心臓が冷たい手でぎゅっと握り潰されるように収縮した。「それから、お加減が良くなることはなく……そのまま、お二人とも、お屋敷からいなくなってしまわれたので。使用人の間では、あの白い花が飾られると、お嬢様方はもう……」 そこまで言って、千尋はハッとしたように両手で自分の口元を覆った。 自分が「禁じられた話題」を、それも新しい婚約者に向かって口にしてしまったことへの強烈な後悔と恐怖で、彼女の顔面から急に血の気が引いていく。「も、申し訳ございません! 私、根拠のない噂話を……忘れてくださいませ!」 千尋は深く、震える身体で頭を下げた。「いいのよ、千尋さん。教えてくれてありがとう」 私は立ち上がり、彼女の震える細い肩にそっと手を置いた。「これは、私とあなただけの秘密にするわ。誰にも言わない」 千尋は涙ぐんだ目を瞬かせ、何度も頭を下げながら、逃げるようにワゴンを押して部屋を出て行った。 カチャリと扉が閉まる。 私は一人、サイドテーブルの上のクリスタルの花瓶に向き直った。 肉厚で、透き通るように白く、作り物のように美しい花。 この花は、ただの装飾ではない。 美津子が設定した「精神的失調」という死へのレールに乗せられたターゲットに対する、明確な『カウントダウンの開始』を告げるマーカーだ。 最初から、私がこの屋敷に入った初日から、美津子はこの花を私の部屋に置いた。 つまり彼女は、過去の婚約者たちのように時間をかけて徐々に追い詰めるのではなく、最初から私を「手早く処分する」つもりで、そのスケジュールを起動させている。 そして、あのダイニングの『空席』の下に落ちていた花びら。 あれは偶然落ちたのではない。美津子が、「次はあなたがここへ来るのよ」という呪いを視覚的に植え付けるために、わざと配置した舞台装置だ。 私は花瓶に手を伸ばし、その花の一輪を指先でそっと摘み上げた。 ビロードのように滑らかな花びらの感触。 そして、水に浸かっているはずの茎の切り口。
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