 二人が振り返る。「絢子ちゃん?」 絢子が立っていた。 目に涙を浮かべて。
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過去にいる男

 藤倉悟。 その名前を調べ始めたのは、ほんの出来心だった。 絢子は佳苗から、以前結婚していたことだけは聞いている。 詳しい事情までは知らない。 けれど。 雄吾が佳苗を守ろうとする姿を見るたび、気になっていた。 佳苗は、雄吾と出会う前にどんな人生を送っていたのだろう。 どんな男と結婚して。 なぜ、その結婚は終わったのか。「……別に、何かするわけじゃないもの」 絢子は自分に言い聞かせた。 ただ知りたいだけ。 そう思って、知人にそれとなく調べてもらった。     ◇ 数日後。 返ってきた答えは、予想以上のものだった。『藤倉悟って人、今はもう前の会社にいないよ』「え?」『懲戒解雇されてる』 絢子は目を見開いた。『社内の金を不正に処理してたのが監査でバレたみたい。損害賠償も請求されたって』「……そんな人だったの?」『離婚したのも、その少し前みたいだね』 送られてきた情報を読みながら、絢子は眉を寄せた。 佳苗の元夫。 会社を懲戒解雇され。 金銭的にも追い詰められている男。(雄吾さんとは、全然違う) なぜ佳苗がそんな男と結婚したのか。 ますます分からなくなった。 けれど。『あと、これは確実じゃないけど』 続けてメッセージが届く。『元奥さんにかなり執着してたらしいよ』「……執着?」『離婚したあとも連絡してたみたい』 絢子の指が止まる。『復縁したかったのか、金に困って頼ろうとしてたのかまでは知らないけど』「……」 佳苗は。 今でも、この男から連絡を受けているのだろうか。     ◇ 一方。 悟は狭い部屋で、一人スマートフォンを眺めていた。 懲戒解雇されてから。 生活は一変した。 以前のような収入はない。 損害賠償の問題も残っている。 再就職も思うように進まない。 面接で前職を辞めた理由を聞かれるたび、言葉に詰まった。「……くそ」 テーブルの上には、コンビニで買った弁当の空き容器。 洗濯物は溜まっている。 部屋も散らかっていた。 こんなとき。 どうしても思い出す。 佳苗なら。 食事を用意していた。 洗濯もしていた。 金の管理もしていた。 自分が仕事だけしていれば生活が回るように、何も言わず整えていた。 あの頃は。 それが当たり前だと思っていた。「……佳苗」 悟
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似た者同士

『今、佳苗さんがお付き合いしている榊原雄吾さんの幼なじみです』 悟は、その文章を何度も読み返した。 榊原雄吾。 佳苗が自分のもとを離れたあと、そばにいるようになった男。 しかも。『幼なじみ?』 悟が返す。『はい。子供の頃から、家族ぐるみで付き合ってきました』「……」 悟の眉が寄った。 なぜそんな女が、自分に連絡してくる。『それで、佳苗の何を聞きたいんですか』 返事はすぐには来なかった。 数分後。『離婚された理由を、もし差し支えなければ教えていただけませんか』「は?」 悟は思わず声を漏らした。 ずいぶん踏み込んだことを聞いてくる。『何であんたにそんなこと話さないといけないんですか』『そうですよね。申し訳ありません』 あっさり引いた。『忘れてください』 それだけ。 悟は画面を睨んだ。「……何なんだよ」 普通なら、そこで終わる。 けれど。 妙に気になった。『あんた、榊原とどういう関係なんですか』 送る。『先ほどお伝えした通り、幼なじみです』『それだけ?』 今度は少し間があった。『……それだけです』 悟は鼻で笑った。「嘘つけ」 わざわざ佳苗の元夫を調べて。 連絡先まで手に入れて。 離婚理由を聞いてくる。 ただの幼なじみがすることではない。『榊原のこと好きなんですか』 送信。 長い間、既読だけがついていた。 やがて。『昔から、大切な人です』 それだけが返ってきた。「
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向こうから連絡してきた

『昨日、一条絢子って女から俺に連絡が来た』 佳苗は、その文章を何度も読み返した。 意味は分かる。 けれど。 理解したくなかった。 絢子が。 自分から悟を探して、連絡した。「……どうして」「佳苗?」 雄吾の声がした。 顔を上げる。 リビングへ入ってきた雄吾が、佳苗の様子に気づいて足を止めた。「どうした?」「悟から……」 佳苗はスマートフォンを差し出した。「連絡が来ました」 雄吾の表情が変わる。 画面を読む。『一条絢子って女、知ってるか?』『榊原の幼なじみらしいな』『昨日、向こうから俺に連絡してきた』「……絢子から?」「そう書いてあります」「何であいつが悟の連絡先を知ってるんだ」「分かりません」 佳苗の声が震えた。「私、一条さんに悟のことなんて話してません」「ああ」「お母様から、以前結婚していたことくらいは聞いていたかもしれません。でも……」 連絡先まで。 偶然知るはずがない。「佳苗」「はい」「悟に聞けるか?」 佳苗は迷った。 悟とは関わりたくない。 けれど。 これは確かめなければならないと思った。『一条さんから連絡が来たって本当?』 送信する。 すぐに既読がついた。『やっと返事したな』「……」 佳苗はその言葉を無視した。『何を話したの?』 今度の返事は長かった。『あの女が俺を調べて連絡してきた』
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もう関わらない

「絢子から、話があった」 その夜。 雄吾が帰宅すると、すぐに佳苗へそう告げた。「……はい」「悟を調べて連絡したことも認めた」「何て言っていました?」「佳苗に嫉妬したって」 佳苗は目を伏せた。 メッセージで聞いた言葉と同じだった。「俺がどうして佳苗を大切にするのか、知りたかったらしい」「……そうですか」「納得はしてない」 雄吾ははっきり言った。「嫉妬したからって、元夫まで調べて連絡するのはおかしい」「はい」「もう佳苗のことは調べない。悟にも連絡しないとは言ってた」「それなら……」 佳苗は少し迷ってから続けた。「もう、それでいいです」「いいのか?」「許すとかじゃありません」 佳苗は首を横に振る。「ただ、これ以上一条さんが何を考えていたのか考え続けたくないんです」 悟から逃げたあと。 佳苗はずっと。 他人の機嫌や気持ちを考えていた。 どうすれば怒らせないか。 どうすれば傷つけないか。 自分が我慢すれば済むのではないか。 絢子と出会ってからも、いつの間にか同じことをしていた。「一条さんが雄吾さんを好きでも、それは一条さんの気持ちです」「ああ」「私にはどうにもできません」「ああ」「だから私は、私が嫌なことだけ言います」 雄吾が少し笑った。「それでいい」「はい」「俺も同じにする」「雄吾さんも?」「絢子がどういうつもりかじゃなくて、何をしたかで判断する」 佳苗は頷いた。 それなら。 もう絢子の言葉一つ一つに、振り回されなくていい。 そう思えた。     ◇ けれど。 絢子が悟への連絡を絶っても。 悟の方は終わっていなかった。『あの女と話した』 佳苗のスマートフォンに、またメッセージが届いた。『一条って女、榊原のこと好きなんだろ』 佳苗は返信しなかった。『お前、知ってたのか?』 無視する。『榊原の母親とも家族みたいな付き合いらしいな』『お前、あの家で本当にうまくやれてるのか?』 佳苗の指が止まった。 絢子が悟へ話した内容なのだろう。 以前なら。 胸の奥に刺さっていたかもしれない。 けれど今は。 佳苗は画面を閉じた。「……関係ない」 悟に心配されることではない。 自分と雄吾の関係は。 自分と雄吾で決める。     ◇ 数日後。 悟は焦っていた。
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二人の未来

「いつ行くんですか?」 佳苗はパンフレットを開きながら尋ねた。「来週末。空いてるか?」「はい」「じゃあ予約する」「……早いですね」「嫌か?」「嫌じゃないです」 むしろ。 二人きりで旅行へ行くことが嬉しかった。 雄吾と暮らしていても、最近は絢子や美佐子、悟の話ばかりだった。 誰かの気持ちを考えて。 誰かとの境界を決めて。 いつの間にか、二人だけの時間が減っていた。「楽しみです」「そうか」 雄吾が笑う。 その顔を見て。 佳苗も自然と笑った。     ◇ 一週間後。 二人が訪れたのは、山間にある静かな温泉地だった。「すごい……」 案内された部屋の窓からは、山々が見渡せた。 少し色づき始めた木々。 川の流れる音。 そして、部屋には小さな露天風呂までついている。「雄吾さん」「ん?」「ここ、高かったんじゃないですか?」「最初に言うことがそれか」「だって……」「気にするな」「でも」「佳苗」「はい」「今日は金の心配禁止」「……そんな禁止あります?」「今作った」 佳苗は思わず笑った。「横暴です」「知ってる」 そんなやり取りさえ。 今日は妙に楽しかった。     ◇ 夕食を終えて。 二人は部屋へ戻った。 窓際の椅子に並んで座る。「静かですね」「ああ」「家も静かですけど」
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もう連絡しないで

『佳苗にどうしても話したいことがある』 絢子は画面を見つめた。 返信するつもりはなかった。 雄吾にも佳苗にも、もう悟とは関わらないと約束した。 それに。 佳苗が今どこにいるかなど、自分も知らない。 美佐子から聞いたのは、二人で旅行に行っているということだけだ。『知りません』 それだけ送った。 すぐに返信が来る。『旅行行ってるんですよね?』 絢子の指が止まった。『何で知ってるんですか』『一条さんが前に榊原の母親と仲いいって言ってたから』『知ってるかと思っただけです』 悟は知らない。 探りを入れただけ。 絢子は小さく息を吐いた。『場所は知りません』『知っていても教えません』『もう私に連絡しないでください』 送信する。 今度こそ。 これで終わり。 そう思った。     ◇ 一方。「……使えねえな」 悟は舌打ちした。 絢子なら何か知っていると思った。 だが。 佳苗が旅行に行っていることだけは分かった。 榊原と。 二人きりで。「何なんだよ……」 自分はこんな状態なのに。 仕事を失って。 金にも困って。 毎日どうするか考えているのに。 佳苗は金持ちの男と旅行。 あまりにも不公平ではないか。 自分と結婚していた頃。 佳苗はそんな女ではなかった。 贅沢などほとんど言わなかった。 自分のために金を使うことも少なかった。「榊原に変えられたんだ」 悟はそう呟いた。 自分が知っている佳苗なら。 こんな自分を放っておくはずがない。 困っていると言えば心配した。 頼めば助けた。 それが。 今は連絡すら無視する。「一回、ちゃんと会えば……」 話せば分かる。 そう思っていた。     ◇ 温泉地の朝。 佳苗は目を覚ますと、しばらく布団の中でぼんやりしていた。 昨夜。 雄吾と話したことを思い出す。『俺は、佳苗との先を考えてる』『ちゃんと俺たちの始まりにする』「……」 思い出すだけで顔が熱くなった。 プロポーズではなかった。 けれど。 いつか結婚する。 それを二人で確かめられた。 佳苗にとっては、それだけで十分だった。「起きたか?」「……はい」 隣の部屋から雄吾の声がする。 この旅館でも、寝室は別にしてもらっていた。 雄吾は急かさない。 何も。 佳苗
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母なら分かってくれる

 佳苗の母親の連絡先は、まだ悟のスマートフォンに残っていた。 離婚してから、一度も連絡していない。 さすがに気まずさはある。 だが。 悟はしばらく迷った末、電話を掛けた。 数回の呼び出し音。『……もしもし?』「ご無沙汰しています。藤倉です」『藤倉……悟さん?』「はい」 母親の声が明らかに変わった。『どうしたの、突然』「佳苗のことで、少しお話ししたくて」『佳苗?』「俺、佳苗に連絡してるんですけど、全部無視されてて」『……』「とうとうブロックまでされたみたいなんです」『そうなの?』「はい」 悟は少し声を落とした。「俺も、悪かったと思ってます」『……』「離婚のときは色々ありましたけど、今は反省してるんです」『そう……』「だから、一度ちゃんと話したいだけなんです」 嘘ではない。 少なくとも悟自身は、そう思っていた。「でも、佳苗が話も聞いてくれなくて」『あの子、昔から頑固なところがあるからねえ』 その言葉に。 悟の顔が少し明るくなる。 やはり。 この人なら分かってくれる。「そうなんですよ」『一度こうって決めたら、人の話を聞かないところがあるのよ』「はい」『私にも最近、ずいぶん冷たいし』「……そうなんですか?」『そうなのよ』 母親の声に、不満が混じる。『雄吾さんと暮らすようになってからかしらねえ。何だかすっかり変わっちゃって』 悟の眉が動いた。「や
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会社の前で

 翌朝。「本当に会社へ連絡するんですか?」「ああ」 雄吾は迷わなかった。「悟が来ると決まったわけじゃないです」「来てからじゃ遅い」「……」「大げさだと思うか?」「少しだけ」「佳苗」 雄吾が真っ直ぐ佳苗を見る。「連絡するなと言われて、普通は母親に連絡しない」「……はい」「しかも母親を使って会わせようともしない」 そう言われると、何も返せなかった。「会社には、元夫が来ても取り次がないでほしいと伝えるだけでいい」「分かりました」「帰りも、しばらく気をつけろ」「はい」「迎えが必要なら言え」「そこまでは大丈夫です」「そうか」 雄吾はそれ以上言わなかった。 佳苗も、自分の会社へ事情を伝えた。 離婚した元夫から繰り返し連絡を受けていること。 今後、訪ねてくる可能性があること。 もし来ても、自分を呼び出さないでほしいこと。 少し恥ずかしかった。 けれど。 伝え終わると、不思議と安心した。     ◇ その日の夕方。「朝倉さん」 退勤の準備をしていた佳苗に、同僚が声を掛けた。「はい?」「受付から連絡」 胸がざわつく。「……何でしょう」「藤倉悟って人、知ってる?」 身体が固まった。「……元夫です」「やっぱり」 同僚の表情が曇る。「来てるみたい」「……」「でも朝言ってたから、受付で断ってくれてるって」 来た。 本当に。「ありがとうございます」「大丈夫?」「はい」 そう答えたものの。 指先が冷たかった。     ◇「佳苗に会わせてください」 悟は受付で苛立っていた。「申し訳ございません。お取り次ぎできません」「何でですか?」「本人から、そのように申しつかっておりますので」「俺、元夫なんですよ」「存じ上げております」「だったら少しくらい――」「お取り次ぎできません」 同じ答えしか返ってこない。「話すだけなんです」「申し訳ございません」「じゃあ、ここで待ちます」「業務の妨げになりますので、お引き取りください」 悟の顔が歪む。「……佳苗がそう言ったんですか?」「お答えできません」「本人に聞くだけでも――」「できません」 周囲から視線を感じる。 悟は舌打ちした。「分かりましたよ」 仕方なく、建物を出た。 だが。 帰るつもりはなかった。   
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返事をしない

『今日、佳苗に会いました』 絢子は、そのメッセージをしばらく見つめていた。 会った。佳苗に。 胸の奥に嫌な予感が広がったが、返信はしなかった。自分はもう悟に関わらない。そう決めたのだから。 数分後、またメッセージが届いた。『会社まで行ったんです』『でも榊原が迎えに来て』『結局まともに話せませんでした』 絢子の指が止まった。 会社まで行ったのか。『あいつ、いつも邪魔するんですよ』 続けて届いた言葉に、絢子は眉を寄せた。 以前、悟と話したときにも感じていたことだった。 この男は、佳苗自身の意思を認めようとしない。佳苗が自分を拒絶しているのではなく、雄吾が邪魔をしているのだと思い込んでいる。『一条さんなら分かるでしょう?』『あんただって榊原と話したいのに、佳苗のせいで距離置かれてるんだから』「……違う」 思わず声が漏れた。 確かに、佳苗さえいなければと思ったことは何度もある。今だって佳苗が羨ましい。雄吾に選ばれた佳苗が、どうしようもなく妬ましい。 けれど、だからといって嫌がる佳苗の会社まで押しかけていいとは思わない。 絢子は画面を閉じた。 返事をするつもりはなかった。     ◇ 翌朝。「今日は送る」 朝食を終えた雄吾が言った。「会社までですか?」「ああ」「大丈夫ですよ」「昨日の今日だ」「でも、悟もさすがに――」 言いかけて、佳苗は口をつぐんだ。 ――さすがに。 その言葉はもう、悟には使えない気がした。「……お願いします」「ああ」 以前なら、雄吾に迷惑を掛けたくないと断っていたかもしれない。けれど今は、一人で何もかも抱えることだけが自立ではないと
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