『天野グループの飛躍』『次期当主・天野透の手腕』。 そんな提灯記事ばかりが並ぶ中で、ある日、父が忌々しそうに舌打ちをして、ゴミ箱に丸めて捨てた一冊の週刊誌があった。 私はそれを拾い上げ、何気なく目を通した。 そこには、天野グループの強引な企業買収の裏にある資金の流れの不透明さや、過去の役員に関する黒い噂を、しつこく、けれど筋道立てて追った記事が載っていた。 父は「こんな三流記者の戯言を真に受けて、天野家の御機嫌を損ねるわけにはいかん」と怒り狂っていた。 その記事の最後に記されていた、短い署名。 私は頭の中の引き出しをひとつずつ開けるように、その名前を探し当てた。 ――佐伯。 ――佐伯、律。 そうだ。佐伯律。 フリーの経済誌記者か何かで、天野グループを執拗に追っているという男。 彼なら。 彼が天野グループの内部を嗅ぎ回っているのなら、過去の不審な事故や、あの温室の火災についても、何らかの情報に触れている可能性がある。 それに、彼にとって、天野家本邸の内情を知る私からの情報提供は、喉から手が出るほど欲しい餌のはずだ。 取引ができるかもしれない。 彼に外部の公式記録を調べさせる。代わりに、私はこの屋敷の内部から、切り取られない形で情報を渡す。 私は顔を上げ、部屋の大きな窓へと歩み寄った。 分厚いガラスの向こうには、完璧に整備された広大な庭園が広がっている。 この物理的な檻から、どうやって佐伯律に接触するか。 手紙を出すのは危険だ。投函する前に黒瀬の検閲に引っかかる。 ならば、私自身が屋敷の外に出るしかない。 堂々と、屋敷の外の人間と接触できる公式な理由。 思考を巡らせる。 私は天野家の「正式な婚約者」だ。 美津子は私を社交の場で「透の重荷」として見せつけることには積極的だった。 ならば。 『婚約者として、ふさわしい教養や作法を身につけるためのお稽古』、あるいは『結婚式に向けた衣装の仕立て』という名目であれば、どうだろう。 天野家の体面を気にする彼女なら、私を閉じ込めているよりも、外部の目に晒して「可哀想な娘」という印象を補強した方が都合がいいと考えるかもしれない。 私は窓枠に置いた指先に、強く力を込めた。 待っているだけではだめだ。 こちらから仕掛けなけれ
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