「透さん」 「ん? また赤ペンか」 「今日は青ペンです」 「色の問題ではない気がする」 「では、心構えの問題ですね」 透はコーヒーカップを持ったまま、妙にきちんと背筋を伸ばした。 「君のペンに緊張する日が来るとは思わなかった」 「光栄です」 「褒めてはいない」 「でも、悪くもないでしょう」 返事に困ったように黙る彼が少し可愛くて、私は紙面に視線を戻しながら笑いを噛み殺した。 「ここの『家庭環境に恵まれない』という表現、少し変えましょう」 私は該当箇所をペン先で二度叩いた。 「これだと、まるで家庭の『運』だけが問題みたいに読めてしまうわ。私たちが支援したいのは、家で傷ついても助けを求められず、制度にもつながれていない子どもたちよ」 「なるほど。『恵まれない』だと、最初から線を引いてしまうな」 透がコーヒーカップを片手に、私の背後から覗き込んだ。 彼のシトラスの香りが、ほのかに鼻をくすぐる。 「なら、『社会的養護の枠組みから孤立した児童に対し』とするのはどうだろうか」 「ええ。対象と、制度からこぼれた理由を、同じ段落に置きましょう。あとで一文だけ抜かれても、元へ戻れるように」 私は透が提案した文言を、空いた余白にカリッ、カリッと書き込んでいく。 私は言葉を整えるこの技術を、誰かを切り捨てるためではなく、声を持てない子どもたちが、いなかったことにされないように使っている。 ペン先が紙を走る音を聞きながら、私は胸に深く、確かな熱が広がるのを感じていた。 透は私の横顔をじっと見つめていた。 「温室でも、その顔で僕の襟を掴んだ」 透は、私のペン先を見たまま続けた。 「今度は紙で済んでいる。あの時は君の指が僕の襟に食い込んでいた。……紙で済ませてほしいなら、僕も勝手に君の結論まで書かないことだな。君が怒る前に聞く。そういうことだろう」 私はボールペンを置き、彼を見上げた。 「よく分かっていますね。紙で済ませてほしいなら、勝手に一人で結論を出さないこと。次は青ペンではなく、何度でも襟を掴み
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