結婚して4年。周防律人(すおう りつと)の口癖は、いつも「待って」だった。旅行に行きたいと言うと、彼は「プロジェクトが終わるまで待って」と言う。結婚記念日を祝いたいと言うと、「会議が終わるまで待って」と言う。実家に両親の顔を見に行きたいと言っても、「次の休みまで待って」と言う。しかも今日は、私・周防汐里(すおう しおり)の誕生日だった。半月も前から、夜に時間を空けられるか彼に確認していた。彼からは大丈夫だと返事をもらっていたので、私は午後をかけて彼の好きな料理を作り、帰りを待っていた。けれど、夕方6時から夜9時を過ぎても、彼が戻る気配はない。そのとき、テレビで今日のニュースが流れた。「周防グループ社長が、雨の中『初恋の人』をお迎えしています!2人に復縁疑惑が浮上!」聞き覚えのある名前に、反射的に顔を上げた。そこには、傘を差し出し、薄着の女をしっかりと抱き寄せている彼の姿があった。ビルからマイバッハまでは目と鼻の先だ。それでも彼は、彼女が濡れないように傘を大きく傾け、自分の肩をずぶ濡れにしていた。スマホがラインの通知音を鳴らした。律人からのメッセージだった。【用事があったんだ。すぐ帰る】今までもずっと待つのが当たり前だったし、いつものように食卓でじっと待ち続けるつもりだった。でも、ずぶ濡れになったスーツを見ていたら、もう待つのはやめようと、急に心が冷めた。私は1人でロウソクに火をつけ、誕生日の願い事をした。【これからの1年、私が幸せであるように】これは結婚してから4年で初めて、律人のことを願わなかった誕生日の願いだった。これまではいつも、律人と一生添い遂げられますようにと願っていたのに。今はただ、自分の幸せだけを考えていた。ロウソクを吹き消すと、ケーキにフォークを入れる。ブルーベリー味。律人が好きな味だ。自分の誕生日でさえ、全部彼の好みを優先してきた。口に入れた瞬間、どうしても馴染めない酸味が広がった。嫌いなものは、無理に好きになれるはずもない。ケーキも、彼自身も。いくら慣れようとしても無駄だったのだ。私はチケット予約サイトを開き、今夜、実家へ向かう最終の寝台列車を予約した。結婚してからは、一度も実家に帰っていない。帰りたいと言うたびに彼は「忙しい。時間
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