All Chapters of 死ぬために嫁がされた私、二度目の転生で冷酷御曹司と運命を変えます: Chapter 151 - Chapter 152

152 Chapters

第151話 二人目の花嫁③

 彼は私が否定した事実を無視し、バインダーに挟まれたカルテに、万年筆でスラスラと何かを書き込み始めた。 前世の会議室で、役員たちが私の言葉を切り捨てて「彼女が責任逃れをしている」と決めつけた時と、まったく同じ空気。 病名は、彼がこの部屋に入る前からすでに決定しているのだ。「心配はいりません。心を落ち着かせ、ゆっくり睡眠を取るためのお薬をお出ししておきます。……奥様も、あなたの回復を心から願っておいでですから」 吉見はそれだけを言い残し、診察らしい診察もせずに鞄を持って部屋を出て行った。 残されたのは、黒瀬と私だけ。「……」 黒瀬は一切表情を変えずに扉の前に立ち尽くしている。 彼の瞳の奥で、どれほどの葛藤と絶望が渦巻いているのか。私に逃げるように警告した彼が、結局は自らの手で私の部屋の鍵を閉め、主治医を呼び、過去の死者たちと同じレールの上に私を乗せる手伝いをしている。 午後七時。 無表情な見知らぬメイドが、夕食のワゴンを運んできた。 黒瀬がそれに同行している。 完璧な温度で提供された、彩り豊かなコース料理。 けれど、私の視線は、食後のハーブティーが注がれた、あの白い磁器のティーカップにだけ釘付けになっていた。 メイドが下がり、黒瀬が私の前のローテーブルに、そのカップを置いた。「吉見先生から処方された、お心を休めるためのお薬が入っております」 黒瀬の声は、ひどく掠れていた。「奥様からも、必ずすべてお飲みになるようにと、厳命されております」 最後の一文だけ、命令文のように硬かった。黒瀬自身に言い聞かせているようにも聞こえた。 湯気が、薄暗い部屋の空調の風に流されて、私の顔を撫でる。 カモミールの香りに混じって、鼻腔の奥をチリッと刺激する、異質な匂い。 錆びた鉄のような、苦い匂い。 ――お湯に溶かすと、少しだけ、錆びた鉄のような、苦い匂いがしました。 千尋の言葉が、脳裏に生々しく蘇る。 二人目の花嫁が飲まされ、夜中に廊下をうわ言を
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第152話 二人目の花嫁④

 私はそれ以上彼を責めなかった。 カップを唇に近づけ、ゆっくりその錆びた鉄の匂いのする液体を口に含んだ。 舌の根を刺すような、強烈な苦味と薬品の味が、ハーブティーの甘さを突き破って広がる。 私は顔をしかめることなく、それをゴクリと喉へと飲み込んだ。 一口、また一口。 最後まで飲み干し、空になったカップをソーサーに戻す。 カチャリ、という音が、静寂の部屋に響いた。「……お下げいたします」 黒瀬は逃げるようにワゴンを手繰り寄せ、部屋を出て行った。 外側から鍵がかけられる音が聞こえる。 一人残された部屋。 五分もしないうちに、薬の効果が私の肉体を侵食し始めた。 指先から感覚が薄れ、まるで水の中に沈んでいくような、圧倒的な重さが全身にのしかかってくる。 視界の端が、ぼやけて白く濁り始めた。 クローゼットの壁に刻まれた、『10/25 あたまがしろい』という文字の意味を、私は今、自らの肉体で正確に理解していた。 思考の輪郭が、消しゴムでこすられたように曖昧になっていく。 自分が自分でなくなっていくという、本能的な恐怖。 怖い。 意識を手放せば、次に目覚めた時、私は本当に狂人のように喚き散らしているかもしれない。 私はソファから滑り落ちるように床に這いつくばり、カーディガンのポケットから革張りのメモ帳とボールペンを取り出した。 手が言うことを聞かない。 震える指先でページを開き、ペンを握る。 薬で濁っていく意識を、強引に、痛みを伴うほどの集中力で一点に集める。『日付不明 夜。黒瀬を通じて、吉見処方の薬を服用。錆びた鉄の匂い』 書き殴った文字は、ミミズが這ったようにひどく歪み、行をはみ出していた。『意識の混濁。千尋の証言通り。これが、二人目の花嫁を殺した手口』 視界がぐるぐると回り、胃の奥から強烈な吐き気がせり上がってくる。 けれど、私はペンを離さなかった。 過去の花嫁は、この部屋で、自分の意識が奪われていく絶望の中で
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